1455話・都督との会食
何とか傭兵団の登録を終えたデーイー達。
色々とバタバタしてしまった所為か、時刻は午後の4時半を回っていた。
「う~ん……思ったより時間が掛かっちゃったなぁ」
ぐったりとソファーに寝転がりながら呟くディーイー。
「フフッ…慣れない環境で、慣れない手続きと言うのは心身共に疲れるものですからね」
などと隣に座り同調するハクメイだが、言葉とは裏腹に随分と元気な様子だ。
流石は本当の15歳である。
「で、晩餐に呼ばれてるなら、それなりの格好をしなきゃならんよな。そんな服、俺は持ってないぞ」
と嫌そうに言ったリキは、皆の格好を見渡した。
『う〜む…俺とガリーさんがヤバそうか、』
権威者の晩餐に招待される…これは謂わば出世の糸口であり、一介の傭兵や冒険者には絶対に逃したく無い機会だ。
故に有り金を叩いて何とか衣装を用意したりする。
しかしながらリキにとって予想外の展開であり、簡単に衣装を用意出来る訳も無かった。
『うぅぅ…何とかしたいが、今後の生活費が…』
屈強な傭兵だろうが冒険者だろうが、食べねば為らないし雨風を凌ぐ寝所も必要になる。
それら全てに金が掛かるのだから、組織に所属しない自由な単身も中々に大変なのだった。
そんなリキの状況を察した…のかは分からないが、ディーイーが皆を見据えて言った。
「今後の生活費や活動費を、皆んなは心配しなくても良いからね」
これに当然の如く反応するリキ。
「え…ディーイーさん、大丈夫なのか?」
「ここに居る皆んなは、私の傭兵団"眠りの森"の仲間だからね。団長の私が諸々の資金を用意するのは当然だよ」
「おぉ!! ありがたや〜〜!」
するとシンがソッとディーイーの傍に屈んで告げる。
「ですが今から礼服を調達するのは、全員分を考慮すると時間的に厳しいかと…」
最早その振る舞いは、優秀な秘書官か補佐官である。
「フフッ…流石はシンさんだね。え〜と…会食は何時からだっけ?」
「午後の7時です。移動を鑑みれば中町の関所を、6時には通過しておかねば為りませんね」
「後1時間ちょいか…」
と呟きながらディーイーは感心していた。
シンが配慮して具体的な時間を提示した為だ。
『只の侍女のままにするには勿体無いな』
皆が不安そうな表情を浮かべた。
金が有っても時間が無い。
このままでは会食に相応しい格好が出来ず、恥を掻くのは明白だ。
また傭兵団・眠りの森は資金力が無く、格も低いと認識される事になるだろう。
これは傭兵団として最悪の出発点となり、今後の活動に支障が起き兼ねない事態だ。
傭兵として玄人なリキとガリーは、先を見通したのか特に悲壮な表情を浮かべていた。
「ど、どうするんだ…?」
「ディーイー……」
「おいおい…そんな捨てられた子犬みたいな顔をしないでよ」
余りにも2人が悲壮で、ついディーイーは笑ってしまうところだった。
『やれやれ……傭兵の名声なんて、後から幾らでも上げれるだろうに。何をそんなに心配するのやら…』
「だってぇ~~」
と珍しく女々しい態度をとるガリー。
片やハクメイはディーイーへ全幅の信頼を置いているのか、全く心配していない様子だ。
「お姉様…何か妙案が御有りなのでは?」
「まぁ~ね。取り敢えずギルドで個室を借りられないかな? ちょっとした商談や会議とかで使えるような広さで良いんだけど」
直ぐに反応するシン。
「それでしたら音漏れ防止がされた部屋を、確か50聖貨で1時間借りられた筈です」
「おお~! 流石はシンさん!」
そうシンを褒めた後、ディーイーは「どっこいしょ」とソファーから起き上がって続けた。
「じゃぁ早速部屋を借りよう。そこで詳しい話をするよ」
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ギルドには個人的な商談や依頼を行う為、一級から三級までの個室が3種類存在した。
当然一級個室は広く大人数を収容可能で、中央には大きな会議卓が用意されている。
もうここまで来ると個室と言うより大広間で、貸し賃も1時間1000聖貨と中々に高額だ。
二級個室は500聖貨で、一般の会議室と言って良い広さだ。
そしてディーイー達が選んだ50聖貨の三級個室は、中央にテーブルが1つ、それを挟むように2人掛けのソファーが1つずつ配置されている。
「うん、丁度良い広さだね。じゃぁリキさんは少し外で待ってて」
「え……お、おう……」
そうディーイーに言われて、一人寂しく個室の外に立たされるリキ。
『えぇぇ?! 俺だけ除け者扱い?!』
しかし団長の指示なので従わざるを得ない。
そうしてディーイーは個室に残った4人を見渡して言った。
「さて、皆は下着姿になってくれる?」
「え? 服を脱ぐのですか?」と戸惑うシン。
「は~い! 承知しました、お姉様!」などと全く疑う様子を見せないハクメイ。
ディーイーが無意味な事を指示しないと知っているので、ガリーも素直に頷いた。
「うん、分かった」
ティミドはと言うと、突拍子も無いが何時もの事と認識していた。
なので早々に服を脱ぎ始める…多少のボヤキは有るが。
「はぁ……大体予想はつきますが、前もって説明された方がよろしいのでは?」
「フフッ…では皆の準備も出来た事だし、団員服を支給するわね」
「団員服ですか…?」
まさかの展開にシンは目を丸くする。
「実は私専属の意匠師が居て、その子に色々と服を用意して貰っていたの。元々は団員服の予定では無かったけど、まぁ有る物は使わないと意味が無いからね」
そう答えたディーイーは何処から取り出したのか、次々に衣装を出してテーブルやソファーの上に置いた。
「わぁ~~綺麗な布地ですね」
置かれた衣装を見てウットリするハクメイ。
「いや……驚くのは、そこじゃ無いでしょ…一体どこから出したの?」
今更になって驚くのも馬鹿らしいが、今まで募っていた率直な疑問をガリーは口にした。
「ん? あぁ~~この指輪…収納魔導具から出したんだよ。これよりは多少性能は落ちるけど、ちょっとした旅の荷物位は、簡単に収納できる指輪を皆にも渡すよ」
幾ら相手が”あの聖女王”でも、余りにも常軌を逸している。
その所為かガリーは、「え……えぇぇ?!」と声を上げて暫く硬直してしまう。
当然、皆も一緒で呆気に取られて無言になるのだった。
因みに永劫の騎士のティミドは、過ぎた主君の施しに頭を抱えるのであった。
『もうプリームス様ったら…収納魔導具は私達の特権なのに!』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




