1451話・南門省四方京
龍国の最南端に位置する南門省は、神獣の加護を受けられない辺境領で在りながら、辺境随一の繁栄に至っていた。
その理由は海上貿易に因る所も大きいが、偏に試練級の大迷宮が最大の要因だろう。
元より人の往来が頻繁だった上に、大迷宮へ挑戦しようと集まる人間が後を絶たなかったのだ。
これにより迷宮特需と呼ばれる程の経済効果を生んだ訳である。
また迷宮より産出される資源や、地上では稀有な魔獣の体も経済に影響を与えた。
これらは魔導具などの素材として、非常に高値で取引されたからだ。
しかしその経済発展の反面、人の往来が多い事で治安に問題が生じる。
特に冒険者や傭兵など、無頼漢の素行が原因で諍いが多発した。
これが100年前の話だ。
そして現在では多くの諍いや困難を経験に、凡ゆる事が政策により改善された。
最も効果を発揮した政策は往来の制限だ。
先ずは領民の徹底した戸籍登録を行い、流入する外国籍人や無国籍人を識別したのだった。
そうして領民だけが出入り可能な区域を設け、治安を著しく改善したのである。
その区域と言うのが、高い城壁に囲まれた内郭…中町だ。
この中町の中心には都督府と都督の居城が在り、それを囲むように領民の住居が広がる。
もちろん中町に繁華街も存在するが、ここで営業出来るのは、行政の厳しい審査を通った商人だけとなる。
以上の説明をシンから聞き、ディーイーは感心した様子で呟く。
「成程…南門省は迷宮と共に成長した領地なんだね」
しかし昼食を口に含んだままなので、色々と飛んで大変な有様だ。
現在ディーイー等は、南町の中級宿・満腹亭に来ていた。
此処は食事処だが、2階に宿泊用の部屋も完備していて、旅行者だけで無く冒険者なども利用可能だ。
また以前にガリーが利用した事もあり、利便性の良さでディーイー等を案内したのだった。
「お姉様…ちゃんと飲み込んでから喋って下さいね」
などと注意をしながらディーイーの口元を拭うハクメイは、少し嬉しそうに続ける。
「でも、そんなお姉様も可愛らしくて好きですよ」
「うひひ…褒められた」
戯けるディーイーに、テーブルを挟んで正面に座るティミドが頭を抱えた。
「はぁ……ディーイー様…それは褒め言葉では有りませんよ」
そして、その右隣に座るガリーが苦笑しながら言った。
「フフフッ…兎に角、傭兵ギルドの登録を済ませて、それから身分証の発行だから。直ぐに迷宮に潜ったりは出来ないからね」
「へ? そうなの? 内郭の中町に入れないだけじゃないの?」
「いや…迷宮関連の犯罪防止で、ちゃんと冒険者ギルドか傭兵ギルドに登録してないと入れないよ。それでも諍いが後を絶たなくて…まぁそれだけ迷宮産の素材が儲かるからなんだけど」
うんうんと頷きながリキも続く。
「略奪目的で潜ってる奴も居る。こう言う奴らは同業者を殺めるのも平気でな、ここに来る前は犯罪者だった奴ばかりだ」
因みにリキは体躯が大きいので、収まり切らずに寂しく隣のテーブルだ。
「ふ〜む…で、この都市が南門省って言うの?」
ディーイーが急に話を変え、ガリーが苦笑いを浮かべた。
「いや、南門省はイェシン家の領土全体の名称だよ。ここは四方京って呼ばれてるの」
「しほうきょう…?」
「うん。何でも大昔は此処を副都心にする予定だったみたいだよ。だから"京"が付くの」
ガリー曰く、四方は四方角の神獣を指しているそうだ。
つまり南門省は北方全体を、小さく模した都市と言える。
「ふむ…成程。でも大きな迷宮が出来ちゃったから、辺境になって副都心計画も頓挫したのか」
「うん。まぁ未だに交通の便は良いし、副都心計画か頓挫しても俺たちには関係ないけどね」
そう返したガリーは箸を置いて続けた。
「で、ここに泊まる?」
『んん?』
暗に催促するようなガリーに、怪訝さを感じるディーイー。
「そうね…ご飯も美味しいし、部屋が並に清潔なら私は構わないよ」
仲間を勘繰っても詮無いので、取り敢えずは了承した。
「じゃあ決まりだね。俺から女将さんに言って部屋を用意して貰うよ」
と言って立ち上がったガリーは、早々に奥の厨房へ向かって行った。
「宜しいのですか?」
ソッとディーイーに尋ねるティミド。
彼女もガリーの違和感に気付いたのだ。
「別に問題無いよ。此処に何か個人的な伝手が有るのかも知れないし、いちいち勘繰ってたら身が持たないわ」
「左様ですか…」
釈然としないティミドだが、そう主人が言うなら納得するしか無い。
それでも警戒…もとい、それとなく調べた方が良さそうに思えた。
『はぁ…土地勘も伝手も無いし、色々と苦労しそうね』
だが自分には幼少期から単身で列国を歩き、詳細な地図を描き上げた実績がある。
今は主君と仲間が傍に居て、あの時と比べれば屁でも無い。
微妙な空気の中、気にする事も無くハクメイが言った。
「これから傭兵ギルドに向かうのですよね? これで私も1人の傭兵になるかと思うと、何だか感慨深いです」
「フフッ…いつもハクメイは前向きで良い子ね」
和み掛けるディーイーだが、失念していた事に気付く。
『あ……待てよ。火炎島領督の娘が傭兵って、絶対に怪しまれるよね』
ディーイーはテーブルに身を乗り出し、小声でティミドに告げた。
「このままハクメイが、ロン-ハクメイとして登録するのは不味いよね」
これにキョトンとするティミド。
「え……その危惧を承知の上かと思っていたのですが、」
「えぇぇ…?! 気付いてたなら教えてよ〜〜」
「え? あ…申し訳ありません」
結果、何故かティミドが謝る羽目に。
そもそも主君に怖い物など無い筈で、多少の問題なら強引に解決すると思っていたのだ。
「ん〜?」
片や当事者であるハクメイはと言うと、何が不味いのか分からず首を傾げるばかりであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




