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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章IV・月の姫 (短編集)
1564/1769

月の姫(20)

フィートとフラウが応接室に案内され、15分も経たない内にクシフォスが戻って来た。

普通なら突発的な面会は、貴族ならば来客を1時間は待たせたりする。


また大貴族などなら下手をすれば、その日に謁見や面会が出来ない場合も有り得るのだ。

なのにクシフォスは、ものの15分…明らかに早過ぎると言えた。



「急に押し掛けた形ですのに、申し訳有りません」

とフラウはソファーから立ち上がって首を垂れた。

因みにフィートはと言うと、最低限の礼節として同じく立ち上がるだけだ。



これにクシフォスはドカリと向かいのソファーに座り、

「いやいや構わんさ。取り敢えず掛けてくれ」

藹々(あいあい)たる雰囲気で返す。



こうして和やかな空気の中、舎人研修の話が始められた。



「さて、お嬢ちゃんは通いか? それとも泊まり込みか?」



クシフォスの端的過ぎる問いに、フラウは苦笑いを浮かべる。

『相変わらず大雑把な方ですね』

「何か不都合が無ければ、一応は通いを予定しています」


普通ならば執事や専属の舎人が間に入るのだが、今回は大公爵自ら手続きをするようだ。

それ自体は別に構わないのだが、大雑把過ぎて手落ちにならないかフラウとしては心配な所である。



「ふむ…確か王都の端っこだろ? そこから通いは面倒だろうに。1週間程度なら泊まり込んでいったらどうだ?」



クシフォスの提案に、フラウはフィートを見やった。

全てはフィートの意思次第だからだ。

勿論、危険が伴う事が有れば、そこは安全を最優先にして譲るつもりは無い。



するとフィートは端的に答えた。

「お世話になります」



『早っ!』

ズッコケかけるフラウ。

もっと考えて欲しい…などと思いつつもクシフォスへ告げた。

「と、申しております」



「はははっ! 気風が良い嬢ちゃんだな。よし、1週間快適に過ごせる環境を用意させよう」



「嬢ちゃんでは無く、フィートです」



「すまんすまん。仕事なんだしな、子供だからって失礼だったか。ではフィート嬢、1週間の研修は俺の補佐を頼むぞ」



意表を突く大公爵の言い様に、フィートは僅かに目を丸くした。

「え……いきなり閣下の補佐ですか? 専属の舎人の方が居られるのでは?」



クシフォスは苦笑いを浮かべる。

「いや、それがだな…俺が悪いのか相手の根性が無いのか、全く長続きしなくてな。直ぐに辞めちまうんだよ」



鷹揚で大雑把なクシフォスの性格は、貴族の間では有名だった。

同時に人情味が有り、信義に厚いのも良く知られている。

それらを鑑みても舎人が辞めてしまうのは、恐らく他に致命的な問題が有るのかも知れない。


それでもフィートは特に気にならなかった。

『成程…でも私には関係ないわ』

荒野での生活に比べれば、人間が暮らす世界での問題など然して脅威では無い。

「左様ですか。では、その辺りも私なりに調査しましょう」



「調査って……ふはは!」

フィートの反応に、クシフォスは思わず笑いが出た。



「…? 何か?」



「いや…何でもない。兎に角だ、1週間の舎人研修だが、俺の面倒を見る事になるだろう。色々と宜しく頼むぞ、フィート嬢」



フィートは恭しく機械的に首を垂れた。

「承りました」



こうして電撃的に決まったフィートの舎人研修。

しかしながら義父役のフラウとしては、安堵よりも危惧ばかりが募るのだった。

『何も問題が起こらねば良いのですが…』






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






フィートは使用人の女性に案内され、レクスデクシア邸の客室へ来ていた。

そこは3階の角部屋で日当たりもよく、内部は居間、寝室、浴室の3室に分かれていて実に快適そうだ。


「研修に来ただけですのに、こんな立派な部屋を使っても宜しいのですか?」

と無表情に尋ねるフィート。

これは暗に「待遇に見合うお返しは出来ない」と告げているのだ。



しかし使用人の女性は「旦那様の指示ですので」の一点張りである。

つまりフィートと同じく与えられた役目以上の事はせず、また"出来ないし言えない"と告げているのかも知れない。



「そうですか…」

何とも融通が利かず、フィートは少し落胆する。

『この程度の人間が大公爵の邸宅で従事しているのか…』


これがわきまえているのか、はたまた頭が固いだけなのかは何とも言えない。

仮に決まった事しか出来ないのなら、相当に人材の水準が低いと言えるだろう。



その後は侍女に替わり、フィートは屋敷内を案内される。

この侍女は口数も多く、先程の使用人よりは愛想が良かった。

考えるに大公爵に仕える者は貴族が殆どで、見識などの水準が平民より高いからだど思われた。


『それでも優秀とは言えないかもね』

育ちが良かろうが悪かろうが、無能な者は無能である。

要するに先天性の無能は、余程の事が無い限り改善される事は無い…そうフィートは考えていた。



そうして案内の最終地点はクシフォスの執務室だった。



「どうだった屋敷内は?」

侍女を下がらせたクシフォスは、行儀悪く執務机に腰掛けて尋ねる。



「広くて実に綺麗な内装でした。きっと使用人や侍女達が優秀だからでしょうね」



前庭で聞いたような事を言われ、クシフォスは吹き出した。

「ぶはっ! フィート嬢は面白いな…プププ」

そして笑いを何とか抑えて続ける。

「俺が言いたいのは人の質だよ。フィート嬢の率直な意見を聞きたい」



『ほぅ…この方は一応分かっていたのね』

「……僭越ながら"言質"を頂いたと解釈しますよ?」



「おおよ! 構わん、ズバッと言ってくれ」



「分かりました…では、」

フィートは抑揚無く事務的に、また忌憚なく話し始めたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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