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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章IV・月の姫 (短編集)
1562/1769

月の姫(18)

邸宅敷地内へ続く扉から現れた存在。

それは非常に巨大でフィートは目を見張った。

「……!」



「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

と巨大な存在が、片手でフィートを抱きとめて尋ねた。



「え……あ……だ、大丈夫です」

直ぐに抱き留められた腕から離れるフィート。

この巨大な人間に打つかって少々鼻先は居たいが、これと言った怪我は無い。



すると後ろに居たフラウが会釈をしながら言った。

「これはこれはレクスデクシア大公爵閣下。お久しぶりです…」



「はははっ! フラウ・ダートル男爵か。振る舞いは適度だが、その堅苦しい呼び方は止せや」

などと鷹揚に笑いながら大男は返す。

そう、この男が現レクスデクシア大公爵家の当主・二代目武神ことクシフォスであった。



『え…?! この人が大公爵閣下?!』

余りに貴族らしからぬ風貌で、フィートは目を丸くした。

一言で表現するなら、少し品が良い傭兵…そんな感じなのだから当然だろう。



「フフフッ…私の事を名前から爵位まで全呼びでは無いですか、閣下こそ堅苦しいのでは?」



これにクシフォスは楽しそうに笑みを浮かべる。

「歯に衣着せぬ言い様は相変わらずだな。まぁ、そんな所を気に入ってるんだが」



「恐縮です…」

そう返したフラウは、チラッとフィートへ視線を送った。

権威者の相手をする場合、その為人を把握して上手く取り入るべきなのだ。

その実践を彼女に見て貰えているか、それとなく確認したのである。


しかし…そんなフラウの配慮も無駄に終わる。

何とフィートは他所の方向を向いており、全く此方の遣り取りに関心がない様子だったのだ。

『えぇぇ?!』



「ところで、そのお嬢ちゃんは何なんだ? フラウの連れなのか?」



クシフォスに聞かれ、直ぐにフィートの傍へ行って答えるフラウ。

「はい、私の養女でしてフィートと申します。実は此方で舎人の研修をさせて頂く事になりました」

そしてソッとフィートへ囁いた。

「さぁ、ご挨拶を」



フィートはクシフォスへ向き直ると特に畏まる事も無く、軽く会釈して告げる。

「フィート・ダートルです。お世話になります」



『ちょっ!?』

フラウの胸中は焦りで一杯になる。

相手はリヒトゲーニウス王国の2大大公爵の一人なのだ。

そんな相手に素っ気なく挨拶するのだから、流石に肝が冷えてしまう。



対してクシフォスは、ジッとフィートを見つめた後に笑みを浮かべた。

「フフッ…噂通りだな。相手に媚びず全く愛嬌が無い。その反面、実に丁寧且つ迅速な業務作業をこなす。面白そうな嬢ちゃんだな」



ホッと胸を撫で下ろすフラウ。

『やれやれ…どうやら不興は買わなかったようですね』



「噂…ですか? 私は噂されるような著名人では有りませんが?」

などと言ってフィートは首を傾げた。



ニヤニヤしながら答えるクシフォス。

「貴族社会ってのはな、まぁまぁ暇なんだよ。それで俺の所に不愛想な新人が居るって噂が流れてきたんだ」

明らかに値踏みしている風で、フィートに興味津々の様子だ。



「成程……それは余り良い噂では無いですね。私としては気にしませんが、閣下は気にするべきかと?」

皮肉めいた返答には特に気にする事も無く、フィートは逆に辛辣な返しをする。



だがクシフォスも全く気にしない。

「はははっ…! で、俺の所で何回目の研修だ?」



「閣下の所で4回目です」



「ほほう……そうか、そうか。嬢ちゃんよ…俺の耳へ届くように仕組んだだろ?」



まさかの問いにフィートでは無く、フラウの表情が真っ青になった。

『なっ?!』



一方フィートは、大して焦った様子も見せずに首を傾げる。

「はて…? どうしてそう考えられたのですか?」

その仕草は態とらしく、しかも語調は抑揚無く辛辣に聞こえる…相手に因っては怒りを買いかねない振る舞いだ。



気が気でないフラウが見守る中、クシフォスが少し楽しそうに答えた。

「俺は体裁ばかり気にする貴族が嫌いだ。しかし上位貴族に仕える舎人の殆どは、そう言った貴族出身ばかりでよ…正直ウンザリしていた。だから常日頃、俺は会う奴に公言している。愛想が悪くても良い…体裁を気にしない優秀な舎人が欲しいってな」



このクシフォスの言葉は全く答えになっていない。

故にフィートは、いつも通りの反応をして見せた。

「…? 閣下の事情報告など私は求めていませんよ? それとも私の質問の意図を理解してらっしゃらない?」



『ちょっ、?! フィートさん??!!』

つい叫びそうになるフラウだが、そこは何とか堪える事が出来た。

その代わり「これ以上の失礼は止めなさい!」と必死で目で訴える羽目になる。

されどクシフォスと会話をしているフィートが、フラウへ一瞥さえする事は無かった。



自分を大公爵と思っていないような言い様…そんな彼女に、クシフォスは小気味良さを感じた。

『面白いな…この嬢ちゃん』


成人にも満たない10代の少女が、果たして大の大人相手に対して辛辣な台詞を吐けるだろうか?

しかも自分は双璧の一人…武神クシフォスなのだ。


『フッ…少し揶揄ってみるか、』

そうして楽しくなって来たクシフォスは、この愛想の悪い少女と”柔らかめ”の舌戦をしたくなってしまう。

「ハハッ! 嬢ちゃんこそ分かってないな…俺は”暗”に答えたんだ。それを汲めないとは、噂と違って大した事は無さそうだな」



この言葉に、フィートの右眉が僅かにピクリ…と動いたのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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