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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章IV・月の姫 (短編集)
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月の姫(11)

フラウから差し出された手紙を、フィートは怖々(おずおず)と受け取った。

その手紙の内容が決別だったら…と、つい勘繰ってしまったのだ。

しかし危惧と反して手紙の内容は、アポラウシウスの小言や、フィートを心配する事ばかりだった。



「何と書かれていましたか?」

微笑みながら尋ねるフラウ。



「……その顔、初めから手紙の内容を知っていたのですか?」



「いえ、知りませんよ。只、今のマスターは貴女の事を第一に考えていますから、大体の内容は予想がつきます」



『私を第一に…』

フィートは安堵する気持ちと、妙なムズ痒さを覚えた。



「手紙を拝見しても宜しいですか?」



「え? あ……はい。どうぞ…」

少し躊躇われたが、読まれて困る事は書かれていない。



手紙に目を通したフラウは、ニヤリと笑みを浮かべて言った。

「やはり貴女は大事にされていますね」

『これは意外だな…』


フィートを庇護下に置いているのは、アポラウシウスの崇高な使命に関係が有るからだ。

そこには一切の私情など入る余地が無い筈…なのに子を思う親のような文面が、その手紙に記されていたのである。



「本当にそう思いますか?」



「はい。いつも飄々として超絶的なマスターが、貴女の前では恰も人の親のようになります。それだけ貴女が特別なのでしょうね」



「そうですか…」

少し含羞はにかむフィート。



そんな彼女とマスターが、ある意味で似たもの同士なのでは?…とフラウは思えてしまう。

どちらも本心や気持ちを表現するのが下手で、その反面では色々と超絶的なのだ。

兎に角は彼女の機嫌が良くなって、預かる身としては一安心である。


「ところでフィートさん…今後の生活方針なのですが、何か望まれる事はありますか?」



急に話を変えられ、フィートは首を傾げた。

「生活方針…ですか?」



「はい。まあ端的に申しますと人生設計ですね。どんな職種に就き、どんな暮らしをしたいのか。或いは何不自由無く怠惰な生活を送りたい…とかですかね」

後者は極端な例だが、フィートが望むなら不可能では無い。

その方がフラウとしては、寧ろ守り易いと言えた。



「……」

暫く思考した後、真顔で答えるフィート。

「盗賊ギルドのような闇組織を作って、社会を裏から操作するとか?」



「え……本気で言っているのですか?!」

これにはフラウも慌てて聞き返してしまった。



「冗談ですよ」



本気でズッコケるフラウ。

「じょ、冗談なのですか…脅かさないで下さいよ」



「フフッ…貴方も慌てる事があるのですね」



「私は只の人間ですから…慌てる事もありますよ」

フラウの任務はフィートを守り、その願いを可能な限り叶える事である。

つまりどんな無理難題でも、"可能な範囲"で遂行せねば為らないのだ。


そしてその精神的負担は相当な物で、フィートが常識人である事を願うばかりだった。

『やれやれ…冗談を言えるだけの常識は有るようですね』



「差し当たっては…マスターの役に立てる立場になりたいです」



「そう言えば上級貴族の舎人とねりになりたいと言っていましたか」



「このリヒトゲーニウス王国の情報が必要なら、私を利用して欲しいのです。舎人なら暗部のような危険も無いでしょう?」

フィートにしては少し言葉に熱が入った。


この話はアポラウシウスと散々議論を尽くした。

結果、アポラウシウスを折れさせるに至ったが、フラウからは承諾を得ていない。

もし断られれば振り出しに戻ってしまい、折角の目標が台無しになる…故に熱が入るのも当然だった。



「舎人…しかも上級貴族となると、それなりの努力が必要になります。なれたとしても嫌な事を経験するかも知れません、それでも構わないのですか?」



「構いません。あの荒野での生活に比べれば、然して大した事など無いです」

強大な魔獣と戦い続け、その死肉を喰らって生きた生活。

あの地獄のような過酷さに比べれば、人間の世界など平和この上ないとフィートは思えた。



「成程…貴女にとって今は、ぬるま湯なのでしょうね」

そこまで言ったフラウは、少し居住いを正し続けた。

「分かりました。では舎人ならば私の専門分野ですからお教え致しましょう。ですが、その前に見せておきたい場所が有ります」



思わせ振りなフラウの言い様に、フィートは首を傾げた。

「場所? この屋敷から出るのですか?」



「いいえ、この屋敷の地下です。きっと貴女の拠り所になるかと」






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






屋敷の地下に案内され、フィートは息を飲んだ。

そこは見知った空間に酷似していたからである。


「ここは…ひょっとして祭壇ですか?」



フィートの問いに、フラウは頷いた。

「はい、その通りです。正しい祭壇を用意すれば、オスクロ神は何処にでも降臨なさいます」



「降臨……」

半ば呆然と呟くフィート。


自分は月の神(スキア)を信奉するが、一度も傍に感じた事は無い。

なのに無名とも言える神が、その力と存在力を信者でも無い自分に見せてくれたのだ。

これは正に明確な"応え"であり、他の神と比べると異質で抜きん出る存在と言えた。



「フィートさん…貴女が求めるなら、いつでもオスクロ神は施しを為さるでしょう」

そうフラウが告げた直後、漆黒の空間に何かが顕現したのだった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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