表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章IV・月の姫 (短編集)
1554/1769

月の姫(10)

フラウ・ダートル…彼はリヒトゲーニウス王国の準男爵であり、また"表向き"は生粋の商人だ。

そんな彼が住まう屋敷にアポラウシウスとフィートが来たのは、養子縁組を行う為であった。



『この人がフラウ・ダートル…』

談話室に案内されたフィートは、向かいに座るフラウをジッと見つめた。


黒髪をオールバックに纏め、紳士服を身に纏った出立ち、加えて妙に目が行く赤色のネクタイ。

中肉中背な体つきで人の良さそうな顔をしている。

やはり貴族と言うよりは、どう繕っても商人に見えてしまう。

ひょっとすれば、それを繕う気も無いのかも知れない。



フィートの右隣に座るアス・トゥート準男爵…もといアポラウシウスが言った。

「こちらでの事業は順調そうですね」



フラウは恭しく会釈する。

「はい、お陰様で上手く行っております。上級貴族の方々から贔屓にして頂き、社交界の情報も随分と収集出来ました」



「ふむ、それは後で報告を聞きましょう。それよりもフィートさんとの件が先です」



頷くフラウは、ソッと書類をテーブルに置いた。

「はい…既に書類の方は準備済みです」



「フフッ…相変わらず準備が良いですね。では私は忙しいので、フィートさんを任せますよ」

そう告げたアポラウシウスは立ち上がる。



「え?! マスター…私を1人置いて行くのですか?」

これにフィートは慌てた。

今まで一握りの人間としか接触しておらず、その中でアポラウシウスが一番親しかったからだ。



「1人って…フラウが居るじゃありませんか。これからは彼が貴女の養父となるのですから、何か有るのなら彼を頼って下さい」

などと言ってアポラウシウスは背を向けてしまった。



「そんな……急に…」

半ば唖然とするフィート。

今までの関係は一体何だったのか?…そんな怒りにも似た情動が胸中を満たした。



片やアポラウシウスは、何の情動も抱いていないかの様に続ける。

「さて、私は此処に来たついでの仕事を済ませます。フラウの報告は後日聞くとしましょう」

そうして足早に部屋を出て行くのだった。



落胆し項垂れるフィートへ、フラウは優し気に告げた。

「そう落ち込まないで下さい。ああ見えてマスターもお忙しい方ですから…ですから私が選ばれたのでしょう」



「……? どういう意味ですか?」



「私は上級貴族相手に家庭教師業を営んでおります。”教える事”に於いて、私の右に出る者は少ないでしょう。つまり…」



食い気味にフィートが続いた。

「つまり私に今の世の常識を教えてくれると?」



頷くフラウ。

「そうなりますね…ですが、それだけでは有りません。多種多様な職に関しても教える事が可能です。と言っても専門家に比べれば劣りますけどね」



「……」

フィートの中で色々な思いが巡った。

裏切られたような気持ち、信じたい気持ち、それらの感情を越えた思考が彼女を冷静にさせる。

「……きっと意図や何か理由が有るのでしょう?」



「はい…」



「なら良いです。私は大人しく此処で生活するとします」



「……そ、そうですか」

フラウは目の前の少女に驚きを隠せなかった。

この年齢の少女が普通ならば、これ程に聞き訳が良い筈も無いのだ。


見るに人間らしい情動も有るが、それは極めて希薄。

尚且つ制御する自制心も備え、実に大人びていると言える。

しかし反面的に全てを諦めたような雰囲気…傍に居るこちらが居た堪れなく思えた。


『やはり封印されたとは言え、王族の魂が影響しているのか? いや……』

推測しようとした自分を慌てて止めるフラウ。

そんな権限など自分には無いのだから。


兎に角は、目の前の少女が健やかに暮らせるよう、自分は最善を尽くさなければ為らない。

「さぁフィートさん、貴女が暮らす屋敷の中を案内しましょう。それに使用人たちも紹介しますよ」



「はい、分かりました」

そう返したフィートは、その声音に殆ど抑揚が籠っては居なかった。



『やれやれ……これは苦戦しそうですね』






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






一週間程が過ぎ、ダートル邸での生活も慣れてきたフィート。

その間、アポラウシウスは一切訪ねて来る事は無かった。



『以前は週に1、2度は会えていたのに……』

本当に捨てられたのではないか?…そんな不安ばかりがフィートの脳裏を巡る。



「フィートさん…」

テラスで呆然と佇むフィートへ、フラウが心配そうに声を掛けた。



「私は大丈夫です。以前の事を考えれば、ここは天国の様な場所ですから」



素っ気ない返しのフィートに、苦笑いを浮かべるフラウ。

「それは生活環境が…と言う事でしょう? 心が満たされていないのなら、それは決して健やかな生活とは言えませんよ」



「……今の私にどうしろと?」

何も見返りを求めず、手を差し伸べてくれたのがアポラウシウスだった。

そんな彼はフィートにとって恩人以上の存在であり、もう今では唯一の心の拠所でもあった。


なのに自分は何も返せていない上、会う事も儘ならない。

だからと言って子供のように駄々をこねて、周りに迷惑を掛けたくも無い。

故に今のフィートは、完全な手詰まりな状況に陥っていたのだ。



「貴女は人として幸福な生活を送らねば為りません。それがマスターの願いなのですから」

そうフラウは告げると、懐から出した手紙をソッとフィートに差し出したのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ