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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章IV・月の姫 (短編集)
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月の姫(5)

小さな燭台に灯された1本の蝋燭。

その明かりは周囲を照らすが、この空間の闇が濃すぎるのか、全く広さが分からない。


そんな部屋にフィートは足を踏み入れた。

否…もはや部屋なのかさえ分からない。

ただ理解できるのは、ここが地下深くの場所と言うことだ。


また現実なのかさえも怪しく感じさせる。

何故なら物理法則を捻じ曲げた様な違和感…人が…生命が原始の恐怖を覚えさせる威圧感、それが周囲を満たしていたからだ。



『何なの?! ここは本当に人が居られる空間なの?』

魔神にさえ恐怖を感じなかったフィートは、この空間を前に足がすくんだ。



「大丈夫です、貴女に危害を加える事は有りません。貴女が感じているのは畏怖なのですから」

と背後からアポラウシウスの声が聞こえる。



しかし声が聞こえても闇が深すぎるのか、その存在をフィートは感じる事が出来なかった。

「傍に居てくれてるの?」



「はい…私の気配を感じにくいかも知れませんが、ちゃんと後ろにいますよ」



そんな二人の会話を他所に、いつの間にか事態は進行していた。

蝋燭以外に何も無かった筈の空間に、突如何かが顕現したのだ。



この異様な空間が更に異様さを増し、フィートは息を飲む。

何かが姿を現した…だが、それが分かるだけで何なのかは全く理解できない。



「ようこそ御出で下さいました」

いつものように飄々とした口調では無く、礼節と畏怖が含まれた声でアポラウシウスが言った。



これに女性の声が返って来る。

「余の可愛い信徒の申し出…聞き遂げねばなるまい?」



されど声と認識可能なだけで、これが物理的に発せられた”音”とは全く違っていた。

正に言霊…人には決して発せられない魔力の籠った”干渉”。

故にフィートは察した…目の前に居るのが、地上の生物を超越した存在だと。



「有難う御座います。我が信奉する神よ…」



『神…?!』

フィートは目を見張った。


果たして大転倒以来、この世界で神との対話を可能にした人間がいただろうか?

フィートが受け継いだ記憶の中でも、それは皆無だった。

そう…既に世界は2つの柱神と隔絶され、信仰持つ人間が僅かな加護を得るだけになっていたのだ。


なのに神との対話を可能にしたアポラウシウス。

尋常では無い…アポラウシウスも、そして神?も。

『本当に神が降臨したの?!』



「そこな少女が件の者か?」

闇の言霊がアポラウシウスへ問うた。



「はい、彼女は月の民の王族です。我が敬愛なるオスクロ神よ…きたる時まで彼女の力を封じて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」



「うむ…余は構わぬ。しかし、そこな少女が受け入れるかや?」



フィートは驚きと畏怖の念で体だけでなく、思考まで停止しかけていた。

「……」


それも当然だった。

月の民が信奉するスキア神であっでも、一時的な降臨どころか、天啓さえ無いのだから。



「フィートさん、神の加護…いえ、呪いを消し去る事は出来ません。ですが長期的には封印が可能です。来る時まで平穏に暮らす為には、オスクロ神の加護が絶対に欠かせません…分かりますね?」

優しげなアポラウシウスの声が背後から聞こえた。



「私が平穏に暮らす…?」



「そうです。月の神の呪いを封印すれば、貴女は普通の人間として暮らせるでしょう」



フィートは逡巡した。

「……」


アポラウシウスが呪いと呼ぶ力は、確かに魔神を引き寄せ自分を苦しめて来た。

その反面、魔神を屠る強大な力でもあり、それが封印されては有事に戦えなくなってしまう。



するとアポラウシウスの手が、優しくフィートの肩に触れた。

「心配いりません。私が貴女を守りましょう」



「守る…? この私を?!」

フィートは自身が置かれた現状に、驚きと戸惑いを感じる。

王族として大切に育てられていた時も、結局は有事に自分が戦わなければ為らなかった。

『そんな私が…他者に……』



「約束します。仮に離れていても貴女に危機が及びかければ、必ず私が瞬時に駆け付けて守ってみせます」



「本当に?」



頷くアポラウシウス。

「はい。もう私と貴女は運命共同体です」



2人の遣り取りを静観していたオスクロが、その強大な言霊で告げた。

「スキアも酷よの。救うべき人間の為に、その人間の犠牲に因って為そうとはな」



「左様ですね、ですが仕方無いのでしょう。オスクロ神よ…貴女様を除けば、2大柱神でさえ殆どの干渉力を失ったのですから」



アポラウシウスの言葉に、オスクロの気配が揺らいだ。

それは丸で笑ったかの様にフィートは感じた。


そして同時に思う…オスクロ神とは如何なる存在なのかと。

フィートが受け継いだ記憶には、その情報が一切含まれておらず、不可解さばかりが募る。


加えて余りにも強大で超絶然としているが、妙に人間らしい印象を受けた。

これが本当に神なのか?…そんな疑問が膨らむ一方だ。


その所為なのか、率直な問いがフィートの口らか発せられた。

「あなたは本当に神なの? 私はスキア神の声さえ聞いた事が無いのに…」



アポラウシウスが慌てた。

「フィ、フィートさん!?」


神に対して「神なの?」なとど問うのは、無知が故に為せる所業だ。

また無知者は愚者であり、愚者を許すほどオスクロ神は寛大では無い。



されど、そんなアポラウシウスの心配は杞憂だったようだ。

オスクロは闇の中で再び揺れ動いた…恰も微笑むように。

「よい…余は、そこな少女が気に入った」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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