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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
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1449話・シンの密かな任務(2)

「任務では無く、これは私からのお願いだよ」

などとホウジーレンは自嘲気味に言った。



これにシンは特に表情を変える事なく返す。

「お願いですか…手に余る物でなければ、お受けするのも吝かではありません」

本音で言えば、これ以上の仕事を増やしたくは無い。

しかしながら主人ハクメイの実父に頼まれては、断れる訳も無かった。



「フフッ…君ならそう言ってくれると思っていたよ」



「こう見えても忙しい身ですので、手短に言って頂けませんか?」



つれない"元暗部"の侍女へ、ホウジーレンは苦笑いを浮かべながら答えた。

「そうだな……先ほど言った妻の…いやベイパンの件だ。恐らくだが亀国きこく鳳国ほうこくの工作員と思われる。先ずは龍国の南門省へ渡った筈ゆえ、出来る範囲で行方を探って欲しいのだ」



「出来る範囲と言う事なら承ります。それで閣下との連絡手段は如何致しますか?」



「これを…」

ホウジーレンは左手中指に嵌めていた指輪を外し、ソッと執務卓の上に置いた。



「指輪……ひょっとして魔導具ですか?」



「うむ。これは神獣ロンヤンから受け継いだ神器の一つでね、距離に関係無く念話を可能にする。もちろん万能では無いし、魔導具特有の制限もあるがね」



「……成程。つまり蓄えられた魔力が切れれば、念話も出来なくなるのですね」



「そんな所だ。これは二つ一対の指輪で、指輪間の距離に因って消費される魔力量が変わる。恐らくだが龍国程に遠方なら、相当に念話の時間が限られるだろう」

そうホウジーレンは補足しながら、右手中指の指輪に触れた。



「左様ですか…この話はディーイー様には?」



「それは君の判断に任せる。今話すべきだと思うなら話すと良い。だが火炎島…いや、これはロン家の不始末でもある。それを鑑みて判断してくれ」



「承知しました。他にご用意が無ければ私は失礼します」

と告げたシンは、ホウジーレンの言葉を待たずに踵を返した。



「君は相変わらずだな」

そんな侍女へ、ホウジーレンは特に咎める様子も無く、逆に笑顔を浮かべる。



「姫様がお産まれになった時、閣下は言われました…姫様に忠誠を捧げろと。ですから閣下に敬意を示す義理は有っても、従者としての義務は一切御座いません」

その言葉が言い切られた時には、既に執務室から彼女の姿は消え失せていたのだった。


   ・

   ・

   ・


『先ずは南門省に着いてから…』

シンは皆の衣服を整理しながら、脳裏でボンヤリと先を見据えた。



「どうしたの? シンにしては珍しいはね…ボ〜ッとして、」



主人ハクメイに尋ねられ、シンは慌てる事なく冷静に返した。

「本土に戻るのは20年振りでしょうか…それで少し記憶を巡らせていたのです」



「あ…そう言えばシンは本土の人間だったわね。でも20年も離れていては、随分と故郷も変わってしまっているでしょう?」

そう返したハクメイは少し申し訳ない気持ちになった。


シンは単身で故郷を離れ、何も文句を言わずロン家に仕え続けたのだ…その人生の半分以上を費やして。

故にシンの青春や女の花盛りを奪ってしまった…そうハクメイは思えて為らなかった。



主人の気持ちを察し微笑みで返すシン。

「フフッ…姫様、お気遣いは不要です。もはや私にとって火炎島は第二の故郷なのですから。それに実家とは定期的に手紙の遣り取りをしていましたから、寂しい気持ちは余り有りませんね」



「そう言うものなのかな…」



「そう言うものなのです」



などと2人の遣り取りの最中に、割と豪快な寝息が聞こえてきた。

ディーイーのイビキである。



「プッ! お姉様…中々に淑女には有るまじきお姿ですね」

必死に笑いを堪えたハクメイは、ソッとディーイーに布団をかけた。


ふと思う…この方は、どれだけ自分の時間を他人に費やしたのだろうと。

これだけ御節介でお人好しなら、相当に自身を顧みず無茶をした筈だ。

しかも実年齢が350歳…その無茶の程は常人の域を遥かに超えるに違い無い。


『かく言う私もお姉様に救われたのだから…』

しかも知り得る範囲では自分だけで無く、火炎島やロン家まで救った。

そして、これより自分の目的を二の次に、ガリーとリキの手伝いまでしようとしている。


この性分を変える事も、また止める事も出来ないだろう。

『なら少しでもお姉様の負担を減らせる様に、私が支えなくちゃ』


聖女王相手に烏滸がましい話かも知れない。

それでも何らかで支えたい…そんな思いがハクメイの心を満たしたのであった。





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






そこは静かな聖堂のようでいて、死者を荼毘に伏す斎場のようにも見えた。

例えるなら、生を司る創造の神と、死を司る死神が同居するが如き歪さ。

それがこの空間を示すに相応しい表現と言えた。



何者かが空間の中央に立ち、天窓から僅かに漏れる日差しを浴びる。



「後どれほど待てば、ここから出られるのかしら…」

それは余りにも儚く、また弱々しい声だった。

だが何故か生気に溢れ、死など微塵も感じさせない胆力を感じさせる。



少し離れた位置で控えていた女が言った。

「聖女様……必ずや同朋が我らを救いに参じる筈です。もう暫くご辛抱を…」



「私の所為で国が乱れるなら、尚更に此処から出る事は憚られるわ…」



「貴女様は間違っておりません。理を正す時が…貴女様の手で変える時がやって来たのです。お気を強くお持ち下さい」



聖女は天涯を見つめ小さく溜息をついた。

「きっと王は分かっている。そして私も…」


事実が真実では無い様に、正解や正義が常に正しい訳では無い。

この世界は不完全で、また矛盾だらけなのだから。



第九章:北方四神伝・I (完)




※次回から第九章:北方四神伝・llをお届けします。




楽しんで頂けたでしょうか?


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続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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