1446話・国家改名宣言
4体の黄金騎士がグラキエースに吹き飛ばされると、一気に空気が変わった。
そう…整列していた残り26体の黄金騎士が、グラキエースを囲むように動きだしたのである。
「フフッ…初めからそうしていれば良いものを」
そう呟いたグラキエースは、ピシャンッ…と鞭を地面に1度打ち付けた。
すると部分的に地面が裂けた上に、僅かに陥没している部分が出来上がるのだった。
それを見て「うわぁ……」と声を漏らすリキ。
『あんなの食らったらマジで死んじまう…』
自分が模擬戦の相手では無くて良かった…などと染み染みと思ってしまう。
そうして此処から如何なる展開になるのか一同が見守る中、背後からホウジーレンの声が聞こえた。
「ここに居たのか……って?!」
「あ…ホウジーレン殿。今ちょうど模擬戦を披露していてね、貴方も私の臣下の実力を見ていくといい」
「……」
などとディーイーに告げられ、ホウジーレンは呆気に取られる。
黄金甲冑を着込んだ屈強な騎士?が、30人程も居たのだから驚かない方が変だろう。
そして直ぐ我に返りディーイーに告げる。
「いや…それ処では無いのです。先程、東方経由で商いに来ていた商人から聞いたのですが…」
勿体振るような、それでいて言い淀むようなホウジーレンに、ディーイーは首を傾げた。
「んん? 何か一大事でも?」
「その…永劫の王国が、永劫の帝国へと国家改名宣言をしたそうです」
「え……」
と声を漏らしてディーイーは固まってしまう。
『何故に今なの?! い、いや…距離を考えると…』
自分が家出した直後に、スキエンティアが動いたのかもしれない。
ティミドも顔色を変えた。
「ディーイー様…」
空気が変わったのを察したグラキエース、それに妄執の軍団は途端に動きを止める。
ディーイーは頭を抱えた。
『う〜ん…元より帝国改名宣言の予定だったけど、私は承諾してないぞ?!』
しかしながら国家の運用自体を"全て"スキエンティアに任せていたのも事実。
つまり、この状況は自分が蒔いた種なのである。
『待てよ…宣言しただけで、実際の版図を公表してなければ…』
「ホウジーレン殿、聞いたのは帝国への改名宣言だけなのか?」
「いえ…武國と東方のペクーシス連合"公国"が、永劫の帝国の属国になったと大々的に公表されています」
目眩を覚えたディーイーは、その場に屈み込みそうになった。
これを咄嗟に抱き止めたハクメイ。
「お、お姉様! 大丈夫ですか?!」
「う、うん…ありがとう。大丈夫だから…」
とディーイーは口では言ったものの、何もかも忘れて不貞寝したい気分だ。
『帝国だなんて…これじゃあ前にも増して列国に警戒される』
最早、北方に人探しをしている場合では無くなる。
「…!」
ピンッと来たディーイー。
『まさか…私が戻らざるを得ない状況を作るつもりか?!』
「どうかされましたか?」
ティミドが傍に来て心配そうに尋ねた。
「恐らく…これは私を本国に戻す為の策ね」
「え…ですが、以前より帝国を名乗る予定だったのでは?」
東方に居るティミドなどの永劫の騎士へ、この旨は事前に通知されていた。
つまり正式な公表や宣言が未定だっただけなのだ。
「私は王として承認してないわよ」
このディーイーの返答に、ティミドは目を見張った。
「えぇぇ?! では主君であるディーイー様をお座なりにしたのですか?!」
「う〜ん……国政をスキエンティアに丸投げしてたから、そうとも言えないかな…」
何より"この件"が起因で、スキエンティアと喧嘩したとは言えない…結局は自分の怠惰が原因なのだから。
『兎に角、今更後悔しても仕方ない。それよりも、これからどうするか決めなきゃ』
「本国に戻られますか?」
先程にも増して不安そうにティミドが尋ねた。
「あ…いや…今戻った所で何も変えられないから、予定通り龍国に向かおう。それにスキエンティアの策に嵌まるのも癪だしね」
「左様ですか…」
「ん? ティミド…他に何か心配事でも有るの?」
「いえ、何でも有りません」
と答えたティミドだが、本音で言えば宰相と和解して欲しいと思っていた。
永劫の王国…改め永劫の帝国は、主君と宰相の2人が共に在って意味を成すのだ。
その根幹を理解しているだけに、今の状態はティミドとして不安でならなかった。
ホウジーレンが怖々と割って入って来た。
「ディーイー殿…もう一つお伝えしたい事が」
「どうしたの、ホウジーレン殿…何だか改まっちゃって」
「実は永劫の帝国が"ある情報"に対して報奨金を掛けているのです」
などと前置きするホウジーレン。
その様子は実に気不味そうで、その先を言う事へ憚っている風にも見えた。
「…? 何を気遣ってるのか知らないけど、ハッキリと言ってくれないかな?」
「はい……報奨金が掛けられたのは、突出した武力または魔法力の持ち主と、絶世の美少女の情報だそうです」
そう答えたホウジーレンは、"貴女の事ですよ"と言わんばかりにディーイーを見つめた。
今度はディーイーが気不味くなる羽目に。
『うぅぅ…何て絶妙な捜索の仕方なの?!』
流石はスキエンティアとしか言い様が無い。
仮に白銀の髪と真紅の瞳などと指定すれば、プリームスを知る者なら容易く聖女王だと見抜かれる。
そして見抜かれれば当然の事、聖女王が出奔したのでは?…と勘ぐられるだろう。
そうなれば永劫の帝国を良く思わない何処かの国家が、切り崩そうと蠢動するのは明白だ。
故にスキエンティアは人材発掘のように見せかけ、自分を捜索する手段の一つとして情報に報奨金を掛けたに違いない。
ここまで推測したディーイーは深い溜息が漏れた。
「はぁ……今後の振る舞いや計画を、大幅に変更しないといけないかもね…」
「変更…ですか?」
首を傾げるハクメイ。
「うん……やっぱり私は目立たない方が良いわ。そこで提案なんだけど…聞く?」
そう皆を見渡してディーイーは告げる。
最早これは問い掛けでは無く、皆にとっては「聞く準備は出来ているか?」と同義なのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




