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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
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1443話・妄執の軍団(2)

「これは亡者の指揮杖と言ってね、私を守って死んでいった騎士達を召喚するんだ」

と無骨な剣に触れながら言ったディーイー(プリームス)は、ほんの僅かに表情を曇らせた。



「お姉様を守った騎士……一体どれくらいの数なのですか?」

などと空気を読まず尋ねるハクメイ。



これに居合わせたリキとガリーは少し慌てる。

『おいおい! 姫さんよ…空気を読んでくれ!』

『ちょっ! そんな繊細な事を訊くの!?』



そして直ぐに侍女のシンが主人を諭した。

「姫様…今の発言は配慮に欠けていたかと」



「えっ!? あ…!」

注意されて漸くハクメイは気付く。


先程の自分の問いは、"死んだ忠臣の数は如何ほどで?"と聞いている様なものなのだ…無神経も甚だしいと言える。

「も、申し訳有りません!」

『うぅぅ…私ったら、なんて馬鹿なの!』



「フフッ…そんな事で謝らなくても良いよ。え〜と、戦力としての数だと……最小で分隊規模、最大で2個師団ってところかな」



然も当然のように答えるディーイーに、グラキエース以外の面々は驚愕で目を見張った。


ここで一早く我に返ったペタルダが尋ねる。

「その…ディーイー様…師団と申されましても、時代や国の様式で数が異なる場合が御座います。正確には…」



「あ〜〜ごめんごめん。えっとね、大体18000人くらいかな?」



「18000?!!?」

想像以上の数に声を張り上げてしまうリキ。


一方ガリーは信じ難く、問い返す始末。

「え……ちょっと待って! 謂わゆる死者の軍団って事でしょ? つまりアンデットを18000体も召喚して制御出来るって事!?」



"死者の軍団"に反応したのか、再びグラキエースの鋭い視線がガリーに向けられた。



「うっ! ご、ごめんなさい…」

咄嗟に謝るガリー…まるで怒られた子供だ。



「こらこら! グラキエース…そんな事で一々威嚇しないで」

そうしてシュン…となったグラキエースを尻目に、ディーイーは補足説明を続けた。

「確かに亡者だから、死者の軍団は言い得て妙ね。それで制御って話だけど、私が用意した依代に魂を一時的に定着させるの。だから制御ではなくて、私の禁軍として動いてくれるわ」



「す、凄い…」

死してなお主君を守ろうとする騎士に、ガリーは驚きを隠せない。

『それだけディーイーの事が気掛かりだったのか、若しくは守り続けられなかった後悔なのか…』

しかも18000人がだ…正直、俄には信じ難い。



そんなガリーを見てディーイーは言った。

「いまいち釈然としていないみたいね。なら、証明として実際に見せてあげるわ」



「え…今ここで?!」



「うん。ちょっと手狭になるかも知れないけど、まぁそこは我慢してね」

などと答えたディーイーは、食卓へ置いた亡者の指揮杖を手に取った。



"妄執の軍団(メタニオン)"



亡者の指揮杖が解放され、食堂内に凄まじい魔力が流れ出す。

その余の量と硬度に、魔術師で無いリキやガリー等も肌で感じる程だ。



そして魔力は形を成し、ある存在を顕現化させる。

それは黄金の甲冑を身に纏った屈強な騎士達。

ある者は大剣を担ぎ、ある者は鋭い槍、また堅固な大楯を持つ。

皆一様に武器までもが黄金…ここまで来ると死者の軍団と言うより、成金軍団である。


また食堂を埋め尽くす程の数で、身動きを取る僅かな空間も無い。

その数…凡そ30体。

小ぢんまりとした食堂だけに、ある意味で大惨事だ。



「ちょっ?! これは多すぎない?!」

『うぅ…椅子から立てない……』

堪らず声を上げるガリー。



「あ〜〜、一応は最小規模で召喚したんだが…室内では少し無理があったか」



「分隊規模って言ってたじゃない! これじゃあ身動きが取れないよ!」

文句を言うガリーだが、死者の所為か暑苦しくないのが不幸中の幸いだと思えた。



因みにリキはと言うと、ガリーと同じく前方のテーブル以外を黄金の騎士に囲まれてゲンナリしていた。

「……」

正に身から出た錆…余計な事を問い正さなければ、こんな事には為らなかったかも知れない。



しかしハクメイは違った。

興味津々な様子で、左右後ろを囲んだ騎士をキョロキョロと見つめていた。

「わぁ…凄いですね! この黄金の甲冑が、お姉様が言われていた依代なのですか?」



「うん、金ピカだけど素材はオリハルコンでね、付加した魔法で何故か金色になっちゃたんだよ」

と苦笑いを浮かべながら答えるディーイー。



これにハクメイはギョッとした。

『え…金では無く、かと言ってミスリル銀でも無くてオリハルコン?!』


オリハルコンなど御伽話や神話でのみ存在すると思っていた。

そんな素材を使った甲冑一式が、18000個も有ると思えばギョッとしない方が変だ。



皆が知りたがるであろう核心を、揉みくちゃにされているティミドが口にした。

「ディーイー様、これら個々の能力は如何ほどなのでしょうか?」



「能力か…そうね、多分ティミドと同等以上かな」



「なっ?!」

「えっ!?」

「私と同等以上…?!」

半ば呆気に取られる3人。



「それって詰まり…永劫の騎士(アイオーン・エクェス)が18000人居るって事ですよね?」

怖々(おずおず)と訊くハクメイ。



ディーイーは頷いてから補足した。

「うん…でも指揮杖に蓄えられた魔力が、"彼等"の顕現時間に影響するの。要するに多く召喚すればする程、活動可能な時間も短くなるのよ。だから大して利便性や汎用性が高い訳じゃ無いわ」



これを聞いたティミドは、ホッと胸を撫で下ろす。

「成程…一見して完全無欠の最強魔導具に思えますが、一応の欠点も有るのですね…」


この亡者の指揮杖から永劫の騎士(アイオーン・エクェス)級が容易く18000人も湧いて、尚且つ長期間維持されれば、今居る自分達の立つ瀬が無くなるというものだ。



「うむむむ……ディーイーさん、良く分かった。だからこの金ピカ集団を引っ込めてくれねぇか?」

リキは降参とばかりに両手を上げて言った。



「ん〜〜そうしたいんだけどね、召喚時に確保した魔力を使い切らない限り、彼らは消えないのよ」



「「「えぇぇ?!」」」

ハモるように声を上げるガリーとリキとティミド。



「ごめんよ〜〜暫くは我慢してね」

かつての忠臣を召喚したは良いが、余りにも久々で"仕様"を完全に失念していたディーイーであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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