1443話・妄執の軍団(2)
「これは亡者の指揮杖と言ってね、私を守って死んでいった騎士達を召喚するんだ」
と無骨な剣に触れながら言ったディーイーは、ほんの僅かに表情を曇らせた。
「お姉様を守った騎士……一体どれくらいの数なのですか?」
などと空気を読まず尋ねるハクメイ。
これに居合わせたリキとガリーは少し慌てる。
『おいおい! 姫さんよ…空気を読んでくれ!』
『ちょっ! そんな繊細な事を訊くの!?』
そして直ぐに侍女のシンが主人を諭した。
「姫様…今の発言は配慮に欠けていたかと」
「えっ!? あ…!」
注意されて漸くハクメイは気付く。
先程の自分の問いは、"死んだ忠臣の数は如何ほどで?"と聞いている様なものなのだ…無神経も甚だしいと言える。
「も、申し訳有りません!」
『うぅぅ…私ったら、なんて馬鹿なの!』
「フフッ…そんな事で謝らなくても良いよ。え〜と、戦力としての数だと……最小で分隊規模、最大で2個師団ってところかな」
然も当然のように答えるディーイーに、グラキエース以外の面々は驚愕で目を見張った。
ここで一早く我に返ったペタルダが尋ねる。
「その…ディーイー様…師団と申されましても、時代や国の様式で数が異なる場合が御座います。正確には…」
「あ〜〜ごめんごめん。えっとね、大体18000人くらいかな?」
「18000?!!?」
想像以上の数に声を張り上げてしまうリキ。
一方ガリーは信じ難く、問い返す始末。
「え……ちょっと待って! 謂わゆる死者の軍団って事でしょ? つまりアンデットを18000体も召喚して制御出来るって事!?」
"死者の軍団"に反応したのか、再びグラキエースの鋭い視線がガリーに向けられた。
「うっ! ご、ごめんなさい…」
咄嗟に謝るガリー…まるで怒られた子供だ。
「こらこら! グラキエース…そんな事で一々威嚇しないで」
そうしてシュン…となったグラキエースを尻目に、ディーイーは補足説明を続けた。
「確かに亡者だから、死者の軍団は言い得て妙ね。それで制御って話だけど、私が用意した依代に魂を一時的に定着させるの。だから制御ではなくて、私の禁軍として動いてくれるわ」
「す、凄い…」
死してなお主君を守ろうとする騎士に、ガリーは驚きを隠せない。
『それだけディーイーの事が気掛かりだったのか、若しくは守り続けられなかった後悔なのか…』
しかも18000人がだ…正直、俄には信じ難い。
そんなガリーを見てディーイーは言った。
「いまいち釈然としていないみたいね。なら、証明として実際に見せてあげるわ」
「え…今ここで?!」
「うん。ちょっと手狭になるかも知れないけど、まぁそこは我慢してね」
などと答えたディーイーは、食卓へ置いた亡者の指揮杖を手に取った。
"妄執の軍団"
亡者の指揮杖が解放され、食堂内に凄まじい魔力が流れ出す。
その余の量と硬度に、魔術師で無いリキやガリー等も肌で感じる程だ。
そして魔力は形を成し、ある存在を顕現化させる。
それは黄金の甲冑を身に纏った屈強な騎士達。
ある者は大剣を担ぎ、ある者は鋭い槍、また堅固な大楯を持つ。
皆一様に武器までもが黄金…ここまで来ると死者の軍団と言うより、成金軍団である。
また食堂を埋め尽くす程の数で、身動きを取る僅かな空間も無い。
その数…凡そ30体。
小ぢんまりとした食堂だけに、ある意味で大惨事だ。
「ちょっ?! これは多すぎない?!」
『うぅ…椅子から立てない……』
堪らず声を上げるガリー。
「あ〜〜、一応は最小規模で召喚したんだが…室内では少し無理があったか」
「分隊規模って言ってたじゃない! これじゃあ身動きが取れないよ!」
文句を言うガリーだが、死者の所為か暑苦しくないのが不幸中の幸いだと思えた。
因みにリキはと言うと、ガリーと同じく前方のテーブル以外を黄金の騎士に囲まれてゲンナリしていた。
「……」
正に身から出た錆…余計な事を問い正さなければ、こんな事には為らなかったかも知れない。
しかしハクメイは違った。
興味津々な様子で、左右後ろを囲んだ騎士をキョロキョロと見つめていた。
「わぁ…凄いですね! この黄金の甲冑が、お姉様が言われていた依代なのですか?」
「うん、金ピカだけど素材はオリハルコンでね、付加した魔法で何故か金色になっちゃたんだよ」
と苦笑いを浮かべながら答えるディーイー。
これにハクメイはギョッとした。
『え…金では無く、かと言ってミスリル銀でも無くてオリハルコン?!』
オリハルコンなど御伽話や神話でのみ存在すると思っていた。
そんな素材を使った甲冑一式が、18000個も有ると思えばギョッとしない方が変だ。
皆が知りたがるであろう核心を、揉みくちゃにされているティミドが口にした。
「ディーイー様、これら個々の能力は如何ほどなのでしょうか?」
「能力か…そうね、多分ティミドと同等以上かな」
「なっ?!」
「えっ!?」
「私と同等以上…?!」
半ば呆気に取られる3人。
「それって詰まり…永劫の騎士が18000人居るって事ですよね?」
と怖々と訊くハクメイ。
ディーイーは頷いてから補足した。
「うん…でも指揮杖に蓄えられた魔力が、"彼等"の顕現時間に影響するの。要するに多く召喚すればする程、活動可能な時間も短くなるのよ。だから大して利便性や汎用性が高い訳じゃ無いわ」
これを聞いたティミドは、ホッと胸を撫で下ろす。
「成程…一見して完全無欠の最強魔導具に思えますが、一応の欠点も有るのですね…」
この亡者の指揮杖から永劫の騎士級が容易く18000人も湧いて、尚且つ長期間維持されれば、今居る自分達の立つ瀬が無くなるというものだ。
「うむむむ……ディーイーさん、良く分かった。だからこの金ピカ集団を引っ込めてくれねぇか?」
リキは降参とばかりに両手を上げて言った。
「ん〜〜そうしたいんだけどね、召喚時に確保した魔力を使い切らない限り、彼らは消えないのよ」
「「「えぇぇ?!」」」
ハモるように声を上げるガリーとリキとティミド。
「ごめんよ〜〜暫くは我慢してね」
かつての忠臣を召喚したは良いが、余りにも久々で"仕様"を完全に失念していたディーイーであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




