1435話・火炎島で顔合わせ(2)
色々とドタバタとしたが、取り敢えずは改めて自己紹介をする事になった。
それを率先したのがホウジーレンである。
「私はロン・ホウジーレンだ。この火炎島の領督をしている。そして聖女陛下の後ろに控えて居るのが…」
食い気味で名乗るハクメイ。
「ロン・ハクメイです。ディーイーお姉様とは姉妹の契りを交わしました。ですから領督の娘として"扱わないで下さい"」
これへ隣に立っていたティミドが、その表情を僅かに険しくした。
「……」
そして空気を読まないリキが、床に胡座をかいたまま片手を上げる。
「俺はリキだ。冒険者をやってる」
『うわぁ……一触即発な空気…』
段々と居た堪れなくなるガリー。
そんな黙ったままのガリーへ、ホウジーレンが尋ねた。
「君も聖女陛下のお仲間なのだろう? まさか永劫の騎士ではあるまいな?」
「えっ…あ! いえ違います! 俺はガリー…リキさんと一緒で冒険者や傭兵をしてます」
と慌てて答える。
正直、 永劫の騎士などに間違われては、ある意味で迷惑な話だ。
最後にティミドが恭しくお辞儀をして告げた。
「 初めまして火炎島領督殿…私は永劫の騎士のティミド-ヘイスです」
「これはご丁寧に……」
『やはり 永劫の騎士か。んん…まさか…!?』
ホウジーレンは勘繰ってしまう。
「ひょっとして軍事支援で来られたのですか?」
しかも二回り近く歳下の相手に敬語だ。
だが、それも仕方の無い事かも知れない。
永劫の騎士は聖女王の代理人でもあるのだから、礼節を疎かに出来ないのは当然の事である。
直ぐさま否定するティミド。
「あ……いえ、私はディーイー様の随行者として参りました。それと、その軍事支援についてですが、ペクーシス連合王国大総督から言伝を預かっています…先ずはこれを、」
そう言って執務机の上に書簡を置いた。
「拝見します…」
この2人を見たガリーは、何だか変に感じる。
傍に永劫の王国の王が居るのに、それを他所にして政治的な遣り取りをしてるからだ。
『まぁ細かな調整は、それぞれの管轄が勝手にするからこれが普通か…』
そもそも現場に出張っている聖女王…もといディーイーが変なのだ。
またそれが分かっているだけにディーイーも口を挟まず、管轄責任者に判断を委ねているのだろう。
書簡を読み終えたホウジーレンは、「う~む…」と短く唸った。
「何か?」
首を傾げるティミド。
「いや……ここには軍事支援の指揮官は、聖女陛下が任命すると記されている。他には1次から5次に掛けて軍事支援を送ると…これは問題ないのですが……」
とホウジーレンは怪訝そうに答えた。
つまり一番の肝と言える責任者が決まっていないので、不安に感じているのだ。
「え……」
『もしや…お父様……人材に余裕が無いからって投げたわね!?』
しかしながら、それをティミドは口に出来なかった。
何故なら、こうなってしまった起因の1つに自分が含まれている為だ。
『うぅぅ……私がディーイー様に随行したから…』
大総督補佐官が空けた穴が塞がっていない。
そこに一案で上がっていたバドズィーナミアが派遣されると、ペクーシス連合王国・治安維持軍司令の枠まで空席になってしまう。
ティミドは申し訳なさそうにディーイーを見つめ、ホウジーレンはと言うと判断を催促する視線をディーイーに送った。
「んん? な、何?!」
ある意味で熱い視線を送られて困惑するディーイー。
二人の遣り取りを何も聞いていなかったので尚更である。
一方、耳聡く聞いていたハクメイは違った。
「お姉様…どうやら不手際が有ったようですよ?」
「え? 不手際?」
「はい。軍事支援の責任者が決まっていないようです」
これ見よがしに告げ口するハクメイ。
これでティミドの株が下がり、相対的に自分の株が上がる寸法だ。
「………あ…そう言う事か」
少し思考した後、うっかりしていたとばかりにディーイーは呟いた。
「お姉様…?」
「いや…これは私の不手際だよ。ペクーシス連合王国には永劫の騎士が3人しか居ないんだ。なのにティミドを連れて来ちゃって、更にもう一人を引き抜いたら、ペクーシス連合王国の運営に支障を来すからね」
察してくれた主君に、ティミドは胸を撫で下ろした。
『あぁぁ……流石はプリームス様!』
するとホウジーレンは不思議そうに尋ねる。
「…? 聖女陛下、僭越なのですが…軍事支援の責任者は別に永劫の騎士で無くとも良いのでは?」
「いや、そんな事は無いよ。火炎島の神獣を狙った勢力が実際に居たんだから、次が無いとは限らない。なら私に近い実力と判断が可能な者を派遣すべきだよ」
「あ…! た、確かに聖女陛下の仰る通りです」
ホウジーレンは自身の浅慮さを恥じた。
『先の騒動は隣の亀国が最も疑わしいのだった。それなのに私は楽観的なままで…』
未だにロンヤンを狙った理由も、また何者の企てかも定かでは無い。
それは詰まる所、特定の標的を定めて対策できない事を指すのだ。
これは非常に不安定な状況で、火炎島の人間だけでなく、派遣された指揮官に軍事的にも精神的にも負担を強いる事になるだろう。
故に聖女王に迫る器量の持ち主でないと、火炎島へ送る軍事支援の責任者は務まらない。
「う~ん……仕方ないか」
ボソッと呟くディーイー。
「仕方ない…とは?」
「ディーイー様…何か妙案が御有りなのですか?」
不安そうにホウジーレンとティミドが尋ねた。
「出来れば呼びたくなかったけど…任せられるのは1人しか居ないかな」
そう返したディーイーの傍に、前触れもなく拳大の宝珠が姿を見せたのだった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




