1433話・漸く火炎島
狭間世界を経由した転送魔法で、一瞬にして火炎島の上空へ到着するディーイー達。
そうなると当然にして危機に陥る。
「あ……」
「うおっ!? く、空中?!」
「ちょっ!?」
「プリームス様!!」
ティミドは即座にディーイーを抱き止め、指輪に付加された浮遊魔法を発動させる。
しかしガリーとリキが、そのような物を持ち合わせている筈も無かった。
『くっ!』
ここで"主君にとって"大切な仲間を落下死させる訳にはいかない。
ならば出来る事は1つ…己の体を使って、強引に救うしかないのだ。
「え……」
「おぉ?!」
ガリーとリキが驚きの声を漏らす。
なんとティミドが両脚でリキを蟹挟みにし、左手でガリーの腕を掴んでいたのだった。
因みにディーイーは、ティミドの右脇に抱え込まれていた。
「ふぅ……間一髪」
安堵の声を漏らすティミドへ、ディーイーが申し訳無さそうに労った。
「すまないティミド。色々と苦労をかける…」
「いえ…プリームス様のお世話をするのが私の使命ですから。この程度の不手際…あ、え〜と…事故処理はお任せ下さい」
『うぐっ、いま不手際って言った!』
全くその通りなので何も言い返せないディーイー。
ただ内心で愚痴を呟くだけである。
そんな主君を見てティミドは首を傾げる。
「どうかなさいましたか?」
「いや…べつに。それよりも、このまま安全に降下出来る?」
「はい。絶対的な安全では無いですが、ゆっくり降下するだけなら全く問題有りませんよ」
「じゃあ、お願い。真っ直ぐに降りれれば、ちょうど居城の中庭だから」
「承知いたしました」
2人の遣り取りに唖然とするガリーとリキ。
「「……」」
それも仕方の無い事だ。
今は火炎島の全域が見渡せる程の高度で、尚且つ先程は死にかけたのだから。
しかも空中で安穏と会話をするのは、側から見れば正気の沙汰ではない。
『これが聖女王と永劫の騎士なの!?』
とんでも無い人間を仲間にしてしまった…そんな後悔にも似た情動がガリーの胸中を満たした。
「プリームス様…メディ.ロギオスは大丈夫なのでしょうか?」
下降中に、ティミドが少し思い詰めた声音で尋ねた。
「うん…無事ではないだろうけど、大丈夫と思うよ」
何とも矛盾する返答をするディーイーに、空中でズッコケそうになるティミド。
その所為でガリーとリキを落としかける始末だ。
「そ、それって結局は大丈夫なのですか? ひょっとして辛うじて生きているとか無しですよ…」
「いやいや、きっと大丈夫。彼は偏屈だし、何より死にたがっているようには見えなかった。今頃、のほほんとしてるんじゃないかな」
「左様ですか…」
いまいち釈然としないティミド。
それでも主君が"そう言っている"のだから、納得せざるを得ない。
「ところでティミド…」
「はい…プリームス様、何でしょうか?」
「今後、その"プリームス様"と呼ぶのは止めてくれないかな? 今の私は旅人のディーイーだから…そこのところ気を付けて欲しいの」
「あ……配慮が足らず申し訳ありません。これからディーイー様と呼ばせて頂きます」
「う、うん…」
丁寧なティミドの返しに、少しばかり項垂れるディーイー。
『その"様付け"が問題なのよね。これじゃあ只の旅人には思われないよ…』
そして、これを聞いていたガリーは、"そこが問題では無い"と突っ込みたくなる。
そもそもディーイーのような絶世の美女が、只の旅人と言うのは無理が有る。
『それなら一層のこと、貴族令嬢の旅行にすれば良いのに…』
などと言いたかったが、変に反感を買って落とされるのは勘弁だ。
なので地上に着くまで黙っている事にした。
こうして地上に近付くと、真下に人が集まっているのをディーイーは目にする。
「あれ? 何か…いっぱい人が居るんだけど…」
「それは当然かと。狭間世界へ門を作る際に、凄い轟音が空から鳴りましたから…たぶん確かめるために、皆んな慌てて集まったのでは?」
『参ったな…やっぱり出力の調整が出来てない』
ヘイス公国に来る時は、自分が1人だった事もあるが、最小限の魔力出力に努めたディーイー。
そのお陰か、巨大な白渦が上空に穿つ事態に為らなかったのだ。
これは恐らくだが100か0かに近いほど、極端に魔力調整の精度が荒くなっている証拠だ。
今は辛うじて100か1〜5程度に収まっているが、根本的な対策をしないと、この先に何が起こるか分かったものでは無い。
『うぅぅ…大人しくメディ.ロギオスに言う事に従っておくか、』
狂っては居ても流石は名医である。
「あっ!! お姉様!!」
真下から聞き覚えの有る声がした。
これへ直ぐに反応したのがティミドだ。
「お姉様…??」
しかも眉をひそめて実に怪訝そうである。
「え〜と、その…彼女が私を助けてくれたハクメイだよ」
何故か焦って説明してしまうディーイー。
「ほほう…彼女がディーイー様の恩人ですか。なのに自分を御姉様と呼ばせていると?」
「あ、え…その…それは…」
自分が身内以外と親しくしていると、どうしてか身内(とくに女子)の機嫌が悪くなる。
それを経験から知っている所為で、ついついディーイーは慌ててしまった。
「どうして慌てるのですか? 何か後ろめたい事でもしたのですか?」
脇に抱えられている接触部分から、凍り付くような感覚をディーイーは感じた。
「ちょっ!? そんな殺気立たないで!」
間近で聞いていたガリーも背筋が凍る。
『うわぁ……やっぱり永劫の王国は、聖女王個人の為に有るって本当だったんだ』
それは詰まる所、永劫の騎士にとってディーイーが唯一無二の存在なのを指しているのだ。
それなら当然に嫉妬される…などと思いガリーは溜息が出るのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




