1431話・狭間の世界
ディーイーはロギオスの魔力補助を受け、次元魔法を発動させた。
「狭間の門」
直後、主城の上空から轟音が鳴る。
「え?! な、何?!」
ガリーは何が起こったかのか理解出来ず、窓辺へ駆け寄った。
そして遥か上空を見上げて驚愕する羽目に。
何と巨大な白い渦が現れ、その中心に漆黒の口が開いていたのだ。
正に別世界の口の様に、そこへ吸い込まれれば二度と戻れない…そんな考えをガリーに抱かせた。
「あれは…一体何なんだ?!」
リキも窓辺から天空を見上げ、半ば呆然と呟く。
ティミドも2人に続き窓辺から空を見上げ、その魔力の根幹を感じゾッとした。
『これは魔法なの?!』
メディ.ロギオスが現れた際に、これと対照的な闇の渦を発生させた。
あの渦は明らかに禍々しさを湛えていたが、プリームスが起こしたであろう白い渦は、根幹が異質過ぎて自分の本能が忌避している様に思える。
そう…人間にとって禁忌、若しくは触れては為らない神域なのかも知れない。
「大丈夫…あれは狭間世界へ通ずる門なの。でも人が入って生きて居られる世界では無いから、きっと皆は悍ましく感じちゃうでしょうね」
ディーイーに説明されるが、全く理解出来ないガリーとリキ。
「インテル・アングスティアス…?! 門…? そんな物を発現させて転送魔法と何の関係が……」
「イン…アング…?!」
しかしティミドは漠然としてはいるが、凡その原理を勘で察していた。
「ひょっとして狭間世界を通って火炎島に向かうのですか?」
頷くディーイー。
「うん、狭間世界内に超重力特異点を発生させて次元を縮めるの。そうすれば火炎島に設置した帰送点が凄く近くなるからね」
「超重力……何かで読んだことが有ります。確か理論上では、超重力を引き起こせれば空間を捻じ曲げて距離を縮められると……でも、わざわざ狭間世界を使う必要があるのでしょうか? と言うか…狭間の世界って何のです?」
このティミドの疑問に、透かさずロギオスが答えた。
「現実世界や、その表裏一体である精霊界で超重力を引き起こせば、限定的範囲では有りますが次元崩壊を引き起こします。そうなれば東方だけで無く、この大陸自体へ多大な破壊的影響を与えるでしょう。ですから狭間の世界…インテル・アングスティアスで超重力を起こすのです」
「理論は分かりますが…そもそも狭間の世界が分かりません」
合点が行かなそうに返すティミド。
彼女からすれば紙をハサミで切るのに、ハサミを知らない位に事前知識が無いのだ。
合点が行かなくて当然だった。
するとロギオスは少し疲れた様子で言った。
「やれやれ…知能以前に、知識水準が合わないと会話が成立しませんからね。仕方ありません…端的に説明しましょう」
『くっ…この男!』
物凄く苛立ったが、ティミドはグッと堪える。
「はい…お願いします」
「狭間の世界とは、この物質世界と精霊界の間に存在する領域です」
ロギオス曰く、その狭間の世界は薄い二次元に近い状態で存在し、その所為で基本的には人が出入り出来ないらしい。
また物質世界や精霊界へ布の様に張り付き、両世界の座標を共有しているのだそうだ。
つまり超重力で狭間の世界を収縮させた場合、現実世界の座標情報も引き寄せる。
これにより目的地へ斥候魔法を飛ばす距離も縮まる訳だ。
「な、成程…大体の理屈は理解しましたが、余りにも途方もない事なので実感が湧きませんね」
正直、頭で理解出来ても、ティミドの気持ちは釈然としないままだ。
『それだけ人智を超えてるって事なんだわ…』
全くもって主君の凄さに驚愕するばかりだ。
そうこうしているとディーイーが次の段階へ進む。
「メディ.ロギオス。次が一番の肝よ…魔力補助を怠らないでね」
ディーイーの手を握ったまま、ロギオスは静かに頷いた。
「承知しました。いよいよ超重力の発現ですね」
「うん…行くわよ。きっと魔力がゴッソリと奪われるから気を付けて」
そう告げたディーイーは、間髪入れずに魔法を発動させる。
"超重力特異点"
直後、ロギオスの中から凄まじい量の魔力が抜け出した。
『これは…楽観的だったかも知れませんね』
仮に自分以外が魔力補助したのなら、恐らく枯渇死していたに違い無い。
それ程に恐ろしい魔力消費量なのだった。
「フフッ…他者の魔力を借りるのは、何だか妙な気分ね。でも助かったわ…これで斥候魔法を並行操作出来るわ」
刹那、プリームスの真上に浮かんでいた黒球が、超高速で窓から飛び去って行く。
「左様ですか……それは上々でなによりです…」
などとロギオスは飄々と返そうとするが、その声音には何時もの余裕が感じられない。
それを目の当たりにしたティミドは不安が増すばかりだ。
「大丈夫なのですか…?」
「私は大丈夫。もう斥候魔法は、火炎島の帰送点に到着したわ」
とベッドに横たわったまま答えるディーイー。
片やロギオスは少し俯いた姿勢で答える。
「問題ありませんよ。今はね…」
しかし顳顬から一筋の汗が滴っていた。
『プリームス様が大丈夫でも、メディ.ロギオスが…』
恐らく片方に何か有れば、この転送魔法は失敗に終わる。
否…下手をすれば両者とも只では済まないだろう。
それを肌で感じたティミドは、咄嗟にロギオスへ励ましの言葉を掛けてしまう。
「メディ.ロギオス! 貴方の力は、その程度なのですか? しっかりして下さい!」
それは励ましと言うより、どちらかと言えば叱咜と言えた。
だがロギオスには効果が有ったようだ。
「フフッ…まさか、貴女のような小娘に励まされようとはね」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




