1430話・転送目前とティミドの苦悩
「フフッ…物理的には邪魔になりませんよ」
などと思わせ振りな言い様をするロギオス。
これにディーイープリームスは背筋に悪寒が走った。
『こいつ…私に何を持たせる気だ?!』
怪訝そうにする主君へ、ロギオスは不気味な笑みを浮かべて告げた。
「私は聖女陛下の臣下ではありますが、主治医でもあります。私が随行出来ない以上、代わりとなる物をお持ち頂くしか無いかと」
魔力出力を制御出来ない…かも知れないディーイー。
これを治療するには、どうやらロギオスに因る細かな観察が必要らしい。
かと言ってディーイーが龍国行きを止めないのは明白。
ならば、せめて観察用の道具を持てと言う訳だ。
「う、うん…分かった。気は乗らないけど…」
ディーイーは渋々受け入れる。
「では、これを…」
白衣の内側から何かを取り出したロギオスは、それをディーイーへ徐に手渡した。
「んん? 卵?」
首を傾げるディーイー。
それは鶏の卵より二回りほど小さく、卵にも見えるが鉱石のようでもあった。
何よりロギオスが手ずから渡したにしては、大して魔力も一切感じず魔導具にも見えない。
「火炎島に到着してから、それを優しく割って頂けますかな?」
「やっぱり卵なんだ?」
特に模様も無い真っ白な卵?を、ディーイーはマジマジと見つめた。
「さて、どうでしょうね。只、注意点が1つ…それを肌身離さず持っておいて下さい」
『まぁメディ.ロギオスが私に危害を加える訳も無いしな…』
「ふ〜ん……分かった。じゃぁ此処に入れとこ、」
頷いたディーイーは、その卵らしき物を胸の谷間に仕舞う。
それを見たティミドが何故か慌てる。
「ま、待って下さい! そんな怪しい物体を、その様な場所に入れるのは如何なものかと」
「ふぇ? そう…?」
しかしティミドの制止など気にも止めず、ディーイーはロギオスに告げた。
「じゃあ早々に転送魔法の補助をしてくれる?」
「プリームス様ぁ〜〜」
「えっ?! もう向かうの?!」
「準備とかしなくていいのか?!」
意に介さない主君へ泣き付きそうティミドに、突然の火炎島行きに戸惑うガリーとリキ。
一方、ロギオスは淡々と返した。
「承知しました。では魔法機構を発動して下さい」
「大丈夫、大丈夫。取り敢えず、皆は私の傍に集まってね」
そうして直ぐにディーイーは魔法を発動させてしまう。
「ちょっ! 本当に転送する気?!」
慌てるガリー。
ディーイーは意外に感じる。
『ほほう…転送魔法自体を信じるのか』
そもそも転送魔法自体が人間の域を超えているのだ、なのに転送されるのを確信じるのは変だ。
つまり見知っているか、或いは体験した事が有るかだろう。
『ふむ…そうなると神獣の加護で転送魔法、若しくは転送呪法が普通に可能そうだな』
実際、火炎島の騒動には他国の聖女が絡み、転送呪法まで行使した。
そう考えると北方の魔法水準は、大陸屈指と言えるかも知れない。
因みにリキは、何が起きるのか良く分かって居ない様子だ。
「おいおい! 今から火炎島に飛んで行くのか?!」
「飛んでって…違うわよ! 転送するの!」
ガリーに突っ込まれるが、いまいちリキは釈然としていない。
「んんん?」
そしてティミドはと言うと、こちらも色々と納得していない様子である。
『はぁ…何だか嫌な予感しかしないわ』
主君の病状?が気になるだが、これをメディ.ロギオスに委ねるのが一番の懸念だ。
その次に、そんな状態のまま北方に向かうのも本当は同意出来ない。
『せめてメーロースさんでも居れば、少しは私も安心出来るのに…』
かつて二代目ラスィア女王を倒そうと、行動を共にした戦友。
それほど以前の事では無いが、妙にメーロースの事が懐かしく思えた。
そして直ぐに、そんな自分へ落胆する。
『駄目ね…他人に頼ろうとするなんて』
過去を懐かしく思うのは、別に悪い事では無い。
しかし過去に囚われ思考停止するのは、正に只の現実逃避でしかないのだ。
どんなに納得いかずとも、また不安ばかり募ろうとも、何かを理由に考える事を止めてはいけない。
それが南方最強の軍事国家である騎士なら、尚更の事である。
『兎に角は、私が最善を尽くしてプリームス様を守るしかない』
そうティミドが心に誓った時、ディーイーの真上に黒い球体が顕現した。
転送魔法の要である斥候魔法だ。
するとロギオスが窓辺に立って尋ねた。
「聖女陛下…火炎島には帰送点を設置していますよね?」
「うん。後は主城上空の帰送点から、火炎島の帰送点を繋げるだけ。その繋げるのが大変だから魔力補助をして欲しいの」
「ふむ。ならば次元を圧縮して距離を縮めるか、又は斥候魔法の魔力補助か…どちらかになります。如何しますか?」
「え…? 火炎島の座標が分かるの!?」
流石のディーイーも驚いてしまう。
次元を圧縮する…それは要するに圧縮する方向が分かっているに他ならないからだ。
「私が分からない場所は殆ど有りませんよ」
然も当然のように返すロギオス。
『うへっ…それが分かってたなら、わざわざ帰送点を利用したりしなかったのに!』
などと文句を言いかけるが、我慢するディーイー。
勝手に斥候魔法を発動させたのは自分な為だ。
「じゃ、じゃあ次元を縮めながら斥候魔法を飛ばすから、両方への魔力補助をお願い」
「承知しました。では失礼して…」
とロギオスは言うと、躊躇う事なくディーイーの右手を握った…それも両手で包み込むように。
「こっ…!」
こらっ!…と言いかけて、何とか堪えたティミド。
『くぅぅっ!! 私にプリームス様を補助出来る魔法力と叡智が有れば…』
悔やまれて為らなかった。
この世は力と能力の有る者が、その独自の行動や判断を許される。
つまり"資格"な訳だが、無いなら黙って見守るしかない…それが世の常なのだから。
それを十二分に分かっているだけに、ティミドは己に言い聞かせるしかし術が無いのであった。
『今だけの我慢…今だけだから…』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




