1423話・ティミドの根回しと弊害
刹那の章III・政略結婚(28)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
火炎島に戻る当日。
プリームスは早く寝過ぎた所為か、早朝の5時に目覚めてしまう。
「う〜ん…何だか損した気分だな」
ベッドに横たわったまま、プリームスは天蓋を見つめて呟いた。
すると傍で寝ていたティミドが目を覚ましてしまう。
「プリームス様……お目覚めですか」
昨夜は流石にプリームスの体調を鑑みて、睦事は無く2人とも直ぐに就寝した。
なので素っ裸では無く、確りと寝巻を着用している。
と言ってもイリースィオから贈られた寝巻きなので、2人は随分と扇状的な格好と言えた。
とてもでは無いが他人には見せられない姿である。
直ぐさま上半身を起こしたティミドは、プリームスへ尋ねた。
「湯浴みの準備を致しましょうか? それとも先に何か召し上がりますか?」
もう殆ど傍付きの侍女に化したティミドへ、プリームスは苦笑を向ける。
「フフフッ…そんなに甲斐甲斐しく私の世話をしなくても良いのよ。他に侍女や使用人も居るのだし…」
「いいえっ! プリームス様のお世話をするのが私の喜びなんです!」
「え…そ、そうなの? じゃあ湯浴みしたいかな…」
「畏まりました!」
とティミドは返事をし、先程まで寝ていたとは思えない機敏さで寝室を出て行く。
そしてその扇状的過ぎるティミドの後ろ姿を見て、プリームスはニヤけてしまう。
自分も人の事を言えない格好だが、身内を目で楽しむ点では、実に有用な物だと思えた。
『フフッ…イリースィオの才能は棚から牡丹餅だな』
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2人でシッポリと湯浴みを済ませた後、プリームスはイリースィオから贈られた部屋着を着せられる。
勿論、人目を憚るような意匠では無いが、美貌を引き立たせる露出度の高い物だった。
『おぉう……これも身内を窃視した報いか…フッ』
プリームスは姿見の前で、自業自得な自分に自嘲する。
厳密にはプリームスに見られ怒る身内は居ないので、視姦が最も近い表現だろう。
何にしろ今回は身内に見られ、"楽しませる役回り"なのは間違いない。
「ウフフ…プリームス様は赤もお似合いですね。黒や白も厳かで品格を際立てますが、赤は素晴らしく艶やかに見えますよ」
などと嬉しそうに背後から窺うティミド。
「そ、そう…? 瞳が赤いからかな…」
今プリームスが着ている部屋着は、意匠的に問題無く出歩ける格好だ。
只、下着が淡く見える程に透け透けで、背中や胸元が大きく開いてしまっている。
また素材はキメの細かい絹で、製作者のイリースィオ曰く、東方の民族衣装を基礎にしたらしい。
「これはキトンと言うのですが、プリームス様には楽で宜しいかと。上に何か羽織れば、公的な場にも十分対応出来ますし」
「その羽織り物も、どうせ透け透けなんでしょ…」
と、つい突っ込むプリームス。
見られて減る物では無いが、下衆な男に窃視されるのは正直嫌である。
「まぁまぁ…艶やか且つ無防備な姿は、権威者の威を示すに打って付けなのです。聡明なプリームス様なら御理解いただけますよね?」
嫌とは言わせないティミドの言い様に、もはやプリームスは抗う術も無し。
『ティミドって…こんなに口が上手かったっけ?』
「はいはい…着ますよ」
女王や高位の貴族の女性は、その権威を示す為に衣服にも当然に拘る。
それは時代や流行に因って変わるが、基本的には露出するか、或いは真逆の厳かさへ二極化する。
ここで露出を選ぶ場合、肉体美の自慢も然る事乍ら、衣服が何の守りにも為らない点を自慢するのだ。
つまり淫らで薄っぺらい装いでも、それを許される地位と守る部下が居る…そう暗に主張する訳である。
そう考えると今の装いが些か下衆に思えてしまう。
そもそもプリームスは権威その物が好きでは無いからだ。
『でも身内が喜ぶなら我慢するか…』
望まれる衣装を着て、それだけで機嫌を取れるなら安いものである。
「あのぅ…プリームス様…」
改まった様子で何か言いたそうにするティミド。
「え、な、何? 他に何か有るの?!」
年甲斐もなくプリームスは怯える始末。
面倒事が増えそうで警戒したのである。
「あ…いえ、お体は大丈夫なのかと思いまして。やはり魔法で火炎島に戻られるのですか?」
プリームスは胸を撫で下ろした。
「その話か……え〜と、体の痛みは日常生活に支障ないよ。魔法での移動もティミドと2人なら大丈夫」
「2人…ですか」
ティミドは何故だか気不味そうにする。
「んん…どうしたの? 歯切れが悪いわね」
「……プリームス様が利用された貨物旅船の話をしましたよね」
「うん…転覆したけど、皆んな脱出して助かったのよね?」
「はい…その殆どがヘイス公国が保護したのです。と言うか、脱出用の小艇が港に押し寄せて来たので、已む無く受け入れた形ですね。それで…」
ここで察したプリームス。
「まさか…ガリーやリキさんが港町に居るの?!」
ティミドは頷くと、申し訳なさそうに告げた。
「プリームス様から話を伺った後、直ぐに使いを送って確かめました」
安堵したプリームスはヘナヘナと屈み込んでしまう。
「無事で良かった…」
皆が助かったと聞いていても、直に確かめた訳では無い…故に今まで不安が拭えなかったのだ。
「申し訳有りません…もっと早くにお伝えしたかったのですが」
「いや、良いのよ…確信を得るまで私に言えなかったのでしょ。色々と気を利かせてくれて有難うね」
ぬか喜びさせないティミドの配慮に、プリームスは頭が下がる思いだ。
「勿体無い御言葉…私は臣下として為すべき事を為したまでです」
ティミドは傍に跪いて言った。
『おぉぅ! 何と言う忠誠心!』
自分に盲信し過ぎては困るが、目利きと器量が良いのは家長として嬉しい限りだ。
「あの…実は主城へ来るよう手筈をしていまして…出過ぎた行いだったでしょうか?」
跪いたまま首を垂れ、ティミドは不安そうに尋ねた。
意味が分からず首を傾げるプリームス。
「ん? 何で出過ぎた行いなの?」
「その…仲間と合流すれば、魔法での移動が困難になるのでは…と」
「あ…!」
間抜けな声をプリームスは漏らした。
少し考えれば分かる事である。
しかしながら丸一日以上安静にしていた所為か、血の巡りが悪いようで、思考も虚ろだったようだ。
『うぅ…2人を探す手間は省けたけど、これじゃあ1週間以上はハクメイを…』
待たせる事になる。
問題が解決する度に、新たな問題が湧き上がる。
そんな現状にプリームスは項垂れて、暫く動けなくなるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




