1422話・配慮の行き違い
刹那の章III・政略結婚(28)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
聖女王専属の意匠裁縫師となったイリースィオ。
この大役に本人では無く、親であるシンセーロとドロースが大喜びした。
しかしその反面、不手際をしないか心配で仕方ない様子も見せる。
「本当に大丈夫なのか?」
家族団欒の夕食の席で、シンセーロは娘へ複雑な面持ちで尋ねた。
「お父様も心配なさるのですね。聖女陛下は難しく考えず、肩の力を抜くように言われましたよ」
あっけらかんと返す娘に、やはりシンセーロは不安を拭えない。
だがプリームスが身内に対して、特に女子に優しいのも事実だ。
『ここは少し様子を見るしかないか…』
決まってしまった物を今更変えられないのだから。
「そうか…ならば誠心誠意尽くしなさい」
「勿論です!」
食事そっちのけでイリースィオは元気に頷いた。
色々と心配事が増え頭を抱えるシンセーロは、次にティミドへ尋ねる。
「で…ティミドは聖女陛下に随行すると、」
これもまた心配事の1つだ。
「はい。"ご存知の通り"、プリームス様にはお目付け役が必要です。そして今直ぐに動けるのは私しか居ません、ならば自明の理かと」
ティミドの言葉に反論出来ず、シンセーロは少しばかり唸ってしまう。
「う〜む……しかしなぁ…」
ティミドは補佐官として優秀であり、傍を離れられては困るのも事実だった。
「お父様…プリームス様と御自身、どちらが大切ですか?」
ティミドから強い眼光を向けられ、ついシンセーロは目を逸らしてしまう。
「うむむ…勿論のこと聖女陛下が最も大切だ」
『姉妹2人して、ここまで肝が据わっていたか?!』
以前のティミドとイリースィオには考えられない様子だ。
「では、私はプリームス様に随行致します。既にプリームス様のご許可は頂いているので、問題有りませんよね?」
「分かった。そもそも補佐官の任は本国で決まった事…そこには聖女陛下の意向が有った筈。それを変更されると言うならば、私は大人しく従うまでだ」
プリームスの名を出された以上、臣下のシンセーロとしては異議を唱えられる訳も無い。
要するに末娘と同じ状況と言えた。
一方、ティミドはと言うと、
『お父様…ごめんなさい』
などと勝手な行為に内心で謝罪しつつも、ほくそ笑んでしまう。
後は滞り無く火炎島へ向かうだけだ。
「ところで聖女陛下のご様子は?」
一応、明日が主城を発つ予定だが、昼食以降から一切姿を見せずシンセーロとしては心配で為らない。
「大事をとってベッドで安静にされています。ですが魔法で戻るとなると、体に負担が掛からないか心配です…」
少し気落ちした様子で答えるティミド。
プリームスが全身筋肉痛なのは、自分の所為なだけに申し訳無さで一杯である。
「そうだな…急がないのであれば、船に因る移動も視野に入れた方が良かろう。それなら同時に軍事支援の先遣隊も随行出来る」
「はい…プリームス様のご意向を確認しておきますね」
先遣隊が随行すれば、万が一の際は心強い。
されどプリームスと2人きりになれないのは、ティミドにとって辛くもあった。
『はぁ…また利己的な事ばかりね、私は…』
そして自己嫌悪に陥るのである。
また2人きりになれない理由は、実は他に有ったりする。
それは主君を思い配慮した結果なのだが、何とも儘為らないと思わざるを得ないのだった。
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ティミドが部屋に戻ると、プリームスは寝室のベッドでぐったりしていた。
「プリームス様、お加減は如何ですか?」
傍まで来て心配そうに尋ねるティミドに、プリームスは苦笑いを浮かべる。
「うん…痛みは随分とマシにはなったよ。何とか明日には発てるかな」
「左様ですか。食事はどうなさいますか?」
食欲が無かったプリームスは、招待されていた夕食会を断っていたのだ。
元から食が細いのに更に抜いてしまえば、尚のこと食べられなくなる。
だからこそ食べて欲しいのだが、ティミドが無理強い出来る訳も無い。
「スープでも貰おうかな。昼食も余り食べられなかったし…」
そう答えたものの、実は全く食欲が無いプリームス。
せめて何か口にしないと、ティミドを心配させてしまうので仕方無くだった。
「ご無理をしていませんか?」
「え…? な、何の事かな?」
咄嗟に惚けるが、うっかりプリームスは吃ってしまう。
「やっぱり無理をされていたんですね。ひょっとして昼食会の時からですか?」
「う〜ん…」
何故か嘘を付けず、誤魔化しにもならないプリームス。
「はぁ……やはり魔力を使い過ぎた影響ですよね? そうなると明日は火炎島まで転送魔法を使えないのでは?」
ティミドは呆れてしまい溜息が出た。
臣下である自分に心配させないよう配慮したのだろうが、それで主君であるプリームスが無理をしては意味がない。
「多分…大丈夫だと思う…」
自信なさげに答えられては、ティミドとして取れる行動は1つだけだ。
「お急ぎでないのなら、もう船を使って火炎島に向かうしかりませんね。と言うか、船での段取りをしておきます。宜しいですね?」
「え?! そんなの何日掛かるか……ハクメイが心配しちゃうよ」
「私や他の臣下の心配は無下に為さるのですか? それでなくとも本国では…」
宰相や王妃が気を揉んでいるに違いないのだ。
だがそれを口にするのは、ティミドとしては躊躇われた。
本国から家出して来たのに、それを引き合いに出しては酷だからだ。
「うぅぅ……」
するとプリームスは、ぐうの音も出ず泣きそうな表情を浮かべた。
『あぁ……私とした事が…』
心配するあまり、ティミドは配慮に欠けた言動をしてしまった。
それで主君を傷付けたり、困らせては本末転倒である。
「も、申し訳ありません! 出過ぎた言い様でした」
急に土下座からの謝罪をされ、プリームスは呆気にとられ泣き顔が引っ込んだ。
「え?え? どうしてティミドが謝るの?!」
「え? あ……その…飽く迄も私は臣下ですので、諫めるにしても言い方が……」
「プッ…!」
そんなティミドを見て、プリームスは小さく笑いが漏れた。
「プリームス様?!」
「あ~~ごめんごめん。お互いに気を遣い過ぎたんだね…きっと。それで食い違うなんて滑稽だと思ったの」
「あ……」
全くその通りだとティミドも思えた。
ならば一方的に配慮するのでは無く、相手から直に気持ちを聞いて、そして意を汲んだ上で配慮すべきだろう。
「そうですね…では明日になってから、もう一度考えましょうか」
「うん…色々とゴメンね。それに有難う」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




