1421話・イリースィオの進物(2)
刹那の章III・政略結婚(28)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
贈り物の箱を開けたティミドは、その中身に驚きを隠せないでいた。
何と扇状的な下着の上下が入っていたからだ。
「こ、これは流石に…」
「流石に…何ですか?」
不思議そうに尋ねるイリースィオ。
「……隠すべき場所が隠せていないと言うか…」
細かく指摘する事をティミドは躊躇う。
『こんなの…具が見えちゃうわ!』
「んん? どうして隠す必要が有るのですか?」
イリースィオは首を傾げる。
「へ…? どうしてって…そもそも下着は、大事な秘部を隠す為に有るのよ」
「普通はそうでしょう。でも私が贈る物は2人だけの逢瀬に使って貰いたいのです。つまり、どうせ裸になるのですから、映える下着をと思ったのですよ」
「……」
憚る事なく説明する妹に、ティミドは唖然としてしまう。
「え? どんな下着なの? 私にも見せて」
明らかに動揺するティミドの様子から、プリームスは好奇心が刺激された。
イリースィオは手早く下着を取り出して、動けない主君の前に広げて手で吊るして見せた。
「どうぞ! 聖女陛下」
「おおっ?!」
奇抜?な意匠にプリームスも驚かされる。
『こんなの誰が考えたのやら…』
上下一組の下着で色は黒だ。
そして下のショーツは美しいレースで彩られているが…透け透け。
しかも隠すべき場所が見事にパカっと開いている。
また上の下着も同じくレースで飾られ、同様に突起になる部分がパカっと開いているのだった。
「如何でしょうか? 愛する者同士の逢瀬にぴったりだと思いませんか?」
自信満々に感想を聞こうとするイリースィオ。
これにプリームスもタジタジである。
「え〜と…うん…良く考えられてるわね」
「後は色違いの物や、スリップ、キャミソール、ビスチェ、テディなど揃えてあります。きっと御満足頂けるかと」
鼻息荒く説明するイリースィオだが、プリームスとティミドはドン引きだ。
「そ、そうなの…凄いわね…」
「そんなに沢山…」
すると鈍感なのか、又は反応を気にしていないのか…イリースィオの力説は続く。
「下着は確かに秘部を隠し守る物です。しかし、その必要が無い場合は無用の長物なのでしょうか? いいえ…違います!」
「え? ち、違うの?」
つい反応してしまうプリームス。
その所為でイリースィオの説明は勢いを増した。
「はい! 睦事には脱がせる楽しみもあるでしょう。ですが後は用を為しません…それでは勿体無いのです。なので下着を脱がせず、そのまま目でも楽しめる意匠を考案したのですよ」
「ちょ、ちょっと待って! 今…考案と言った?」
慌てて聞き返すティミド。
然も当然のようにイリースィオは答えた。
「はい…そう言いました。これらの下着などは私が考案し、私自身が作成した物ですよ」
「あ、貴女が…1人でこれを?!」
「そうですが…何か変ですか?」
「そ、そうなんだ……」
何の才能も無いと思われていた妹…その彼女が裁縫や意匠の才能を持っていた。
この事実にティミドは驚かされるばかりだ。
その驚きはプリームスも同じだった。
『ほえ~~15歳の女の子が考えるには少し過激だが…物自体は素晴らしいな。これは著名な裁縫士の銘柄にも引けを取らないぞ』
「それで…如何でしょうか? 受け取って頂けますか?」
ここで急に怖々となるイリースィオ。
『あぁ…そう言う事か』
プリームスは察した。
ここまで捲し立てるように力説したのは、イリースィオの中で自信は有っても喜ばれる確信が無かったからだろう。
故に理解して貰おうと力んでしまった…そう考えると可愛らしく思える。
「うん、有難く受け取らせて貰うよ。それと意匠に対する繊細な感性には感服した。実に素晴らしいよ」
「あ、有難う御座います!」
プリームスの言葉に、イリースィオは感激する。
本音で言えば、聖女王と姉との関係が更に良くなる事を願って下着を作ったのだ。
それは詰まり聖女王への贈り物と言いつつも、姉の幸せを願ったに他ならない。
『なのに…このお言葉』
有難さと申し訳なさで気持ちが一杯になった。
「そこで提案なのだが…いいかな?」
少し改まった様子で確認を取るプリームス。
「え? あ、はい! 何なりと」
怪訝さを抱きつつも、イリースィオが嫌と言える筈も無い。
「君の意匠は本当に素晴らしいと思う。例えば用途や状況に沿った考え、また見るからに着心地の良さも窺える。それでだ、良ければ私専属の意匠師、若しくは裁縫師にならないかね?」
まさかの提案にイリースィオは固まってしまう。
「え………」
いつも主君の言動には驚かされるが、今回もまた突拍子も無くティミドは半ば唖然とする。
「……よ、宜しいのですか?」
"王の専属"と付けば、それなりの権威を有する事になる。
そんな地位に何の実績もない15歳の少女が就くには、些か問題が有るように思えた。
「ん? 何か心配する事があるの?」
不思議そうに問い返すプリームス。
「いえ…プリームス様が宜しいのなら、私は特に異議は有りません。只、どんな仕事にも期日は有り、また要求される一定の水準が存在しますよね? それをイリースィオが満たせるかと思うと…」
正直、妹の事ながらティミドは不安で仕方がない。
「んん? その考えは良く分からないな…。ティミドが言ってるのは建前で、他に真意が有るんじゃないの?」
鋭いプリームスの突っ込みに、ティミドはハッとさせられた。
「…!」
『あ……私は無意識に…』
妹を主君から遠ざけようとして居たのかも知れない。
実際、自分の事ばかりを考え、妹が主君に近付くのを良く思っていなかった。
挙句の果てには監視する為、2人の後を付け回す始末…恥ずかしくて仕方が無い。
「申し訳有りません…私は利己的な行動ばかりしていたようです」
「まぁまぁ、そんかに落ち込まないで。誰だって利己的な部分は絶対に有るから。問題は度が過ぎず、他者との関係を崩さない事が重要なのよ」
そこまで言ったプリームスは、イリースィオを見つめて尋ねた。
「で、貴女の返答は?」
「え? あ! 聖女陛下のご提案を断る理由は御座いません。私なんかで務まるか自信は有りませんが、ご期待に添えるよう頑張ります」
「そ、そう…良かったわ。兎に角は肩の力を抜いてね…」
世界は多種多様な才能で動かされている。
その中でも衣食住は人にとって欠かせない物で、だからこそ重要度も高い。
だがプリームスはイリースィオの意外性に着目した。
何か面白い事をやってのける…そんな淡い期待を抱いたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




