1413話・思わぬ足止めの聖女王
刹那の章III・政略結婚(25)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
プリームスは先ず、自分が家出中だと言う事をシンセーロ等に告げる。
するとシンセーロだけで無く、ティミド、バドズィーナミア、それに居合わせたレティ-センシアまでもが唖然とした。
「え…そんなに驚く事かな?」
可愛らしく小首を傾げるプリームスを前に、一同は深い溜息を漏らす。
「はぁ……今頃、宰相閣下がどんな顔をしているか目に浮かびますな」
「はい…きっと心配で目の下にクマが出来てるに違い有りません」
「捜索部隊…いや、捜索軍が出たりしないだろうか?」
「本国は大騒ぎでしょうね…」
『えぇぇ!? そんなに大層な事かぁ?!』
プリームスからすれば、自分はお飾りな王でしかないと考えていた。
なので家出に因り国の運営に支障をきたす訳も無い。
だが得てして人間とは、自己認識と他者との認識に齟齬が有ったりする。
例えば思ったより重要だったり、また真逆だったり…これは擦り合わせ不足が原因とも言えるだろう。
「う〜ん……私は何か自分に対して見落としているのか?」
そうしてプリームスから出た言葉が"これ"である。
当然、居合わせた面々は頭を抱えた。
中でもシンセーロが特に苦々しい表情で、プリームスへ苦言を呈する事態に。
「聖女陛下…貴女様はご自身の重要性を軽視し過ぎかと。その叡智や武や魔法力も然る事乍ら、御身自体が永劫の王国の存在意義なのですよ」
『うぅ…既視感が……』
ホウジーレンに同じ事を言われたのをプリームスは思い出した。
これは要するに"皆同じ考え"だと言う証拠になる。
シュン…と小さくなるプリームスを見て、シンセーロは烏滸がましかったと後悔する。
そもそも、この破天荒さと御節介な為人のお陰で、自分たち東方の民も救われたのだから。
差し当たって今は、主君の意を汲むしか無いだろう。
「家出した後なのですから今さら詮無い事です。兎に角は御用件を伺いましょう」
「うん…実は、」
プリームスは家出の起因は別として、単身で動いた本来の目的を説明した。
「つまり以前に傘下に置いていた臣下を探す為、わざわざ御一人で北方へ向かったと。更に道中で火炎島の騒動に巻き込まれて…」
要約するシンセーロの後にプリームスが続いた。
「色々あって、追々に火炎島を永劫の王国の属領にする事になったわ…」
「はは…ははは……流石はプリームス様です」
ティミドから乾いた笑いが溢れた。
庇いようが無いので、もう褒めるしか無いと思ったのである。
『これは体質なのか気質なのか…』
行く先々で何かに巻き込まれ、或いは自ら諍いに首を突っ込む…正に天性のいっちょガミ。
などと突っ込める訳も無く、シンセーロは諦めて話を進めた。
「それで火炎島と貿易協定を結び、その裏で軍事支援を我らに任せたいのですね」
「うん、頼まれてくれるかな?」
「私は聖女陛下に任命された大総督です。そうせよと仰るのなら、私は従うまでです」
とシンセーロは然も当然の如く答えた。
「ありがとう。忙しくなると思うけど宜しくね」
「御意…」
「さて…用件も済んだし、火炎島に戻ろうかな」
プリームスが席を立ち掛けた時、ティミドが物悲しそうな視線を向けて来た。
『え……な、なんだろ?!』
更にジッと見つめられ、堪らず尋ねてしまう。
「ティミド…どうかした?」
「随分と久方ぶりと言うのに、直ぐに戻ってしまわれるのですか?」
「えっと……」
可愛いティミドと過ごすのは吝かでは無いが、相手は既婚者で、しかも傍に夫《レティー-センシア》まで居る。
無論のことプリームスは戸惑う羽目に。
そうするとレティーが気を利かせた風に言った。
「聖女陛下さえ宜しければ、ティミドの相手をしてやって下さい。随分と寂しがっていましたから」
女同士とは言え、性的に仲が良いと"言えなくも無い"プリームとティミド。
それを知っていての態度なら相当に忠義に暑いか、或いは妻に甘いかのどちらかだろう。
何にしろプリームスとって、半ば唖然とする事態に変わりは無かった。
「えぇぇ…?! 良いの?」
「え? 良いも何も小官が口を出す事では無いかと…」
ズッコケそうになるプリームス。
『おいおい…完全に尻に敷かれてるじゃないか。しかし…』
本当に久方ぶりなので親交を深める…もとい確かめ合うのも悪くない。
「そ、そう? じゃあ1日ほどユックリして行こうかしら」
これを聞いたティミドは諸手を上げて喜んだ。
「やった!」
「フフッ…それでしたらイリースィオにも会って頂けますか? あれも聖女陛下を随分と尊敬しているので、きっと喜ぶ筈です」
などと親バカ発言をするシンセーロ。
イリースィオは腹違いの妹で、以前はティミドと母子共に険悪だった。
だが今は良好過ぎる程の関係となっている。
「え? あ…そ、そうね」
『ティミドの妹か…殆ど接点が無かったしなぁ〜』
嫌とは流石に言えず、それとなくプリームスは濁した。
ここで透かさずプリームスの腕に抱き付くティミド。
「プリームス様、食事はお済みですか?」
「ん? あ〜〜今は空いてないかな。後で軽い夜食でも貰えたら助かる」
「分かりました! では先に湯浴みを済ませましょうか」
有無を言わせない流れを作るティミドに、プリームスはタジタジである。
「え、あ…うん。分かった…」
『って、"先に"って何だ?!』
まさかシッポリ行くのが確定?…と勘繰ってしまう。
と言うか、十中八九そうなる確信があった。
そのままグイグイとティミドに引っ張られ、プリームスは大食堂を後にする。
それを複雑な思いで見送るシンセーロ。
『やれやれ…聖女陛下が来られた事を、いつまで隠し通せるやら…』
恐らく宰相スキエンティアが血眼になり、プリームスの行方を探っているに違い無い。
そして露見した場合、スキエンティアの怒りの矛先が東方に向かわない事を願うばかりであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




