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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
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1410話・生まれの柵、親子の絆

刹那の章III・政略結婚(25)も更新しております。

そちらも宜しくお願い致します。

「切迫した事態だったとは言え、私はこの島の神獣を殺めてしまった。本当に申し訳ない」

ディーイーは頭を下げて謝罪を口にした。



これにホウジーレンは慌てる。

「せ、聖女陛下! お止め下さい!」

手間を掛けてしまった挙句、造反騒動の収拾までディーイーにさせてしまった。

謝罪をせねば為らないのは此方の方なのだから。



「しかし…神獣ロンヤンが失われた今、この島を守る加護も失われた。今思えば、他に最善の方法が有ったのではと悔やまれてね…」



柄にも無くシュン…とするディーイーを見て、ホウジーレンは恐縮する羽目に。

「それはロン家や私自身の不手際が招いた結果…聖女陛下には何も責は御座いません。それに軍事支援で加護の問題は片付きます、どうかご自身を責めないで頂きますように」



「うん…」



空気が一気に暗くなり、どうにかしようとホウジーレンは思考を巡らせた。

『兎に角、話題を変えよう!』

「聖女陛下…造反者を如何に扱うか、ご意見を伺っても宜しいでしょうか?」



『え…? 造反者?』

大仰な言い回しの所為で、直ぐに思い出せなかったディーイー。

「あぁ〜〜ジア・イーリュウの事か…」



「左様です。本来は極刑なのですが…」



「そうね…造反した場合は極刑で家は取り潰し。一族も煽りを食うのが定石だわ。でも私は息子の命は取らないと約束したの」



「ではジア・イーリュウだけを死罪にし、血縁と分家などの一族は罪を問わない…その様に致しましょう」



「うん。でも地位の剥奪と財産の接収は忘れないで。命を取らないと約束はしたけど、今までの行いは許されないからね」

そこまで言った後、ディーイーは失念していた事を思い出した。

「あ…! 息子…え〜と…オーフアだったか。彼に火炎島へ貢献するように言い付けたの。だから…」



「分かりました。彼の今までの罪が償えるよう、何か仕事を与えましょう」



「勝手な事をして御免ね」



「いえいえ! 滅相も有りません、お手を煩わせてしまったのは私なのです。それにもう火炎島は聖女陛下の物なのです、何を憚る事が有りましょうか」



『こいつ…口が上手いな』

なとと思うディーイーだが、ここはホウジーレンに敢えて転がされる事にした。

「そう…なら良かったわ」



こうして差し当たっての問題は整理され、止まっていた食事を再び始めた2人。


この時、何か話しをすべきか逡巡するホウジーレン。

かと言って食事の手を止めてしまった事もあり、下手に話し掛けるのは躊躇われた。


一方、ディーイーは豪勢に振舞われた料理を堪能していた。

ハクメイや侍女のシンが用意してくれた料理も悪くなかったが、今回は賓客として扱われているのが十分に分かる程だ。


ふと、ホウジーレンの視線に気付く。

「何? 他に話したい事でも有るの?」



「いえ…そう言う訳では…」



「フッ…別に気遣って無理に会話をする必要は無いわよ。いつも通りに、あと常識の有る振る舞いをしていれば、私は何も咎めはしないから」

実際のところディーイーは、男と話しても然して嬉しくないのである。

ならば要件だけ済ませて黙って貰える方が、本音で言えば有り難かった。



この扱いにホウジーレンの胸中は驚きに彩られる。

『成程…そもそも私など眼中に無いのか、』


美青年と名高いホウジーレンは、既婚未婚問わずに女性から人気があった。

その所為で居城で催される社交場では、婦女子からの猛アピールが後を断たない。


そこには領督の妾や第二夫人の地位を狙い、打算的に近付く者も当然に居るだろう。

それでも見た目の良さが強く影響しているのは、自他共に認める事実でもあった。


しかしながら絶世の美貌を前にすると、自分が自惚れていた事を自覚する。

『聖女陛下が月ならば、私はスッポンだな…』


ただ救いが有るとすれば、聖女王が理知的で倫理観の有る為人だった事だろう。

そうでなければ今頃、自分と火炎島は見捨てられていたに違いないのだから。



食べるのに疲れたのか、ディーイーは箸を置いた。

それを見計らったホウジーレンは、大食堂で待つ2人の事を口にした。

「ハクメイとシンが待っているかと」



「そうね…」

ディーイーは席から立ち上がり、そして念を押すように尋ねた。

「本当にハクメイを連れて行くわよ?」



「はい…託させて頂きます」



「連れては行くけど、彼女の故郷は此処に変わり無い。だから白黒明確に割り切る理由も無いわ」



「聖女陛下……」

ディーイーが何を言わんとしているか、ホウジーレンは直ぐに察した。

親子の縁、それに絆は簡単には切れない…そうディーイーは暗に告げているのだ。

「分かりました…娘の帰る場所を守りましょう」


たとえ互いに割り切ったつもりでも、その思いは潜在下に根を張っているものだ。

故に知らず知らずの内に、互いの人生に影響を与えてしまう。

それが切っても切れない縁…親子の絆なのだ。

『無理に抗う必要は無い…か』


恐らくハクメイも同じ葛藤を抱いていた筈だ。

そうでなければ出奔を留まり、自分を助けようと戻ったりしない。



「フフッ…吹っ切れた顔だな。もう私がとやかく言う必要も無さそうだ」

そう告げたディーイーは踵を返しテーブルを離れたのだった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






そこはジメジメとした空気と、冷んやりとした空気が同居する歪な場所。

居城の地下に古くから存在する牢獄だ。

ここは罪の重い人間や、重要な取り調べを控える者たちが一時的に投獄される。

そんな最奥の牢にジア・イーリュウは投獄されていた。



「…!」

誰もいない筈の地下牢フロアーに、何者かが近付いてくる気配をイーリュウは感じた。



「私の姦通をホウジーレンに話さなかったのね…」



「どうして此処に…?!」

鉄格子を隔てた先に、淡い赤毛の貴婦人が立っていた。

そう彼女はイーリュウが愛した女…領督妃ベイパンだった。



「……私に惑わされて、最後は命を落とす羽目になるなんて…余りにも盲目過ぎるわ。もう少し不確定要素に対する配慮が有れば…」

ベイパンは誰にともなく残念そうに呟いた。



「ベイパン…?」



「もう貴方は用済みなの…長い付き合いだったけど、ご苦労様」



「…?!?」

イーリュウは左胸が焼けるよう熱さを感じる。

直後、口から何かが溢れ出し鉄の味がした。



ベイパンの袖先から放たれた小型の槍が、イーリュウの心臓を貫いていたのだ。

「さようなら…」



「ば、馬鹿な……40年の歳月を…騙し通して……!?」

ドッと倒れ込むイーリュウ。



「違うわ…幼少時に本物のベイパンと入れ替わっていたのよ。全ては亀国が炎龍ロンヤンの力を得る為にね」

そう愛した女の声が聞こえた刹那、イーリュウの意識は無へと帰してしまうのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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