1410話・生まれの柵、親子の絆
刹那の章III・政略結婚(25)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
「切迫した事態だったとは言え、私はこの島の神獣を殺めてしまった。本当に申し訳ない」
ディーイーは頭を下げて謝罪を口にした。
これにホウジーレンは慌てる。
「せ、聖女陛下! お止め下さい!」
手間を掛けてしまった挙句、造反騒動の収拾までディーイーにさせてしまった。
謝罪をせねば為らないのは此方の方なのだから。
「しかし…神獣が失われた今、この島を守る加護も失われた。今思えば、他に最善の方法が有ったのではと悔やまれてね…」
柄にも無くシュン…とするディーイーを見て、ホウジーレンは恐縮する羽目に。
「それはロン家や私自身の不手際が招いた結果…聖女陛下には何も責は御座いません。それに軍事支援で加護の問題は片付きます、どうかご自身を責めないで頂きますように」
「うん…」
空気が一気に暗くなり、どうにかしようとホウジーレンは思考を巡らせた。
『兎に角、話題を変えよう!』
「聖女陛下…造反者を如何に扱うか、ご意見を伺っても宜しいでしょうか?」
『え…? 造反者?』
大仰な言い回しの所為で、直ぐに思い出せなかったディーイー。
「あぁ〜〜ジア・イーリュウの事か…」
「左様です。本来は極刑なのですが…」
「そうね…造反した場合は極刑で家は取り潰し。一族も煽りを食うのが定石だわ。でも私は息子の命は取らないと約束したの」
「ではジア・イーリュウだけを死罪にし、血縁と分家などの一族は罪を問わない…その様に致しましょう」
「うん。でも地位の剥奪と財産の接収は忘れないで。命を取らないと約束はしたけど、今までの行いは許されないからね」
そこまで言った後、ディーイーは失念していた事を思い出した。
「あ…! 息子…え〜と…オーフアだったか。彼に火炎島へ貢献するように言い付けたの。だから…」
「分かりました。彼の今までの罪が償えるよう、何か仕事を与えましょう」
「勝手な事をして御免ね」
「いえいえ! 滅相も有りません、お手を煩わせてしまったのは私なのです。それにもう火炎島は聖女陛下の物なのです、何を憚る事が有りましょうか」
『こいつ…口が上手いな』
なとと思うディーイーだが、ここはホウジーレンに敢えて転がされる事にした。
「そう…なら良かったわ」
こうして差し当たっての問題は整理され、止まっていた食事を再び始めた2人。
この時、何か話しをすべきか逡巡するホウジーレン。
かと言って食事の手を止めてしまった事もあり、下手に話し掛けるのは躊躇われた。
一方、ディーイーは豪勢に振舞われた料理を堪能していた。
ハクメイや侍女のシンが用意してくれた料理も悪くなかったが、今回は賓客として扱われているのが十分に分かる程だ。
ふと、ホウジーレンの視線に気付く。
「何? 他に話したい事でも有るの?」
「いえ…そう言う訳では…」
「フッ…別に気遣って無理に会話をする必要は無いわよ。いつも通りに、あと常識の有る振る舞いをしていれば、私は何も咎めはしないから」
実際のところディーイーは、男と話しても然して嬉しくないのである。
ならば要件だけ済ませて黙って貰える方が、本音で言えば有り難かった。
この扱いにホウジーレンの胸中は驚きに彩られる。
『成程…そもそも私など眼中に無いのか、』
美青年と名高いホウジーレンは、既婚未婚問わずに女性から人気があった。
その所為で居城で催される社交場では、婦女子からの猛アピールが後を断たない。
そこには領督の妾や第二夫人の地位を狙い、打算的に近付く者も当然に居るだろう。
それでも見た目の良さが強く影響しているのは、自他共に認める事実でもあった。
しかしながら絶世の美貌を前にすると、自分が自惚れていた事を自覚する。
『聖女陛下が月ならば、私はスッポンだな…』
ただ救いが有るとすれば、聖女王が理知的で倫理観の有る為人だった事だろう。
そうでなければ今頃、自分と火炎島は見捨てられていたに違いないのだから。
食べるのに疲れたのか、ディーイーは箸を置いた。
それを見計らったホウジーレンは、大食堂で待つ2人の事を口にした。
「ハクメイとシンが待っているかと」
「そうね…」
ディーイーは席から立ち上がり、そして念を押すように尋ねた。
「本当にハクメイを連れて行くわよ?」
「はい…託させて頂きます」
「連れては行くけど、彼女の故郷は此処に変わり無い。だから白黒明確に割り切る理由も無いわ」
「聖女陛下……」
ディーイーが何を言わんとしているか、ホウジーレンは直ぐに察した。
親子の縁、それに絆は簡単には切れない…そうディーイーは暗に告げているのだ。
「分かりました…娘の帰る場所を守りましょう」
たとえ互いに割り切ったつもりでも、その思いは潜在下に根を張っているものだ。
故に知らず知らずの内に、互いの人生に影響を与えてしまう。
それが切っても切れない縁…親子の絆なのだ。
『無理に抗う必要は無い…か』
恐らく娘も同じ葛藤を抱いていた筈だ。
そうでなければ出奔を留まり、自分を助けようと戻ったりしない。
「フフッ…吹っ切れた顔だな。もう私がとやかく言う必要も無さそうだ」
そう告げたディーイーは踵を返しテーブルを離れたのだった。
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そこはジメジメとした空気と、冷んやりとした空気が同居する歪な場所。
居城の地下に古くから存在する牢獄だ。
ここは罪の重い人間や、重要な取り調べを控える者たちが一時的に投獄される。
そんな最奥の牢にジア・イーリュウは投獄されていた。
「…!」
誰もいない筈の地下牢フロアーに、何者かが近付いてくる気配をイーリュウは感じた。
「私の姦通をホウジーレンに話さなかったのね…」
「どうして此処に…?!」
鉄格子を隔てた先に、淡い赤毛の貴婦人が立っていた。
そう彼女はイーリュウが愛した女…領督妃ベイパンだった。
「……私に惑わされて、最後は命を落とす羽目になるなんて…余りにも盲目過ぎるわ。もう少し不確定要素に対する配慮が有れば…」
ベイパンは誰にともなく残念そうに呟いた。
「ベイパン…?」
「もう貴方は用済みなの…長い付き合いだったけど、ご苦労様」
「…?!?」
イーリュウは左胸が焼けるよう熱さを感じる。
直後、口から何かが溢れ出し鉄の味がした。
ベイパンの袖先から放たれた小型の槍が、イーリュウの心臓を貫いていたのだ。
「さようなら…」
「ば、馬鹿な……40年の歳月を…騙し通して……!?」
ドッと倒れ込むイーリュウ。
「違うわ…幼少時に本物のベイパンと入れ替わっていたのよ。全ては亀国が炎龍の力を得る為にね」
そう愛した女の声が聞こえた刹那、イーリュウの意識は無へと帰してしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




