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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
1502/1769

1409話・龍化の原理(2)

刹那の章III・政略結婚(23)と(24)も更新しております。

そちらも宜しくお願い致します。

「まぁ思い付かなくて当然だろう。身近な存在では無いからな」



思わせ振りな言い様をディーイーにされ、ホウジーレンは苦笑いを浮かべた。

「そう勿体ぶらずに教えて頂けませんか?」



「フフッ、抜け目ない卿でも分からないのだな」

そう少しだけ揶揄した後、ディーイーは答えを口にした。

「吸血鬼だよ。私の知る限りでは、肉体を変質変化できる唯一の存在だろう」



「きゅ、吸血鬼ですか。ですが私にしてみれば伝説の存在なので、その…いまいち理解し難いと言うか、しっくりこないというか…」

そこまで言ったホウジーレンは、失念していた事に気付く。

永劫の王国アイオーン・ヴァスリオには超絶者ばかりが在籍するが、その内の一人に吸血鬼が居るのだ。


そして知識欲が刺激されてしまう。

自分がロンヤンより与えられた知識と、聖女王が持つ英知…この二つが如何に共通しているのか?

また齟齬が有れば、それはそれで議論のし甲斐が有って面白い。

「聖女陛下! 是非詳しくお聞かせ願えますか?」



「う、うん…え~っと……」

今にも詰め寄ってきそうな勢いのホウジーレンに、少し引くディーイー。

『この男…切れ者ではあるが少し変わってるな』

最初は腹の底を上手く隠し、またしたたかな権謀家の印象だった。

しかし今は妙な人間臭さと、学者然とした為人を感じる。



困惑しているディーイーに、とうとうホウジーレンが詰め寄ってきた。

「吸血鬼は体を如何にして変質変化させるのでしょうか? 陛下は直に目にして、その原理をご存じなのでしょう?」



「ちょっ! 近い近い!」

何とかホウジーレンを押し返し、席に座らせたディーイー。

変に興味を刺激して勿体振った事を、今更だが後悔する。


『やれやれ…気持ちは分からんでも無いが、』

恐らく同等以上の知識を持ち、話の通じる相手が乏しかったのだろう。


ある程度の相互理解を経て、人間は他者との関係性を深める。

つまり相手を理解出来ねば、そこから親密な関係には発展しない。

それが恋愛であっても、また志を共にする事でも然りだ。

故にホウジーレンは孤独だったのかも知れない。


だからと言ってガッ付かれても困る。

『さっさと説明を済ませて、他の話を進めよう…』

「吸血鬼は存在力の根幹を別次元…え〜と、精霊界アストラルサイドに置いているの。だからこの物質世界の体が損傷しようが全く問題無くて、死ぬ事なんて無いの。ここまでは分かる?」



「成程! 要するに不死者アンデット系は、この物質世界での姿は仮初なのですね! それ故に物質界では如何様にも出来ると?」



ホウジーレンの反応に、ディーイーは感心した。

『おおおっ! こやつ…理解が早いな!』

「その通り! まぁ吸血鬼自身が持つ魔法力や魔法技術に依存もするわ。そうなれば肉体を変質変化させる技術を持たない吸血鬼も居る筈よ」



「実に興味深いです。では吸血鬼が備える二つの次元の仕組みが、龍化と同じ原理だと聖女陛下はお考えなのですね?」



「うん。私の推測では人間の体と龍の体を、同じ次元に保管していると視ているわ。それを用途に因って別次元から取り出して、物質世界へ召還するって感じかな?」



怪訝そうにホウジーレンは目を細めた。

「召還…ですか。召喚ではなく?」



「”召還”よ。多分だけど、この物質世界に復帰点を設定してるでしょ? 人間の体と龍の体の2つが別次元に在ると、そもそも”入れ替え”が出来ないからね。だから厳密にいうと別次元で入れ替えた肉体を、この物質世界に召還している…これが正解と思うわ」



これを聞き目を見張るホウジーレン。

『まさか…これ程とは……』

そして首を垂れて畏怖の念を示した。

「聖女陛下の叡智…まことに感服致しました」



「いや…別に感服されても嬉しくは無いんだけどね。で…私の推測で合ってるかしら?」



「はい! 聖女陛下の仰る通り別次元に肉体を置いて、出し入れをしております。ですが吸血鬼のように不死では有りませんので…」



「あ~成程ね。つまり入れ替えて使っている肉体に、存在力の全てが集中している訳か。吸血鬼と原理は似ていても、その辺は普通の生き物と何ら変わらないのね」



少し残念そうにするディーイーを見て、ホウジーレンは何故か慌てた。

「も、申し訳ありません……神獣ロンヤンの叡智を以ってしても、吸血鬼には及びません」



「フフッ…何で卿が謝るのよ」

『まぁ魔神王の叡智…いや、神の叡智かも知れない吸血鬼に、神獣が及ぶ訳も無いわね』

取り敢えずは知りたいことも知れた、なら別の問題を早々に片付けるべきだろう。

「ところでハクメイの件なんだけど…」



「はい? 娘が如何されましたか?」



「あの娘は私が貰っても良いのよね?」



ある意味で率直、ある意味で欲丸出しのディーイーの質問。

これにホウジーレンは苦笑で返した。

「フフフッ…あの子は既に聖女陛下へ託させて頂いたのです。今更になって返せとは口が裂けても言えません」



「ん? それは要するに返して欲しいが、烏滸がましくて言えないと?」



「いえいえいえ!! 違うのです! きっと娘は聖女陛下の元に居る方が幸せなのです。それに聖女陛下ほど立派なお方は居られません。そんな貴女様に託せるのですから親冥利に尽きると言うものですよ」



「そうか…それなら良いのだけど」

ホッと胸を撫でおろすディーイー。

正直、ホウジーレンに返せと言われれば、赤の他人である自分は返すしか無かった。

余ほどの問題がない限り他者が家族に割って入るのは、只の余計なお世話になるのだから。


そして次の問題…これは今回の騒動に起因であり、ディーイーが最も気にしている事だった。

「え~と……卿に謝罪する事があるわ」



不思議そうに首を傾げるホウジーレン。

「謝罪…ですか?」



「うん……切迫した事態だったとは言え、私はこの島の神獣を殺めてしまった。本当に申し訳ない」

ディーイーは先ほどまでの態度と打って変わって、深々と頭を下げた。



「せ、聖女陛下!! お止め下さい!」

これにホウジーレンは慌てて立ち上がり、膝を黒檀のテーブルに打ち付けて悶絶してしまうのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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