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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
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1404話・暗躍の使徒(2)

刹那な章III・政略結婚(22)も更新しております。

そちらも宜しくお願い致します。

ロンヤンを覆う巨大な結界。

それは淡い光を放ち、恰も神獣の降臨を啓示する儀式の様に見えた。

しかし真実は真逆。

この包み込む光は神獣の意識を侵食し、自我と本能を分離する強力な呪法だったのだ。



「フッ…やはりロンヤンは自我の寿命が迫っていたようだな」

亀国の聖女は眼前の巨体を見上げ、笑みを浮かべ呟いた。



その刹那、上空から声がした。

「成程…中々に強力な結界呪法だな。だが私が来たからには、貴様らの好きにはさせん」



聖女は夜空を見上げ目を見張る。

あのロンヤンと真っ向から戦い、制圧してしまった女が浮いていたからだ。

『不味い!!』

「撤収を急げ!!」



淡い光を放つ結界呪法が消え失せると、ロンヤンと4人を含む周囲を闇色の影が覆い始めた。



「ほぅ…これは珍しい、転送呪法か」

ディーイーは少しばかり感心する。

転送魔法は人間の基準であれば存在し得ないからだ。

『そうなると…やはり神獣の加護……いや、その力の一部を利用しているのか?』


兎に角、今は感心している場合ではない。

恐らくロンヤンを連れ帰り、兵器として利用するに違いないのだ。

ここは阻止した上で、この4人を捕えて情報を引き出すべきだろう。

『手っ取り早く呪法の機構を壊すか』


推測するに別次元と表裏一体な領域を作り、そこを利用して目的地へ瞬時に向かう…そんな古典的な呪法に思えた。

この場合、別次元を超重力で歪める訳だが、これこそが人間には不可能な業で、故に転送魔法は人間には為し得ない。

つまり原理を知らず呪法を使っている可能性が有る。


なら呪法の起動支柱となる魔導具を壊せば早い。

直ぐさま解析魔法アナライズを発動させ、ディーイーは4人を観察した。

すると強力な魔力硬度を持つ小さな物を、4人全員が所持しているのを察知する。


『ふむ…随分と魔力を圧縮した魔導具だな。しかしこれは…』

明らかに呪法の起動支柱に見えるが、安易な破壊をディーイーは躊躇した。

何故なら超圧縮された魔力が込められており、これが破壊に因って瞬時に解放されれば、予測不能の事態を起こし兼ねないからだった。


「……」

ロンヤンをジッと見下ろすディーイー。

『すまない…』



"消滅ディスインティグレート"



ディーイーが無詠唱で発動した漆黒の球体は、直下に倒れ伏すロンヤンへ直撃した。

そうして即座に巨大なロンヤンの体躯を飲み込み、その場から一瞬で消失させたのだった。



「なっ?!!」

聖女は目の前の事態に驚愕し言葉を失う。



「貴様らを捕らえたかったが今回は諦めよう。その呪法を無理に止めるのは危険極まりないからな。だが覚えておけ、必ず報いを受けさせてやる」



闇色がポッカリと丸く空いた地面と4人を包み込む。

もはや転移の呪法を止める事も、また阻止する事も叶わない。


そんな中、聖女が宙に浮かぶ絶世の美女へ問う。

「名を聞いておこう」



「ディーイーだ」



「覚えておくわ。神獣殺しの超絶者よ」

この言葉が発せられたと同時に、4人の姿は闇に飲み込まれる。

そして闇が霧散した後には、その場から跡形も無く姿が消え失せていたのだった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






〜〜降臨祭の翌日〜〜


時刻は午後の1時。

ハクメイは侍女のシンと共に居城の大食堂に居た。


降臨祭の喧騒に紛れて出奔した筈の2人…その彼女らが居城に居る理由は?

これはハクメイ自身が望んだ事だった。


依然としてディーイーと共に島を離れる意思は変わらない。

だがハクメイは、遣り残した事が有ると思ったのである。


それは島とロン家と決別する為のケジメだ。

両親に何も告げず行方を眩ます事、また昨夜の騒動を見過ごす事が出来なかった。


それでも出奔しようとした事実は消えない。

その為かハクメイは食事が余り喉を通らず、昼食が終わった今も落ち着かずに居た。


「静かね…」

席でモジモジしながら堪らずハクメイは呟いた。



「そうですね。今は私達しか居ませんから」

などど隣に座るシンは、素っ気なく空気を読まない返しをする。



そんな事を言っているのでは無い…と突っ込みたいハクメイだが、敢えて"そうした"シンの気遣いを察した。

「フフフッ…シンは何処に居ても変わらないわね。有難う」



「私は私に出来る事を可能な限りするだけです。もちろん大切な人の為にですよ」

と僅かに照れた表情を見せるシン。



お陰でハクメイは少し気が楽になった。

後は如何なる結果になるか、ただ座して待つのみである。

そもそも何を待っているかと言うと、ディーイーと父親ホウジーレンの会食結果だ。


2人は島の行く末とハクメイの扱いについて話し合っている。

だからこそ当事者であるハクメイは、蚊帳の外でヤキモキしている訳だった。


そうこうしていると奥の扉が開く。

この扉の先は特別な賓客との会食や、密会に使われる別室に続く。

当然、ディーイーとホウジーレンが使用している部屋だ。



見慣れた絶世の美女が扉を潜り、どうしてかハクメイは慌てて立ち上がってしまう。

「お、お姉様!」


   ※

   ※

   ※

   ※

   ※


1時間ほど前。

ディーイーは領督ホウジーレンと2人きりで会食を始めていた。

ここは居城内でも最も奥ばった場所で、主に領督が密会に使用する部屋だ。



「わざわざ話しが漏れない部屋を使うなんてね…そんな大した事では無いでしょう?」

とテーブルを挟んで対面に座るホウジーレンへ、ディーイーは揶揄するように言った。



「いや、万が一を考えてだ。封臣家門の筆頭が造反したのだ、首謀者を捕らえた今だからこそ気が抜けぬ」



「まぁ確かに…一理有るわね」

何事も"事が終息した直後"に人は気が緩む。

故にホウジーレンが万全を持するのは、ディーイーも分からなくは無かった。


何より島の守護者である炎龍ロンヤンが失われたのだ。

それは詰まる所、外敵に対する絶対的な守りを消失したに他ならない。

故に内情を外部勢力に知られるのは、絶対に避けるべきと言えた。



「さて…互いの情報を交換し始末をつける前に、貴女の正体を知っておきたい」

ホウジーレンは何の駆け引きも無く率直に尋ねた。



「ハハハッ! これは真っ直ぐだな。しかし…知れば後悔するかも知れないぞ?」



「今更何を後悔しようか…それに腹を割って話すなら、隠し事は遺恨を残し兼ねない」

居住まいを正したホウジーレンは、真っ直ぐにディーイーを見据えて答えたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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