1404話・暗躍の使徒(2)
刹那な章III・政略結婚(22)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
ロンヤンを覆う巨大な結界。
それは淡い光を放ち、恰も神獣の降臨を啓示する儀式の様に見えた。
しかし真実は真逆。
この包み込む光は神獣の意識を侵食し、自我と本能を分離する強力な呪法だったのだ。
「フッ…やはりロンヤンは自我の寿命が迫っていたようだな」
亀国の聖女は眼前の巨体を見上げ、笑みを浮かべ呟いた。
その刹那、上空から声がした。
「成程…中々に強力な結界呪法だな。だが私が来たからには、貴様らの好きにはさせん」
聖女は夜空を見上げ目を見張る。
あのロンヤンと真っ向から戦い、制圧してしまった女が浮いていたからだ。
『不味い!!』
「撤収を急げ!!」
淡い光を放つ結界呪法が消え失せると、ロンヤンと4人を含む周囲を闇色の影が覆い始めた。
「ほぅ…これは珍しい、転送呪法か」
ディーイーは少しばかり感心する。
転送魔法は人間の基準であれば存在し得ないからだ。
『そうなると…やはり神獣の加護……いや、その力の一部を利用しているのか?』
兎に角、今は感心している場合ではない。
恐らくロンヤンを連れ帰り、兵器として利用するに違いないのだ。
ここは阻止した上で、この4人を捕えて情報を引き出すべきだろう。
『手っ取り早く呪法の機構を壊すか』
推測するに別次元と表裏一体な領域を作り、そこを利用して目的地へ瞬時に向かう…そんな古典的な呪法に思えた。
この場合、別次元を超重力で歪める訳だが、これこそが人間には不可能な業で、故に転送魔法は人間には為し得ない。
つまり原理を知らず呪法を使っている可能性が有る。
なら呪法の起動支柱となる魔導具を壊せば早い。
直ぐさま解析魔法を発動させ、ディーイーは4人を観察した。
すると強力な魔力硬度を持つ小さな物を、4人全員が所持しているのを察知する。
『ふむ…随分と魔力を圧縮した魔導具だな。しかしこれは…』
明らかに呪法の起動支柱に見えるが、安易な破壊をディーイーは躊躇した。
何故なら超圧縮された魔力が込められており、これが破壊に因って瞬時に解放されれば、予測不能の事態を起こし兼ねないからだった。
「……」
ロンヤンをジッと見下ろすディーイー。
『すまない…』
"消滅"
ディーイーが無詠唱で発動した漆黒の球体は、直下に倒れ伏すロンヤンへ直撃した。
そうして即座に巨大なロンヤンの体躯を飲み込み、その場から一瞬で消失させたのだった。
「なっ?!!」
聖女は目の前の事態に驚愕し言葉を失う。
「貴様らを捕らえたかったが今回は諦めよう。その呪法を無理に止めるのは危険極まりないからな。だが覚えておけ、必ず報いを受けさせてやる」
闇色がポッカリと丸く空いた地面と4人を包み込む。
もはや転移の呪法を止める事も、また阻止する事も叶わない。
そんな中、聖女が宙に浮かぶ絶世の美女へ問う。
「名を聞いておこう」
「ディーイーだ」
「覚えておくわ。神獣殺しの超絶者よ」
この言葉が発せられたと同時に、4人の姿は闇に飲み込まれる。
そして闇が霧散した後には、その場から跡形も無く姿が消え失せていたのだった。
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〜〜降臨祭の翌日〜〜
時刻は午後の1時。
ハクメイは侍女のシンと共に居城の大食堂に居た。
降臨祭の喧騒に紛れて出奔した筈の2人…その彼女らが居城に居る理由は?
これはハクメイ自身が望んだ事だった。
依然としてディーイーと共に島を離れる意思は変わらない。
だがハクメイは、遣り残した事が有ると思ったのである。
それは島とロン家と決別する為のケジメだ。
両親に何も告げず行方を眩ます事、また昨夜の騒動を見過ごす事が出来なかった。
それでも出奔しようとした事実は消えない。
その為かハクメイは食事が余り喉を通らず、昼食が終わった今も落ち着かずに居た。
「静かね…」
席でモジモジしながら堪らずハクメイは呟いた。
「そうですね。今は私達しか居ませんから」
などど隣に座るシンは、素っ気なく空気を読まない返しをする。
そんな事を言っているのでは無い…と突っ込みたいハクメイだが、敢えて"そうした"シンの気遣いを察した。
「フフフッ…シンは何処に居ても変わらないわね。有難う」
「私は私に出来る事を可能な限りするだけです。もちろん大切な人の為にですよ」
と僅かに照れた表情を見せるシン。
お陰でハクメイは少し気が楽になった。
後は如何なる結果になるか、ただ座して待つのみである。
そもそも何を待っているかと言うと、ディーイーと父親の会食結果だ。
2人は島の行く末とハクメイの扱いについて話し合っている。
だからこそ当事者であるハクメイは、蚊帳の外でヤキモキしている訳だった。
そうこうしていると奥の扉が開く。
この扉の先は特別な賓客との会食や、密会に使われる別室に続く。
当然、ディーイーとホウジーレンが使用している部屋だ。
見慣れた絶世の美女が扉を潜り、どうしてかハクメイは慌てて立ち上がってしまう。
「お、お姉様!」
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1時間ほど前。
ディーイーは領督ホウジーレンと2人きりで会食を始めていた。
ここは居城内でも最も奥ばった場所で、主に領督が密会に使用する部屋だ。
「わざわざ話しが漏れない部屋を使うなんてね…そんな大した事では無いでしょう?」
とテーブルを挟んで対面に座るホウジーレンへ、ディーイーは揶揄するように言った。
「いや、万が一を考えてだ。封臣家門の筆頭が造反したのだ、首謀者を捕らえた今だからこそ気が抜けぬ」
「まぁ確かに…一理有るわね」
何事も"事が終息した直後"に人は気が緩む。
故にホウジーレンが万全を持するのは、ディーイーも分からなくは無かった。
何より島の守護者である炎龍が失われたのだ。
それは詰まる所、外敵に対する絶対的な守りを消失したに他ならない。
故に内情を外部勢力に知られるのは、絶対に避けるべきと言えた。
「さて…互いの情報を交換し始末をつける前に、貴女の正体を知っておきたい」
ホウジーレンは何の駆け引きも無く率直に尋ねた。
「ハハハッ! これは真っ直ぐだな。しかし…知れば後悔するかも知れないぞ?」
「今更何を後悔しようか…それに腹を割って話すなら、隠し事は遺恨を残し兼ねない」
居住まいを正したホウジーレンは、真っ直ぐにディーイーを見据えて答えたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




