1403話・暗躍の使徒
刹那な章III・政略結婚(22)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
ロンヤンは凍結した体表面へ、体内から魔力と気で練り上げた波動を放った。
これに因り覆った氷は吹き飛び、恰も細氷の様に夜空を彩る。
これは超絶者が使う体動衝撃に似た方法で、古龍種ならばブレスとして放つ事も可能だ。
しかしディーイーが凍結の力を弱めていなければ、簡単に抜け出す事は叶わなかっただろう。
それだけ"この魔法"は強力で、等級で表すならば禁呪を超える極大魔法と言えた。
何より全力でも敵わなかった事に、ロンヤンは驚きを隠せない。
『よもや余をここまで圧倒するとは…』
凍結から解放され漸く一息ついた時、何者かの気配を感じた。
数にして4人程…海中で襲われた際より1人多い。
『流石だな…彼女の推測通りノコノコやって来たか』
ディーイーの指示に従い、ロンヤンは疲弊し"戦えない振り"をした。
すると4つの気配は徐に歩み寄ると、ロンヤンの顔の前で立ち止まる。
「元とは言え四天神獣を人間が制圧するなど…信じられん」
4人の内、一番体躯の良い男が呟いた。
「只の人間では無いのだろう。それに我々の障害になるのは不味い…今後は女の動向を注視せねばならないな」
その傍に立つ小柄な女?が続く。
「さっきの女もだが…領督が龍化したのにも驚きだ。捕らえて持ち帰れば、良い実験資料となるぞ」
と隣に立つ細身の男が言った。
そして4人目の人物は静かにロンヤンを見つめる。
「……」
皆一様に黒のローブを纏い、フードを目深に被っていた。
その所為で性別が分かっても、何者かは全く窺い知れない。
「兎に角、ロンヤンだけでも連れ帰えらねば為らん…制御可能か念入りに調べるぞ」
体躯の良い男が言った。
これに小柄な女と細身の男が頷く。
「そうだな…」
「うん…あの女に戻られたら厄介だ、急ごう」
ここで沈黙していた4人目が叫んだ。
「皆! 退がれ!!」
直後、巨大なロンヤンの右腕が、4人に向けて振り払われた。
その速度たるや尋常では無く、発生した衝撃波で触れていない物まで勢い良く吹き飛ばしてしまう。
「…!!」
首を擡げたロンヤンは目を見張る。
薙ぎ払った筈の4人が、何事も無かったように立っていたからだ。
否…1人だけが右手を翳していた。
『魔法障壁…いや、これは…』
神獣に因る加護の力…そうロンヤンは断定付け、"その力"が青龍の物では無いとも看破する。
「貴様…亀国の聖女だな?」
「フッ…流石は元四天神獣なだけはある。そう、私は亀国の聖女…つまり私達は工作部隊と言う訳よ」
などと悪びれる様子も無く女は言った。
ロンヤンは逡巡する。
消耗し切った状況で、果たして亀国の聖女等を制圧出来るのかと思ったのだ。
何より海中で襲われた時、抗う事が難しかった。
『あの時の結界が玄武の能力だったとは…』
それを事前に察知し、また見抜けなかった事も悔やまれて為らない。
つまる所、それだけ力が衰えている現状で戦うのは、明らかに悪手と言えた。
しかし見過ごす訳には行かない。
『フッ…こやつらも余を逃さぬ気だろうしな』
ここは一つ派手に暴れ、ディーイーが駆け付けるまで時間を稼ぐしか無いだろう。
そうすると亀国の聖女が言った。
「私の想定を覆す事ばかり……ロンヤンよ、どうやって我らの呪法を破った?」
「破っただと? フフフッ…余が初めから暴走していなかったとは考えぬのか?」
「何だと……?!」
聖女の声音から、明らかに動揺が窺えた。
「亀国の聖女よ…神獣の加護で力を得た"只の人間"が、神獣に敵うとでも思ったか? 本当に愚かだな」
と鷹揚に告げるロンヤンではあるが、実際の所は疲弊し切って今にも倒れそうな状態だった。
つまりハッタリな訳だ。
それでも彼等には十分な効果が有ったようだ。
「そんな……十全に準備した計画と呪法なのに…」
聖女は相当な衝撃を受けたのか、半ば呆然と呟き後退りを始めた。
『フッ…思ったより心が弱くて助かった』
ほくそ笑むロンヤン。
だが置かれた状況が改善した訳では無い。
派手に暴れるにしても、恐らくは2、3撃を繰り出すのが限界だろう。
仮に無理を押したならば、"肉体の制御"をし切れずに暴走するのは目に見えていた。
「隊長! 気を確りと持たれよ! 奴は元より限界な筈です。そうでなければ海中で襲撃した時、我らを迎撃して捕らえるのが道理でしょう!」
小柄な女に諌められ我に返る聖女。
「…! た、確かにそうだわ」
そうして直ぐさま3人へ指示を飛ばした。
「再度呪法を敷く! 急げ!」
「ちっ! させぬぞ!!」
再び海中で仕掛けられた結界を受ければ、今度こそ耐えられる自信が無かった。
『あの結界呪法は不味い!』
人では決して成せぬ呪法…それが四天神獣である玄武の力なのは間違いない。
また問題は力の強度であり、聖女如きが出せる出力とは思えない強さだった。
『だとすれば力を増幅する何らかの方法を開発したか、或いは全く別の…』
亀国に協力する勢力が現れたのかも知れない。
どちらにしろ自分が捕らわれれば、兵器として利用されて北方四国の均衡が崩れてしまう。
それだけは阻止せねば為らない。
ロンヤンは可能な限りの力で、聖女に向けて火炎ブレスを放った。
それは死を具現化する紅蓮の波動となり、聖女諸共に周囲を飲み込んだ。
「……!!」
予想外の事態にロンヤンは驚愕する。
岩をも溶かす火炎ブレスが、全く聖女に届いていなかったからだ。
『馬鹿な! これでは玄武と何ら変わらぬではないか!』
四天神獣の力に耐え対抗し得るのは、同じ四天神獣級しか居ない。
幾ら自分が降りた身とは言え、それは変わらぬ事実なのだ。
なのに現実は事実を覆した。
余りの事態に呆然とするロンヤンを、淡い光が覆った。
いつの間にか周囲に展開していた聖女の部下が、ロンヤンを三方から囲み結界を発動していたのである。
『くっ…余とした事が!!』
残った力を使い体動衝撃で吹き飛ばすしかない。
「遅い!」
そう聖女の声が聞こえた刹那、ロンヤンの脳に凄まじい痛みが走る。
肉体に受ける痛みとは異なる"それ"は、生物ならば耐えられる物では無かった。
故に自己防衛反応が意識を断ち切り、その痛みから解放しようとする。
そう…それこそが"この呪法"の本質だったのだ。
深く沈み、消え行く自我を自覚した。
残されたのは喪失感と無念…全ての希望は潰えたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




