1401話・偽りのロンヤン
刹那な章III・政略結婚(21)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
ディーイーの御節介過ぎる、否…お人好し過ぎる申し出にロンヤンは目を丸くした。
「何故…そこまでしてくれる? お主は火炎島の人間では無いと言うのに…」
「ん? あぁ…乗り掛かった船だしな、見て見ぬ振りをして去っては寝覚めが悪いだろ?」
ディーイーの返答に、ロンヤンは目を丸くしたまま唖然とする。
「………」
この様な人間が果たして今まで居ただろうか?
ひょっとすれば御節介な人間は居たかも知れない、しかし此処まで強大な力を有するものは居ないだろう。
そう…どのような人間でも、ロンヤンが求める”力”と”人格”の何れかが欠けていた。
故に全てを託せる人間が存在しなかった。
ホウジーレンでも人格は及第点…力に至っては泣く泣く任せるしか仕方が無い水準である。
『もっと早くに出会えていれば……』
ロンヤンの中で後悔ばかりが募る。
「さて、どうやって炙り出すかな…」
『取り敢えずはジア・イーリュウを捕らえて尋問するか』
面倒臭い手間をかけるのは、ディーイーからすれば性に合わない。
その前にロンヤンを如何にして暴走させようとしたのか?
また操ろうとした方法を知っておきたい所だ。
これは知識欲から来る好奇心もたが、暗躍者の能力を計る指針にもなる。
「ロンヤン殿…貴方の口振りからするに、ジア・イーリュウの背後に居る者は分からないのだよね?」
「うむ…聖女が絡んでいると言うのは私の推測だ。飽く迄も可能性だが…龍国では無く他国ならば、それは由々しき事態と言わざるを得ない」
「ふむ…」
ディーイーは思考を加速させた。
恐らく暗躍者は、ロンヤンの暴走時期を見越して動いたのだ。
そしてロンヤンを操る事が出来れば強大な力を得られ、これに対抗し得るのは四天神獣しか居なくなる。
『つまり北方四国の均衡を崩すのが目的か…』
古からの長い年月、北方四国は牽制し合って来た。
しかしながら各々が総戦力で打つかる事は無かった。
それは四天神獣の加護が、領土を出てしまうと消失するからである。
『攻めなければ領土を奪えず、しかし攻めれば確実に不利になる。その打開策にロンヤンへ目を付けたのだろうな』
苦肉の策なのかも知れないが、そこまでして北方での覇権を狙おうとするのは愚かに思えた。
「で…如何するのだ?」
ロンヤンの問いに、ディーイーは即答した。
「決まってるだろう。裏切り者のジア・イーリュウを締め上げて吐かせるだけだ」
「そ、そうか……ならば余は?」
”そんな事は自分で考えろ!”と言い掛けるが、ディーイーは何とか堪える。
そもそもロンヤンを凍らせて動けなくしたのは自分なのだから。
「う~ん…私に倒された事にして、此処に暫くジッとしていれば良いのでは?」
そこまで言って、直ぐに考えを改めた。
『待てよ……ロンヤン殿が生きていると知れば、再び利用しようと近づいて来るかな?』
「此処で凍ったままジッとして居ろと?」
『はは……流石は神獣か。手加減したとは言え万花雪乱を受けて、仮死状態にもならんとはな』
「いや…ここは囮になって貰おう。凍結状態の魔法硬度を下げておく故、私が離れたら自力で凍結から抜け出して欲しい」
然も当然のように告げられ、内心でロンヤンは呆れた。
『やれやれ…正直、こうして氷結から意識を保っているのもギリギリだと言うのに』
「相分かった。その後は如何すれば?」
「息は有るが動けない状態を演出すればいい。きっと暗躍した者が近付いて来る筈だ。って……そもそもどうやって今の状況になったのだ?」
失念しかけた事に気付くディーイー。
ロンヤンが”操られた振り”をしていたと言う事は、操ろうとした者と接触していた事になるのだから。
「え? あ……あぁ、そうだな。それを伝えるべきだな」
片やロンヤンも状況の展開が早過ぎて、思考の整理がついていなかったのだ。
「降臨祭の佳境で余が登場するのは周知の事実だが、神域から出て”初めに姿を現す場所”は僅かな一部の者しか知らぬ。そこを張り込まれ襲われたのだ」
「ほほう…ひょっとして海…海中か?」
言い当てられたロンヤンは目を丸くした。
「……! 流石と言うべきか…良く分かったな」
「う~ん…おいそれと神獣へ干渉出来ぬ方法は、空中か海中しか無いしな。だが空中は目立つし、なら海しか無いだろう? まあ消去法だね」
「そ、そうか……それで申し訳無いのだが、余を海中で襲った者等を具に確認はし得なかった。結界で覆われ不意打ちされたからな」
「ふ~む……つまり強力な結界で拘束され、何らかの呪法で自我を消されそうになった…だな?」
「その通りだ。幸い今の余でも抵抗出来たが、もう少し自我が衰弱していれば危なかった」
ロンヤン曰く、その後は魔力伝導体となる結晶体を飲み込まされたらしい。
『成程……魔力伝導体に因って外部からロンヤンを操るつもりだったのか』
「結局はジア・イーリュウを捕まえねば為らんな。面倒だが私は行くよ…そこでロンヤン殿は”接近する者”を捕まえてくれ」
そう告げたディーイーは、少し疲れた足取りで歩き出した。
「ま、待たれよ! 次に同じ方法で襲われれば抵抗出来ぬやも知れぬ。そうなれば本当に暴走し兼ねんぞ」
「それは心配ない。わざわざ衰弱して動けぬ龍に、手間と労力の掛かる結界を張るとは思えん。万が一に危機的状況なら私が即座に駆けつけるしな」
ディーイーの返答からは、己を過信している様子は一切感じられない。
正に当然であり、それ程度ならば彼女からすると日常茶飯事なのかも知れない。
そう思えたロンヤンは静かに頷いた。
「分かった……お主に全てを託そう」
「フフッ…まぁ悪いようにはしない。ここはハクメイの故郷だしな」
そんな捨て台詞と共に、ディーイーの姿は忽然と消えてしまったのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




