1397話・降臨祭‐逆心(2)
刹那な章III・政略結婚(20)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
元四天神獣の炎龍の攻撃がホウジーレンを襲った。
それは並みの武人では避ける事も、また防ぐ事も叶わない強烈な物だ。
何故ならロンヤンの全長は30mに及び、その四肢…更には尻尾と咬み付きの攻撃は余りにも大きく、間合いを取り損ねれば一瞬で肉塊と化すからだ。
しかしホウジーレンは城壁の上を飛び回り、ロンヤンの攻撃を巧みに躱した。
これに造反者イーリュウは焦れた。
「ええい! ロンヤンよ、炎で焼き尽くしてしまえ!!」
その命令に従ったのか、頭を引き上げ息を吸い込むロンヤン。
「…!!」
『不味い!!』
只の竜のブレスならいざ知れず、古龍級以上の存在にブレスを浴びさせられれば、人間など一瞬で消し炭にされてしまう。
しかも相手は”炎龍”なのだ…その威力や想像を絶する物だろう。
加えて足場の城壁は崩壊寸前にあった。
それはロンヤンの攻撃を躱し続けた事で、足場だった場所を所構わず破壊された所為だ。
つまり広範囲に放射されるブレスを、ホウジーレンが回避する場所も手段も無くなっていたのだった。
『おのれ…もはや此処までか』
凄まじい火炎ブレスがホウジーレンに直撃した。
「フッ…見事な動きだったが所詮は人間、最後は呆気なかったな」
踵を返し掛けた時、イーリュウは目を見張った。
ロンヤンの放射したブレスが、途中からホウジーレンの居た場所を前に拡散したのだ。
「なっ?!」
そしてイーリュウは更に驚愕する事になる。
何とロンヤンに匹敵する強大な何かが、ホウジーレンの居た場所に出現したからだ。
「もう手段は選ばぬ。ロンヤンを殺し、逆賊全てを消し炭にしてやろう」
そう告げた声は、その巨大な何かから発せられていた。
「ま…まさか……その姿…ホウジーレン領督なのか?!」
イーリュウは半ば呆然と呟く。
その巨大な存在は明かに龍だった。
それもロンヤンと同じく赤い鱗を纏い、イーリュウの目には神獣と大差無い”炎龍”に見えた。
イーリュウが呆然としている間に、龍化したホウジーレンの頭突きがロンヤンの胸に直撃する。
その威力や相当な物で、足場の城壁は完全に崩れホウジーレン諸共にロンヤンは落下した。
「くっ!!」
イーリュウは急ぎ登り塔を抜け、隣の城壁へ移動する。
ここに居ては巻き添えを食い、こちらが命を落として兼ねないからだ。
幸い2体の龍は落下した為、敢えて城壁を攻撃されない限り此処なら安全と考えていた。
だがホウジーレンの龍化を未だに信じれず、困惑するばかりだ。
見たところロンヤンと大差無い膂力を持つように思える。
加えて暴走し自我を消失したロンヤンでは、人間の思考を持ったホウジーレンに対して不利なのは明らかだ。
『これは不味いやも知れぬ…』
確実に龍化したホウジーレンを倒すには、ロンヤンへ細かな指示を出すしか無いだろう。
兎に角イーリュウは、見晴らしの良い場所への移動を試みた。
これは危険な行為だが、ロンヤンが制圧されては何もかもが御破産なのだ。
しかし予想外の展開にイーリュウは足を止める事になる。
ホウジーレンが優勢かと思いきや、実際はロンヤンが押していたのだ。
それは巨大から繰り出される物理的な攻撃だけで無く、火炎ブレスと龍魔法を駆使したもので、とても暴走した龍とは思えない。
「これが…神獣が持つ本来の力なのか?!」
イーリュウは驚愕と同時に、強大な力を得た喜びに震えた。
"元"とは言え、人類の力を遥かに凌ぐ神獣を操れる…果たして古今東西で、これを可能にした者が居るだろうか?
答えは…否だ。
「フフフッ……ハハハッ! これならば火炎島だけ無く、本国の外様領も手に入れられるぞ!」
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一方、海上の小舟に乗るディーイー等は固唾を飲んでいた。
降臨祭の佳境をディーイーの魔法に因り観覧していたのだが、暴走したロンヤンの来襲と言う"まさか"の事態を直視したからだ。
映写板に映し出された惨状に、ハクメイは困惑し半ば言葉を失う。
「そんな……」
また暴走したロンヤンも然る事乍ら、父親が龍に変身したようにも見え戸惑うばかりだ。
『お父様が…龍に…??!』
しかしディーイーは違っていた。
この状況から全てに合点がいったのだ。
『成程…私を無理に引き止めなかったのは、ロンヤンの暴走に対処する"奥の手"が有ったからか』
それでも多少は驚いていた。
人が龍に…しかも神獣級の古龍に変化するなど、見た事が無かった為だ。
『だが同じ舞台に立っただけで、互角以上に戦えるかは別か…』
恐らくホウジーレンの龍化は付け焼き刃なのだろう。
故に初めの不意打ち以降は、完全にロンヤンが優勢に見えた。
「領督閣下が押されていますね…」
船頭役をしていたシンが冷静な口調で呟いた。
「…!? シン…貴女は知っていたの?!」
余りにも冷静なシンに、ハクメイは詰め寄るように問うた。
「……はい。姫様が生まれた際にホウジーレン様から貴女を託され、全てを打ち明けられました」
「打ち明けた? 何を?!」
シンは諦めた様子で溜息をつき、居住まいを正して話し始めた。
「火炎島領の開闢から、この島の繁栄の対価としてロン家は炎龍に仕えて来ました。その対価の中には、いずれ来るで有ろう暴走の処理も含まれていたのです」
「意味が分からない! それと御父様が龍に成るのと何が関係するの?!」
「多分…ロン家は代々、龍の因子を体へ取り込んだのでしょう。或いはロンヤンの体組織の一部を体へ移植した…」
「はい…ディーイー様の仰る通りです。ですが一度も龍化は成功しなかったのです。ホウジーレン様を除いて…」
事実を前にしても、それが余りに現実離れしていれば受け入れ難くなる。
それが15歳の少女なら尚更だった。
「信じられない…そんな事…」
『自分自身にも龍の因子が存在する事にもなるのだら、それは衝撃よね…』
遠回しに人では無く龍だと告げられたに等しい…そんなハクメイをディーイーはソッと抱きしめた。
「ハクメイ……」
ディーイーの心配を他所に、ハクメイはズレた疑問を口にする。
「なら私は大事な龍の後継だった筈よ。どうして私を蔑ろにしたの?」
「え……自分が龍に成るかも知れないのは怖くないの?!」
「それは驚きましたけど…もし龍に成れるなら、力で御姉様の役に立てるじゃないですか!」
ディーイーの問いに、ハクメイは然も大した事の無い様に答えたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




