147話・炎の名工(1)
傭兵ギルドの1階大フロアーで出会った老傭兵スデラスとファブロは、2人で”炎の名工”と呼ばれているらしい。
只の名工なら現実味があって悪く無いのだが、炎と付くとプリームスはどうも恥ずかしく感じる。
まぁ他人事なので、どう呼ばれていようが関係は無いのだが。
それよりも、その二つ名の通り鍛冶師としての腕があるかどうかが気になる所である。
もしプリームスが求める水準の技能を持っているなら、この世界に来て困っていた事が1つ解決する。
それにフィエルテへ専用の魔法武器を作ってやりたいとも考えていたからだ。
「炎の名工から武器を作って貰えた傭兵や冒険者は、それだけで名を馳せると言われています。ただこのお二方は、相当な実力者からしか制作依頼を受けないとか・・・」
とフィエルテが説明する。
するとファブロが少し思考すると、フィエルテに頷き告げた。
「う~む、そうじゃな。まぁワシらも命を掛けて素材集めから始めるからの・・・生半可な奴には作りたくないわい」
確かに腕が無く金だけ持っている人間に作ってしまえば、そんな輩が箔をつけようと”炎の名工”に制作依頼が殺到するに違いない。
そうなると本当に必要な実力者に、武器を作る事が出来なくなる。
「中には相当取得難度が高い素材を、自前で持ってくる奴もおるでな。そう言う奴には、その素材を手に入れた実力を見込んで作ってやったりはする」
そうスデラスが続いた。
フィエルテが思い出したように、
「そう言えば、クシフォス様もお二方が作った品を所持してますよね。確か・・・龍の咆哮でしたっけ?」
『これまた大仰な名前だな』
プリームスが少し呆れていると、スデラスも呆れ顔で答えた。
「あれはワシが名付けたのでは無いぞ! あの大公が勝手につけたんじゃ。派手な名をつけおって!」
因みにフィエルテの話では、"炎の名工"はクシフォスがスデラスとファブロに贈った称号らしい。
"龍の咆哮"の制作過程を幾らか見学していたクシフォスが、その腕に感服しそのように至ったようだ。
『何と言うか、クシフォスは脳筋の上に名付けの感覚が少々恥ずかしいな』
そう口に出そうになったが、プリームスは我慢する。
きっとこの名工2人が気にするに違いないからだ。
それよりも"龍の咆哮"の性能が気になった。
多分だが初めて出会った時に、クシフォスが背負っていたバスタードソードかと思われる。
「龍の咆哮は、どのような武器でどれ程の性能なのかね?」
プリームスの知識欲がそう訊かずにはいられなかった。
スデラスは少し困った表情を浮かべる。
「それは本人の許可が要るだろう。手の内を教えるような事は出来んからな」
言われて納得するプリームス。
確かに強力な武具程、正確な性能を他者に知られるのは不味い事だ。
強力であればある程、それは奥の手であり生命線になりうるのだから。
『まぁクシフォスには会おう思えば何時でも会えるだろうし、龍の咆哮の事も本人に訊けば済むな・・・』
そう思いプリームスは、本題に入る事にした。
「私が依頼すれば何か作って貰えるのかね? 出来れば身内にも、幾つか作って欲しいのだが」
プリームスは出来るだけ愛想良く、笑顔で2人の老傭兵へ尋ねる。
するとスデラスが渋い顔をした。
「ワシはお嬢ちゃんの実力を知らんしな。見た所、随分と金持ちそうだし貴族か? ならお断りかのう」
クシフォスは貴族で王族だか、武神と言われる程に名を馳せている。
故にこの名工2人から認めてられたのだろう。
「貴族が嫌いなのか? だが始めにも言ったが私は只の旅行者で、貴族では無いぞ。それにどちらかと言えば武人気質なんだがな」
そうプリームスは問うた上で、誤解を解こうとする。
それでもスデラスは訝しむ様子を崩さない。
「なぁ〜にを言っちょる。どう見ても貴族の令嬢か、どっかの国の姫君じゃろ・・・そんな細っそい腕で何が武人気質じゃ!」
と半ば説教気味に返されてしまう。
傍で聞いていたフィエルテが必死で笑いを堪える。
プリームスはムッとしながら自身の姿を確認した。
細くて真っ白な腕、ドレスのスリットから露出する脚も同じく真っ白で細い。
とても武人には見えない所か、武術を嗜んでいるようにも見えない。
ガックリするプリームス。
客観的に見るとスデラスの言う通りだった。
以前の身体ならまだしも、これでは自称武人になってしまう。
すると見かねたフィエルテが、
「こう見えてプリームス様は本当にお強いのですよ。私など足元にも及びませんし、何しろあの死神アポラウシウスを単身で退けたのですから!」
と援護するようにプリームスの武勇伝を語った。
フィエルテの言い様に驚くスデラスとファブロ。
半ば信じ難い表情を浮かべている。
それは当然の反応と言えた。
これ程に美しく儚い少女が、最凶最悪の死神を1対1で退けるなど普通は有り得ないからだ。
「う〜む、だがどうもその形では信じられんのぅ」
スデラスはプリームスに興味が湧いたようだが、まだ信じられる確信が持てないようだ。
ならどうすれば良いか尋ねればよい。
「私が貴方達に認められるには、どうすればいいかな? 勿論、武器を作って貰う前提の話になるがね」
再び呆れた顔をするスデラス。
「そんなにワシらが作った武器で有名になりたいのか? こちとら作ってやらんといかん奴が、他に居るんじゃがな。それに素材が不足していて制作依頼を受ける所では無い」
その時、突如プリームスの背後から声がした。
「プリームス殿は、炎の名工が作るに値する人物だとワシが保証しよう」
プリームスが振り返ると、そこには2mは優に超える巨躯の禿頭が立っていた。
傭兵ギルドマスターのメルセナリオである。




