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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
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1396話・降臨祭-逆心

刹那な章III・政略結婚(20)も更新しております。

そちらも宜しくお願い致します。

領民から向けられる期待と信頼に、ホウジーレンは心が高揚したのを自覚した。

そう…これだ。

この実感し得る物が有るからこそ、自分は今まで領督を続けて来られた。


それだけでは無い。

ロン家の背負う使命は重く、とても常人には耐えられる物では無いだろう。

それでもロン家の当主として、また火炎島の領督としてやって来れたのは、ひとえに安息の地を欲していたからだ。


自分の代で全てが終わる。

そしてその終わりは、新たな安寧の日々の始まりだと確信していた。



『さあ、後はロンヤンの御出ましを誘うだけだ』

今年もロンヤンは暴走に至らず、降臨祭は無事に終わる…この現状にホウジーレンは胸を撫で下ろした。


その時、上空に強大な魔力の渦を感じる。

「…!?」

明らかに異様な魔力…それは自然界に存在しない変質した何かに思えた。


だが僅かに見知った魔力が感じられ、背筋が凍った。

『まさか…?!』


凄まじい衝撃が足場を揺らし、ホウジーレンは立って居られずに片膝をついた。

「くっ!! そんな…何故この時に?!」



足場を揺らした衝撃は、ある巨大な存在が城壁に降り立ったからだ。



これに集まった領民は歓声を上げた。

そう、何の合図も送っては居ないのに、神獣ロンヤンが降臨したのだ。

しかも禍々しい変質した魔力は、このロンヤンから発せられる物だった。



『暴走…しているのか?!?』

ホウジーレンは目を疑う。


つい昨日まで平然と理性を保っていた筈。

なのに目の前に降り立った巨大な炎龍は、明らかに目から正気を失っていた。



ロンヤンの喉がグルル…となった。

もはや言葉まで失い、程度の低い地竜や飛竜の如く本能に従うのか?


『いや…まだ理性の欠片でも残っていれば』

呼びかければ正気を取り戻す可能性もある。

ホウジーレンは僅かな希望にすがった。

「ロンヤン!!! 私です! ホウジーレンです! どうか思い出して下さい!」



しかし現実は残酷だ。

切実な呼びかけも虚しくロンヤンは右腕を振り上げ、躊躇いも無くホウジーレンに振り下ろした。



「くっ!!」

何とか咄嗟に飛びすさったホウジーレンは、その巨大で強靭な手から逃れる。


だが城壁の一部が崩壊し、もう儀式どころの騒ぎでは無くなってしまう。

当然、集まった領民は異変に気付き、方々から悲鳴が上がった。



『不味い! これでは…』

理性を失ったロンヤンが悲鳴に反応して、領民を襲うだろう。


何とかして正気を取り戻させるか、或いは制圧するしかない。

たが炎龍ロンヤンを制圧可能な戦力など、この火炎島に有る筈も無かった。


それでも身を呈して止めるだけだ。

意を決したホウジーレンは、ロンヤンに向けて叫んだ。

「ロンヤン!! お前の獲物は私だ!! さぁ掛かってくるがいい!」



「……」

急に動きを止めたロンヤン。



これにホウジーレンは、ロンヤンが正気に戻ったのかと一筋の希望を抱いた。



「フッ…まだ気付かないのですか? 領督閣下」

と聞き慣れた男の声が、城壁の登り塔の方からした。



「ジア・イーリュウ…貴様……」

ホウジーレンは凡そを察し、同時に絶望する。


ロンヤンの暴走は作為的に為されたものだったのだ。

また、それが外部の存在では無く、火炎島内での企みであり、近しい臣下の造反だったのだ。



鷹揚と歩み進んだイーリュウは、ロンヤンの傍に立って告げた。

「ホウジーレン…貴方は実に聡明な主君だった。だが身内を疑わぬ点は愚かでしかない」



「何故こんな事を?」

ホウジーレンは端的に尋ねる。


如何にしてロンヤンを制御しているかは、もうどうでも良かった。

それよりも何が原因で封臣家門の筆頭が造反したのか、それこそが自分にとって重要だった。



「貴女は妻を愛していたか?」



「何だと…?」

問いを問いで返され、ホウジーレンは怪訝そうに聞き返した。



「私は正妻は取らなかった…故に息子は妾の子だ」



「何が言いたい?」



「私と領督妃は幼馴染でね…幼少から将来を誓った仲だったのだ。なのに…」



「まさか…私が卿の想い人を奪ったと言いたいのか?」

ホウジーレンは沸々と怒りが込み上げて来た。



首を横に振るイーリュウ。

「違う…貴方がベイパンを幸せにしていれば、それで私は満足だったのだ。だが貴方はペイパンの人生を踏みにじった…黙って居られる訳が無かろう」



『だから造反したと?!』

と怒りに任せてホウジーレンは叫びそうになった。

それをすんでの所で堪えたのは、自分に非が有ると認識した為だ。


だからと言って造反が許される筈も無い。

「卿の行為は造反だ。幾ら私が妻への責務を欠いていたとしても、それは揺るがない事実…そもそも論点の摺り替えでしか無い」



「私が造反した起因に、貴方は含まれないとでも?」



イーリュウの問いに、ホウジーレンは躊躇う事なく頷いた。

「無論だ」



イーリュウは小さく頭を振った後、落胆した様子で溜息をつく。

「……どうやら我らは相容れぬ間柄らしいな、」



「私は卿を信じていたさ。なのに私情に流され、島の秩序を乱すとは…」



「はぁ……貴方は素晴らしい統率者ではあるが、私人としては最低最悪だ」



「もはや問答は無用だ。卿を粛清しロンヤンを制圧する」



大見栄を切ったホウジーレンを目の当たりにし、イーリュウは呆れた。

「愚かな…人が神獣に敵うとでも? いや…問答は無用だったな…」

そう告げてロンヤンへ指示を送る。

「ホウジーレンを殺せ…ロンヤンよ。だが他の人間を殺める事は許可せぬ」



理性を失った筈のロンヤンが命令に従い、ホウジーレンを標的にした。



『一体どうやって…』

飛び退るホウジーレンの脳裏に疑問ばかりが募る。


本来、神獣を御する事など不可能なのだ。

それなのに御するどころか、これでは支配し従属させているに等しい。

「もう…手段は選べぬか……」


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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