1396話・降臨祭-逆心
刹那な章III・政略結婚(20)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
領民から向けられる期待と信頼に、ホウジーレンは心が高揚したのを自覚した。
そう…これだ。
この実感し得る物が有るからこそ、自分は今まで領督を続けて来られた。
それだけでは無い。
ロン家の背負う使命は重く、とても常人には耐えられる物では無いだろう。
それでもロン家の当主として、また火炎島の領督としてやって来れたのは、ひとえに安息の地を欲していたからだ。
自分の代で全てが終わる。
そしてその終わりは、新たな安寧の日々の始まりだと確信していた。
『さあ、後はロンヤンの御出ましを誘うだけだ』
今年もロンヤンは暴走に至らず、降臨祭は無事に終わる…この現状にホウジーレンは胸を撫で下ろした。
その時、上空に強大な魔力の渦を感じる。
「…!?」
明らかに異様な魔力…それは自然界に存在しない変質した何かに思えた。
だが僅かに見知った魔力が感じられ、背筋が凍った。
『まさか…?!』
凄まじい衝撃が足場を揺らし、ホウジーレンは立って居られずに片膝をついた。
「くっ!! そんな…何故この時に?!」
足場を揺らした衝撃は、ある巨大な存在が城壁に降り立ったからだ。
これに集まった領民は歓声を上げた。
そう、何の合図も送っては居ないのに、神獣ロンヤンが降臨したのだ。
しかも禍々しい変質した魔力は、このロンヤンから発せられる物だった。
『暴走…しているのか?!?』
ホウジーレンは目を疑う。
つい昨日まで平然と理性を保っていた筈。
なのに目の前に降り立った巨大な炎龍は、明らかに目から正気を失っていた。
ロンヤンの喉がグルル…となった。
もはや言葉まで失い、程度の低い地竜や飛竜の如く本能に従うのか?
『いや…まだ理性の欠片でも残っていれば』
呼びかければ正気を取り戻す可能性もある。
ホウジーレンは僅かな希望にすがった。
「ロンヤン!!! 私です! ホウジーレンです! どうか思い出して下さい!」
しかし現実は残酷だ。
切実な呼びかけも虚しくロンヤンは右腕を振り上げ、躊躇いも無くホウジーレンに振り下ろした。
「くっ!!」
何とか咄嗟に飛びすさったホウジーレンは、その巨大で強靭な手から逃れる。
だが城壁の一部が崩壊し、もう儀式どころの騒ぎでは無くなってしまう。
当然、集まった領民は異変に気付き、方々から悲鳴が上がった。
『不味い! これでは…』
理性を失ったロンヤンが悲鳴に反応して、領民を襲うだろう。
何とかして正気を取り戻させるか、或いは制圧するしかない。
たが炎龍を制圧可能な戦力など、この火炎島に有る筈も無かった。
それでも身を呈して止めるだけだ。
意を決したホウジーレンは、ロンヤンに向けて叫んだ。
「ロンヤン!! お前の獲物は私だ!! さぁ掛かってくるがいい!」
「……」
急に動きを止めたロンヤン。
これにホウジーレンは、ロンヤンが正気に戻ったのかと一筋の希望を抱いた。
「フッ…まだ気付かないのですか? 領督閣下」
と聞き慣れた男の声が、城壁の登り塔の方からした。
「ジア・イーリュウ…貴様……」
ホウジーレンは凡そを察し、同時に絶望する。
ロンヤンの暴走は作為的に為されたものだったのだ。
また、それが外部の存在では無く、火炎島内での企みであり、近しい臣下の造反だったのだ。
鷹揚と歩み進んだイーリュウは、ロンヤンの傍に立って告げた。
「ホウジーレン…貴方は実に聡明な主君だった。だが身内を疑わぬ点は愚かでしかない」
「何故こんな事を?」
ホウジーレンは端的に尋ねる。
如何にしてロンヤンを制御しているかは、もうどうでも良かった。
それよりも何が原因で封臣家門の筆頭が造反したのか、それこそが自分にとって重要だった。
「貴女は妻を愛していたか?」
「何だと…?」
問いを問いで返され、ホウジーレンは怪訝そうに聞き返した。
「私は正妻は取らなかった…故に息子は妾の子だ」
「何が言いたい?」
「私と領督妃は幼馴染でね…幼少から将来を誓った仲だったのだ。なのに…」
「まさか…私が卿の想い人を奪ったと言いたいのか?」
ホウジーレンは沸々と怒りが込み上げて来た。
首を横に振るイーリュウ。
「違う…貴方がベイパンを幸せにしていれば、それで私は満足だったのだ。だが貴方はペイパンの人生を踏みにじった…黙って居られる訳が無かろう」
『だから造反したと?!』
と怒りに任せてホウジーレンは叫びそうになった。
それを既の所で堪えたのは、自分に非が有ると認識した為だ。
だからと言って造反が許される筈も無い。
「卿の行為は造反だ。幾ら私が妻への責務を欠いていたとしても、それは揺るがない事実…そもそも論点の摺り替えでしか無い」
「私が造反した起因に、貴方は含まれないとでも?」
イーリュウの問いに、ホウジーレンは躊躇う事なく頷いた。
「無論だ」
イーリュウは小さく頭を振った後、落胆した様子で溜息をつく。
「……どうやら我らは相容れぬ間柄らしいな、」
「私は卿を信じていたさ。なのに私情に流され、島の秩序を乱すとは…」
「はぁ……貴方は素晴らしい統率者ではあるが、私人としては最低最悪だ」
「もはや問答は無用だ。卿を粛清しロンヤンを制圧する」
大見栄を切ったホウジーレンを目の当たりにし、イーリュウは呆れた。
「愚かな…人が神獣に敵うとでも? いや…問答は無用だったな…」
そう告げてロンヤンへ指示を送る。
「ホウジーレンを殺せ…ロンヤンよ。だが他の人間を殺める事は許可せぬ」
理性を失った筈のロンヤンが命令に従い、ホウジーレンを標的にした。
『一体どうやって…』
飛び退るホウジーレンの脳裏に疑問ばかりが募る。
本来、神獣を御する事など不可能なのだ。
それなのに御するどころか、これでは支配し従属させているに等しい。
「もう…手段は選べぬか……」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




