1390話・ロンヤンとディーイー(3)
刹那な章III・政略結婚(18)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
人間には到底抗えない魔力を放たれるが、それを容易に相殺してしまうディーイー。
これを目の当たりにしたロンヤンは驚愕で目を見張った。
『そんな…馬鹿な……』
事実を前にしても信じ難い。
しかし理解はしていた…このディーイーなる女人が超絶者なのだと。
それも只の超絶者では無い。
恐らく超絶者の中でも、更に極まった存在と思えた。
そして驚愕と同時に試したくもなった。
「ならば武はどうだ? その華奢な体で余の質量に耐えられるのか?」
これにディーイーは怯む事なく不敵に言い返す。
「ふ〜ん…魔力と魔術で敵わないから、膂力で従わせようって? 面白いわね…やれる物ならやってみなさい」
「フフフッ! 余が力を振う事になるとは…何百年振りか!」
まるで興奮したように巨体を起こしたロンヤンは、続けて右腕を大きく振り上げた。
『ちょっ! こやつ、ひょっとして暇を持て余していたな?!』
煽ったのは良いが、少しばかり慌てるディーイー。
ロンヤンの言うように質量で押されては、流石の自分でも一溜まりも無いからだ。
何より興奮した状態が不味い。
本当に制御を失いでもすれば、この広大な地下空間でも崩壊する可能性も考えられる。
つまり、それだけ神獣級の膂力は、災害並みの恐ろしさを秘めているのだ。
『くそっ…あんなの下手に避けられないぞ』
そう…ディーイーが避ければ、その空いた場所にロンヤンの手が直撃し、床だろうが壁だろうが粉砕するだろう。
避けれなければ潰される。
避ければ地下空間が壊される。
正にディーイーからすると四面楚歌に等しい状況だった。
「ちっ…仕方ないか」
残っている手立ては、やはり"受け止める"しか無い。
巨大な龍の手が振り下ろされ、寸分違わずディーイーへ直撃した。
その直後に鈍重な音が響き渡り、ロンヤンは妙な手応えを覚える。
「むぅ??!」
「やれやれ……今のは私で無ければ、プチっと潰れていた所だぞ」
振り下ろした手の下からディーイーの声が聞こえ、ロンヤンは言葉を失った。
「…?!!」
『何ッ?! 今のを避けずに耐えたと言うのか?!』
「よもや魔法で防ぐのは卑怯などと言わないよな?」
更に揶揄するような言い様が続き、恐る恐る手を引き戻すロンヤン。
するとディーイーが何食わぬ顔で立って居たのだった。
「…!!」
恐らく魔法障壁を使ったのだろうが、それが並みの魔法硬度では障壁ごと潰していた筈だ。
『何と常識外れな人間か!』
「今度はこっちの番だ」
そうディーイーが告げた刹那、姿が一瞬で掻き消える。
「…?! め、面妖な!!」
ロンヤンは慌てた。
相手が剣聖に匹敵する武力を持つなら、自分の巨体が不利に働く為だ。
恐らく一旦見失えば、もう目で追う事は叶わない。
そうして懐に潜られ急所を攻撃されれば、幾ら神獣でも無事では済まないだろう。
見失って直ぐに、ロンヤンは右脚へ凄まじい衝撃を受けて悶絶する。
「ぐわあぁぁっぁ!!??」
『な、何をされた??!』
「こんな狭い場所では、自慢の図体も只の飾りだな」
ディーイーの声が傍から聞こえた瞬間、左脚に鈍重な衝撃を受けるロンヤン。
この2度目の一撃は更に凄まじく、ロンヤンは耐え切れずに横へ倒れ込んでしまう。
巨体が倒れ込んだ所為で、周囲に衝撃と轟音が伝播した。
「お、おのれ……」
何も出来ず苦し紛れの声がロンヤンの口を衝く。
「ロンヤンよ……貴方が私に遅れを取るのは、食物連鎖の頂点に立つ古龍種だからだ」
何処からともなく聴こえるディーイーの声。
「なん…だと…?」
「生まれ持った強大過ぎる力が原因だ。それが枷となって、己を研鑽すると言う思考自体が欠如したのだよ」
「研鑽…? 最強の種族の余が…? それこそ無意味…時間の無駄だ」
ディーイーは溜息をついた。
「はぁ……此処までされて、尚且つ此処まで言われて気付けないとは…」
「ぐっ……」
馬鹿にされたのは理解出来た。
しかし言葉の本質が理解出来ず、ロンヤンは明確な反論をし得ない。
ロンヤンの鼻先に姿を見せ、ディーイーは静かに言った。
「弱い存在ほどに試行錯誤し、そして努力と研鑽を繰り返す。それは今よりもっと改善された未来へ希望を抱くからだ。だが強大な力を持つ龍種は? 現状に満足し碌に向上しようとしない…それが今の結果に現れたのだ」
「余が己の力に溺れ、今まで無為な時間を過ごして来たと?」
「何もかもが無為とは言わない。されど魔術や武力に於いて、貴方が”さぼっていた”のは確かだな」
漸く合点がいったロンヤンは、自身に落胆した様子で瞳を閉じた。
「成程……余は優位的な立場に思い上がっていたのだな」
『ちょっと厳しく言い過ぎたかな……』
その上、命一杯に両脚を殴ってしまったのだ…少しやり過ぎたかとディーイーは後悔した。
「ま、まぁそんなに落胆する事じゃない。人間の存在自体が自然界では例外なのだから」
「うむ……」
ロンヤンは相槌を打つものの、拗ねてしまったのか一向に起き上がる様子を見せない。
「どうした? そんなにボコられたのが衝撃だったのか?」
「………」
「はぁ……」
再び溜息が出てしまうディーイー。
ロンヤンからすれば、確かに拗ねても仕方ない事だったかも知れない。
『だからと言って子供のように愚図るのはなぁ…』
兎に角は機嫌をとるか、或いは喝を入れるしかないだろう。
と言う訳でディーイーが選んだのは前者だった。
「ロンヤン……厳密に言えば、この狭い空間だったからこそ貴方は私に遅れを取ったのだ。仮に相対する場所が開けていたなら、恐らくは先程のようには為らなかった筈よ」
すると急に頭を上げて目を輝かせるロンヤン。
「そ、そうか?! そう其方も思うか? うむうむ……余も実は思って居たのだ」
『えぇぇ……?!』
チョロいと言うか、単純と言うか…少しばかり古龍種への考えが変わるディーイーであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




