1370話・うっかりディーイー
刹那な章III・政略結婚(12)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
「お、お姉様!?!」
ハクメイは驚きの余りに声を上げた。
何と入園を許可されない筈のオーフアが、ディーイーの前に倒れ込んでいたからだ。
「あ…ハクメイ? やっと戻ってきた…大変だったのよ」
などと言うディーイーだが、その声音は安寧その物だ。
「え?! 大変?! 一体何が有ったのですか?」
ハクメイは茶器を載せた手押し車を放置し、ディーイーへ駆け寄った。
「ん〜〜この何処ぞの馬鹿息子に絡まれてね、ちょっと小突いたらこの有様なのよ」
「……」
唖然とするハクメイ。
『いや…ちょっと小突いたくらいで、こんな事にはならないわ』
しかもディーイーは車椅子に乗っている。
体が不自由で目も見えない女性が、大の男を伸せられる訳が無い。
「ぐぅぅ…」
未だに悶絶したままのオーフア。
そんな彼を見て、ハクメイは嫌気がさした様子で言った。
「兎に角、このオーフアを庭園から放り出して来ますね」
「え? あ…うん、分かったわ」
『放り出す…? 誰か使用人でも呼ぶのかしら?』
領主の娘とは思えない物騒な言い様に、ディーイーは首を傾げる。
するとハクメイは無造作にオーフアの足首を掴むと、乱雑に引っ張って歩き出したのだ。
そうなるとオーフアは、当然ズルズルと地面を引きずられる羽目になる。
『うわぁ…』
目には見えないが気配や空気の流れで、その凡その状況を察するディーイー。
正直、ドン引きである。
そうしてハクメイは庭園の出口まで来ると、これまた無造作にオーフアを投げ飛ばしてしまう。
正に彼女が言った通りの"放り出す"だった。
トコトコと駆けて戻って来るハクメイに、ディーイーは苦笑いを浮かべて尋ねた。
「凄い膂力だね…ひょっとして加護のお陰でなの?」
これにハクメイは目を見張る。
「えっ?! お姉様は目が見えて居られないですよね? どうして…」
「あ〜〜うん。でも気配とか、その他色々で分かるのよ」
「す、凄いです! やはり御姉様は只者では無かったのですね!!」
見えはしないが、きっとハクメイは目をキラキラさせているに違いない。
『うぅぅ…これ以上に買い被られては困るな』
「そんな事は無いよ。私よりハクメイの方が凄いと思うけど…」
「私ですか? 確かに私の能力は炎龍の加護だけでは無いですね」
このハクメイの言葉に、ディーイーは興味が惹かれた。
「え? え? 炎龍って、この島を住処にしてる神獣よね? 龍国の加護じゃ無いんだ?」
「フフッ…凄い興味津々ですね」
「あ…ひょっとして聞いてはいけない事だった? 差し障りが有るなら答えなくても良いよ」
と言うディーイーだが身を乗り出し過ぎて、今にも車椅子から落ちそうだ。
「大丈夫ですよ、周知の事実だすから。それよりも先ずは落ち着いて下さいね」
「え、あ…うん。がっついちゃって御免よ」
『ウフフ…お姉様って少し子供っぽくて可愛らしい』
「いえいえ…え〜とですね。実は本国と火炎島の距離は東方よりも離れているんですよ」
ハクメイ曰く、距離が遠過ぎて本国からの加護が届かないそうだ。
「えぇぇ…? それって、もう龍国の領土じゃ無いのでは?」
そんなディーイーの疑問に、丁寧に答えるハクメイ。
「確かにそうですね…ですが火炎島の炎龍は先代の神獣だったそうですよ。その関係もあって"別の領域"では無く、龍国に属したままなのです。因みに私達が受けているのは、炎龍の加護になります」
「ほぇ…そうなんだ」
『つまり要約すると火炎島は神獣の隠居先なのかな…』
他の地域とは異なる国の仕組みに、ディーイーの興味は増すばかりだ。
「ところで…」
そこまで言ったハクメイは、妙に言い淀んだ様子を見せた。
「ん? どうしたの?」
「その…実は見てたんです…こっそりと」
「え?! 私と馬鹿息子の遣り取りを!?」
「はい…」
詰まる所、魔法を使用したのも、小指でオーフアを制圧したのもハクメイに見られた訳だ。
こうなると只の貴人して扱われなくなるだろう。
恐らく自分は危険人物と認定され、下手をすれば牢屋行きな上、尋問されるに違い無い。
『うへぇ…やばい! 間者って思われる!』
見るからに慌てるディーイーに、ハクメイはソッと告げた。
「お姉様が他国の工作員などとは思ってはいません。だって北方や東方の雰囲気が全く感じられませんから」
それを聞いたディーイーはホッと胸を撫で下ろす。
「うぅ…良かった。私は本当に人探しに来ただけだから…」
ハクメイは傍に屈み込み、ディーイーの手を握った。
「身分や力を隠しているのは、それなりの事情がお有りでしょう。ですが御姉様…全て話して頂く事は出来ませんか? そして私に協力させて下さい」
「……」
まさかの申し出に、ディーイーは呆気に取られてしまう。
「お姉様…?」
「あ……その…ハクメイが思ってるような凄い人間では無いのよ…私は、」
「只の女人が、大の男を小指で悶絶させられますか? それに凄く無いのでしたら、話したところで問題ないでしょう?」
隙が無いハクメイの返しに、ディーイーは反論の余地も無い。
「ぬぐぐ…」
そうすると焦れたのかハクメイは妙な行動に出る。
握ったディーイーの右手を、自分の胸に押し当てたのだ。
「ハ、ハクメイ?! な、何を?!」
『うおっ! めっちゃ柔らかい!』
突然降り掛かった色事に、嬉しさと驚きでディーイーは困惑する。
「分かりますか? こんなにドキドキしているんです…つまり引き返せない事を私は十分に認識しています。だから打ち明けて貰えませんか?」
「本当に後悔しない? と言っても、本当に大した素性も事情も無いわよ」
「はい、どんな事を聞いても後悔はしませんし、他言も致しません」
降参とばかりにディーイーは溜息をついた。
「はぁ……分かったわ。じゃぁ先ずは私が何者なのか教えるね」
「はい!」
ハクメイは固唾を飲み、ディーイーの口元へ耳を欹てた。
万が一、近くに誰かが居て聞かれると不味いからだ。
「南方諸国に永劫の王国って国が在るのを知ってる?」
「はい…新国家でありながら、南方最強の軍事国家と言われていますよね」
「私ね…そこの王なのよ」
「え………」
理解が及ばず、ハクメイは固まってしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




