1365話・ハクメイとディーイー
刹那な章III・政略結婚(11)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
火炎島領主の居城には大きな温泉浴場がある。
これは領主であるロン家の人間しか、その使用を許されていない。
そんな特別な浴場をディーイーは1週間も使ってしまう。
半ば強制的に…が正しいが。
そして今日も朝から湯浴みで、いつも通りに脱衣所で領主の娘の世話を受けていた。
「お姉様…帯を解きますね」
そう告げたハクメイは、車椅子に座るディーイーの浴衣を脱がし始める。
「前から思ってたのだけど…ハクメイは私の世話をしてると楽しそうね」
「え? あ〜〜それは当然ですよ。こんな綺麗な女性のお世話が出来るなんて、多分この先は一度も巡って来ないでしょうし」
ハクメイの返答に、ディーイーは首を傾げた。
「んん?? え〜と…ハクメイは女性が好きなの?」
「ん〜〜女性と言うより、美しいものが好きです。まぁ男性はゴツゴツして美しく無いですから…相対的に女性に目が行きがちですね」
「そ、そうなんだ…」
『それって…つまる所、女性が好きって事では』
と突っ込みたくなるディーイーだが止めておく。
変に深掘りすると藪蛇になりそうだからだ。
こうして手際良く浴衣を脱がされたディーイーは、ハクメイに肩を支えられて浴場に入る。
この浴場は壁が大理石で、床と天井は檜木で作られている。
その所為か芳しい木の香りが、優しく鼻腔をくすぐった。
いつも通り風呂椅子に座らせ、ディーイーの腹部に巻いた包帯を外すハクメイ。
そしてジッと右脇腹の傷を観察する。
「ふむ…完全に塞がってますね。でも傷が残らないから心配です」
「どうして貴女が心配するのよ…」
「だって…こんなに綺麗なお身体が傷物になるなんて、世界の損失ですよ。そんな事…私は絶対に嫌です!」
「えぇぇ…?! そんな力説されても反応に困るんだけど…」
などとディーイーは言いつつも、世話好きな妹が出来た気がして少し嬉しかった。
「フフッ…まぁ私見なので気にしないで下さい」
その後は丁寧に素手で体を洗って貰うディーイー。
因みにこの1週間、前半の3日は寝たきりに近かったので、寝湯状態で体を洗われてしまう。
加えて瞳も開かず、されるがままで恥ずかしさの極地だった。
今も相変わらず見えない目だが、身じろぎも儘為らない時よりは、恥ずかしさも緩和されたと言えるだろう。
体が洗い終われば、湯治も兼ねて湯船で体を温める。
その間にハクメイが髪の毛を洗ってくれて、恥ずかしさを我慢すればディーイーは至れり尽くせりだ。
「逆上せそうなら言って下さいね」
とディーイーの頭をマッサージしながら、ハクメイは尋ねた。
「うん、大丈夫。ところで…ハクメイは一緒しないの?」
「私ですか? え〜と…お姉様が起きられる前に、朝の湯浴みは済ませています。ご心配なく」
こんな他者に献身的な姫が居るだろうか?…とディーイーは感心した。
「そ、そうなんだ…何だか御免ね」
「いえいえ…ちゃんと私の欲求は満たされてますから」
ボソリと呟くハクメイ。
『うへ! やっぱり私の体が目当て?!』
ディーイーは怖いので聞こえない振りをした。
と言うか、正直なところは嬉しい。
しかしながら自分は龍国に向かう最中だ。
こんな所で油を売って楽しんでいては、仲間であるガリーやリキに申し訳無い。
『いや…違うか』
厳密には体の関係を持ってしまったガリーに悪い。
更に言えば本国の伴侶を放っておいて、旅先で好き放題している後ろめたさが強かった。
『はぁ……私って何でこんなに節操が無いのかしら』
その分、他者には自分の我を押し付けるつもりも無いが、他者が許容するかは別の話だ。
正にジレンマと言えた。
「どうかしましたか? 溜息が漏れてましたよ」
「え? 嘘〜ん?!」
「嘘〜んって…お姉様は面白い方ですよね、フフフッ」
「そ、そうかな…」
「私にとっては面白くて楽しくて、それに新鮮です」
そう告げたハクメイは、ディーイーの髪を流して続けた。
「さぁ上がりましょう、次は朝食ですよ」
「うん…」
とディーイーが頷くと体がフワッと浮く感じがした。
『うおっ!』
ハクメイがディーイーの両脇に手を入れて、湯船から抱え上げたのだ。
毎回こうやって引っ張り上げられ、毎回ディーイーは驚かされる。
声の雰囲気や体に触れた感じからして、自分と大差ない体格に思えた。
なのにこの膂力は、明らかに辻褄が合わない。
『相当な身体操作の達人か、或いは…』
"加護"の可能性が考えられた。
北方の5国は、それぞれ神獣が存在し国民に加護を与えている。
それがこの膂力なのだとしたら…。
『ちょっと絶大過ぎないか?』
そんな怪訝さを他所に、ハクメイはディーイーの体を丁寧に拭う。
それから右脇腹の傷へ慎重に薬を塗り、当て布をして包帯を巻く。
非常に手際が良い。
『そう言えばピスティも手際が良かったな…』
ふとディーイーは身内の事を思い出す。
ピスティはノイモン・レクスアリステラ大公の娘だ。
今では立派な永劫の騎士だが、身内になる前は父親に凡ゆる事を仕込まれ、恰も道具の如く扱われていた。
その為か侍女の仕事も難なくこなしていたのだ。
そんなピスティにハクメイが似ている気がする。
また、こうなった事情は定かでは無いが、貴人が侍女としての仕事に長けているのは違和感を禁じ得ない。
『う〜ん…例外もあるけど心配だわ』
領督の娘なのに、不当な扱いを受けている可能性もあるからだ。
「そう言えば心配事が有ったのでは?」
不意にハクメイから訊かれ、ビクッと体が僅かに跳ねるディーイー。
「え?! な、何の事だっけ?」
心を読まれた気がした。
「ウフフ…もうお忘れですか? 飽く迄も私見ですが、現状への不安と誰かを気に掛けているのでは…と申した筈ですよ」
『あ…そうだった』
命の恩人とは言え勝手に心配して、また勝手に推測するのは烏滸がましい話だ。
そう気持ちを切り替え、ディーイーは自身の事情を話す事にしたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




