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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
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1365話・ハクメイとディーイー

刹那な章III・政略結婚(11)も更新しております。

そちらも宜しくお願い致します。

火炎島領主の居城には大きな温泉浴場がある。

これは領主であるロン家の人間しか、その使用を許されていない。


そんな特別な浴場をディーイー(プリームス)は1週間も使ってしまう。

半ば強制的に…が正しいが。

そして今日も朝から湯浴みで、いつも通りに脱衣所で領主の娘(ハクメイ)の世話を受けていた。



「お姉様…帯を解きますね」

そう告げたハクメイは、車椅子に座るディーイーの浴衣を脱がし始める。



「前から思ってたのだけど…ハクメイは私の世話をしてると楽しそうね」



「え? あ〜〜それは当然ですよ。こんな綺麗な女性のお世話が出来るなんて、多分この先は一度も巡って来ないでしょうし」



ハクメイの返答に、ディーイーは首を傾げた。

「んん?? え〜と…ハクメイは女性が好きなの?」



「ん〜〜女性と言うより、美しいものが好きです。まぁ男性はゴツゴツして美しく無いですから…相対的に女性に目が行きがちですね」



「そ、そうなんだ…」

『それって…つまる所、女性が好きって事では』

と突っ込みたくなるディーイーだが止めておく。

変に深掘りすると藪蛇になりそうだからだ。



こうして手際良く浴衣を脱がされたディーイーは、ハクメイに肩を支えられて浴場に入る。

この浴場は壁が大理石で、床と天井は檜木で作られている。

その所為か芳しい木の香りが、優しく鼻腔をくすぐった。



いつも通り風呂椅子に座らせ、ディーイーの腹部に巻いた包帯を外すハクメイ。

そしてジッと右脇腹の傷を観察する。

「ふむ…完全に塞がってますね。でも傷が残らないから心配です」



「どうして貴女が心配するのよ…」



「だって…こんなに綺麗なお身体が傷物になるなんて、世界の損失ですよ。そんな事…私は絶対に嫌です!」



「えぇぇ…?! そんな力説されても反応に困るんだけど…」

などとディーイーは言いつつも、世話好きな妹が出来た気がして少し嬉しかった。



「フフッ…まぁ私見なので気にしないで下さい」



その後は丁寧に素手で体を洗って貰うディーイー。

因みにこの1週間、前半の3日は寝たきりに近かったので、寝湯状態で体を洗われてしまう。

加えて瞳も開かず、されるがままで恥ずかしさの極地だった。

今も相変わらず見えない目だが、身じろぎも儘為らない時よりは、恥ずかしさも緩和されたと言えるだろう。


体が洗い終われば、湯治も兼ねて湯船で体を温める。

その間にハクメイが髪の毛を洗ってくれて、恥ずかしさを我慢すればディーイーは至れり尽くせりだ。



逆上のぼせそうなら言って下さいね」

とディーイーの頭をマッサージしながら、ハクメイは尋ねた。



「うん、大丈夫。ところで…ハクメイは一緒しないの?」



「私ですか? え〜と…お姉様が起きられる前に、朝の湯浴みは済ませています。ご心配なく」



こんな他者に献身的な姫が居るだろうか?…とディーイーは感心した。

「そ、そうなんだ…何だか御免ね」



「いえいえ…ちゃんと私の欲求は満たされてますから」

ボソリと呟くハクメイ。



『うへ! やっぱり私の体が目当て?!』

ディーイーは怖いので聞こえない振りをした。


と言うか、正直なところは嬉しい。

しかしながら自分は龍国に向かう最中だ。

こんな所で油を売って楽しんでいては、仲間であるガリーやリキに申し訳無い。


『いや…違うか』

厳密には体の関係を持ってしまったガリーに悪い。

更に言えば本国の伴侶を放っておいて、旅先で好き放題している後ろめたさが強かった。


『はぁ……私って何でこんなに節操が無いのかしら』

その分、他者には自分の我を押し付けるつもりも無いが、他者が許容するかは別の話だ。

正にジレンマと言えた。



「どうかしましたか? 溜息が漏れてましたよ」



「え? 嘘〜ん?!」



「嘘〜んって…お姉様は面白い方ですよね、フフフッ」



「そ、そうかな…」



「私にとっては面白くて楽しくて、それに新鮮です」

そう告げたハクメイは、ディーイーの髪を流して続けた。

「さぁ上がりましょう、次は朝食ですよ」



「うん…」

とディーイーが頷くと体がフワッと浮く感じがした。

『うおっ!』


ハクメイがディーイーの両脇に手を入れて、湯船から抱え上げたのだ。

毎回こうやって引っ張り上げられ、毎回ディーイーは驚かされる。


声の雰囲気や体に触れた感じからして、自分と大差ない体格に思えた。

なのにこの膂力は、明らかに辻褄が合わない。

『相当な身体操作の達人か、或いは…』

"加護"の可能性が考えられた。


北方の5国は、それぞれ神獣が存在し国民に加護を与えている。

それがこの膂力なのだとしたら…。

『ちょっと絶大過ぎないか?』



そんな怪訝さを他所に、ハクメイはディーイーの体を丁寧に拭う。

それから右脇腹の傷へ慎重に薬を塗り、当て布をして包帯を巻く。

非常に手際が良い。



『そう言えばピスティも手際が良かったな…』

ふとディーイーは身内の事を思い出す。


ピスティはノイモン・レクスアリステラ大公の娘だ。

今では立派な永劫の騎士(アイオーン・エクェス)だが、身内になる前は父親に凡ゆる事を仕込まれ、恰も道具の如く扱われていた。

その為か侍女の仕事も難なくこなしていたのだ。


そんなピスティにハクメイが似ている気がする。

また、こうなった事情は定かでは無いが、貴人が侍女としての仕事に長けているのは違和感を禁じ得ない。


『う〜ん…例外もあるけど心配だわ』

領督の娘なのに、不当な扱いを受けている可能性もあるからだ。



「そう言えば心配事が有ったのでは?」



不意にハクメイから訊かれ、ビクッと体が僅かに跳ねるディーイー。

「え?! な、何の事だっけ?」

心を読まれた気がした。



「ウフフ…もうお忘れですか? 飽く迄も私見ですが、現状への不安と誰かを気に掛けているのでは…と申した筈ですよ」



『あ…そうだった』

命の恩人とは言え勝手に心配して、また勝手に推測するのは烏滸がましい話だ。

そう気持ちを切り替え、ディーイーは自身の事情を話す事にしたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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