1362話・失念と大惨事
刹那な章III・政略結婚(10)も更新しております。
そちらも宜しくお願い致します。
ディーィーが発現させた極大魔法超次元大渦。
それは高度10000m付近に発現し、その発現位置を中心に半径数十km範囲を飲み込む。
否…飲み込むは正しくない。
あらゆる物を吸い寄せ、そして吸収し消滅させているように見えた。
正に天空に顕現した地獄。
天上と地獄…この相反する2つが同じ場所に同居し、決して人の目では見る事の出来ない混沌の光景を生み出した。
「少し大きくし過ぎたか…?」
ディーイーは魔力使用量を僅かだが誤ったように思えた。
僅か……普通の人間ならそうでも、ディーイーとは根本的な魔力保有量が違う。
その些細な調整誤差が、この地獄絵図を顕現させてしまったと言えるだろう。
『不味いな…積乱雲を消しても、これでは…』
必要以上に維持され続ける極大魔法に、ディーイーは頭を抱えた。
超次元大渦の用途は、本来は”撃ちっ放し”である。
つまり込めた魔力が消失するまで超次元大渦は維持され、その間は対象を局地的且つ限定的に殲滅し続ける…いわゆる戦略級魔法なのだ。
しかし現状は必要以上に効果を発揮し、このままでは無駄に物質を吸収し続けてしまう。
1つ幸いとすれば、設定した発現位置が高度10000mだと言う点だ。
これがその半分の高さなら、今頃海上は大惨事になっていただろう。
「兎に角、超次元大渦を消さないと」
何とも皮肉な話で自嘲しそうになるディーイー。
嵐を起こす積乱雲を消す為にした事が、ここで裏目に出るとは情けない話である。
『魔力はまだ枯渇していない…』
ならば相殺する魔法を撃ち込めば済む。
だが少しばかり気掛かりが有った。
それは超大規模な積乱雲を呼び出した相手だ。
貨物旅船を襲って来た海賊と関係あるのは間違いない。
そして嵐を起こそうとしたのは、海賊が失敗した場合の保険と考えられる。
ここで重要なのは相手の真の目的だ。
貨物旅船自体を狙ったなら積み荷の可能性が高い、或いは乗船している人間の誰かを狙ったか…。
何方にしても対象が”失われる事”が完遂基準なのだろう。
そうでなければ謎の力場で嵐を呼ぶなど、やり過ぎと言える。
「さて、どうするか…」
海賊船を5隻全て沈めたが、首謀者の生死を確認していない。
超次元大渦を相殺した後、再び首謀者に何らかの手を打たれたら面倒な事になる。
「いや…今は超次元大渦を消すのが先か」
不確かな不安要素を危惧するのは時間の無駄だ。
それならば行動を起こして、”反応”に対する備えをするべきである。
ディーイーは天上の超次元大渦へ右手をかざす。
『あれを消すには生半可な魔法では無理だ…我ながらに無茶苦茶な魔法を作ったものだわ』
余りに危険過ぎる故に、制約を己に課して封印していた魔法…超次元大渦。
これを相殺する術は本来無い。
『ならば、同じ等級の禁忌で相殺するしかないな』
”極大増幅陣”
ディーイーの足元に巨大な魔法陣が顕現した。
「消滅・極改」
そう言い放った直後、遥か彼方の天上に巨大な黒球体が顕現する。
その大きさ凡そ5km……超次元大渦の中心部を飲み込み、一瞬にして諸共に消失した。
そうして超次元大渦に因って遮られていた陽光が、再び海面を照らす。
「あ……!」
ディーイーは失念していた。
この消滅・極改は余りの巨大さの為、狙った実際の効果よりも、その後の事態が深刻なのだった。
突如、風が轟々と吹き荒れる…もはや台風と言って良い程の突風だ。
更には海面が波打ち、満潮と台風が合わさったかのような事態に発展する。
「ぐえっ!! 忘れてた!!」
以前使った時は10年以上も昔だった。
当時は地上で使ったのだが、やはり同じように台風並みの突風が発生したのだ。
何故に突風が発生するのか?
それは消滅・極改が、指定された広範囲の空間を根こそぎ消失させるからだ。
消失する……つまり対象は凡ゆる物質であり、そこには大気も含まれる。
直径5kmにも及ぶ空間の大気が失われれば、極端な気圧低下を招き、そこへ外部から急激な気流を流入させる。
加えて今の状況は”海”だ。
極端な気圧の低下は海面上昇を発生させ、海面を大きく唸らせる事態になる。
当然、高波を生み、突風を伴った所為で”人工的な嵐”と化す。
「うへぇ! これじゃぁ意味無いじゃん!! 私の馬鹿馬鹿馬鹿!!」
ディーイーは自身の頭を両手でポカポカ殴る。
その所為なのか急に視界が眩んだ。
『いや…違う』
魔力枯渇に因る目眩。
正しくは枯渇寸前…ここで安静にすれば命に関わる事はない。
しかし、ここで手を拱く訳には行かなかった。
この嵐を止めねば、人工的な嵐に巻き込まれた貨物旅船が転覆するかも知れない。
『どうする?! もう魔力は殆ど残ってない……』
常時展開していた二重の魔法障壁も、既に魔力不足で消失してしまった。
更には飛行魔法も出力を抑えているが、もう維持するのも難しい。
八方塞がり……後は命を削って動くしかない。
そんな時、ディーイーの脇腹に何かが直撃した。
「ぐっ!!?」
『槍…?!』
そう、それは少し前、ディーイーへ何者かが2度ほど放った投槍だった。
『くそ……こんな間で……』
余りの激痛と魔力消費で、ディーイーの意識は闇の中へと沈んでいくのだった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




