141話・魔術技能(2)
「かかってきなさい」
そうプリームスは、イディオトロピアへ告げた。
白兵戦でイディオトロピアの魔術技能を確認する為だ。
ノイーギアのように分かり易い発現魔法では無く、補助的な魔法であれば実際に立ち合って確認する方が早い。
「昨日ので思ったんだけど、私だとプリームスさんの相手は無理なんじゃないかな・・・」
とイディオトロピアは困った様子で言った。
プリームスは安心させるように笑顔を浮かべる。
「そこは心配しなくていい。私からは一切攻撃はしないし、君の攻撃を躱すか受け流すかにするゆえ」
尚も食い下がるイディオトロピア。
「でも万が一当たってしまったら、怪我じゃ済まないわよ」
プリームスの笑顔が不敵なニヤケ顔に変わった。
「それも心配ない。万が一当たる事は絶対無いからな」
これには少しイディオトロピアの顔色が変わってしまう。
舐められたと感じたからだ。
「本当に知らないわよ、まぁもし怪我をしたらノイーギアに治療して貰えばいいか」
『ほほう、昨日もそんな事を言っていたな、治療魔法まで使えるとは、ノイーギアは神官、いや司祭級の魔術師と言う事になる』
改めて魔術潜在能力の高さに感心してしまうプリームス。
ならばこんな学園で燻っていず、他で引く手あまたな筈だ。
恐らく傭兵で居た事も、この学園に来た事にも何か訳があるのだろう。
色々気になる事が有るが、取り合えずはイディオトロピアの能力を見ておかねばならない。
プリームスがそんな事を考えていると、イディオトロピアが木剣を構えて低い姿勢を取った。
『こちらは素手なのに、そっちは得物持ちか・・・』
などと思いプリームスは苦笑してしまう。
その笑みを挑発と取ったのか、イディオトロピアが苛立った様子で前に踏み込んできた。
中々の身のこなしである。
動きの速度だけで言うなら、フィエルテに肉薄するのではないだろうか。
後は攻撃の速度と、どう言った魔法を絡めて来るかだ。
イディオトロは木剣で鋭くプリームスへ向かって突きを繰り出した。
プリームスの左肩辺りを狙った一撃で、攻撃の速度もかなりの物だ。
しかし一見した感じでは、それだけである。
果たして、どのような魔術を細工した攻撃なのか?
兎に角、イディオトロピアの突きを避けなければならない。
反撃無しにしたので、プリームスが得意な”軌道逸らし”も出来ないからだ。
刹那、プリームスはイディオトロピアの切っ先に魔力を感じた。
『これは・・・!』
直ぐに身体を半身にして、突きをやり過ごすプリームス。
あっさりと突きを躱された事にイディオトロピアは驚く。
そして突きを受け流すのでは無く、躱されてしまったので上体が前のめりになり隙だらけになってしまう。
だがプリームスは反撃しないと断言したので問題無い。
イディオトロピアは慌てず、間近にいるプリームスへ攻撃を再度試みる。
次は払い斬りだ。
前のめりなった慣性を利用して、片足を軸に身体を回転させる。
更にその回転反動で剣を振り、プリームスへ攻撃を仕掛けた。
見事な身体捌きでプリームスは再び感心する。
また払い斬りが迫るが、これはぎりぎりでは躱さず、出来るだけ早めに大きめに躱す・・・それも払い斬りに対して屈み込んでだ。
そしてプリームスの頭上にイディオトロピアの剣が通過する瞬間、上に差し出した右手の指で剣の腹を弾いた。
その瞬間、ガラスが割れるような音が周囲に響き渡る。
同時に凄まじい衝撃が起こり、剣を横に払い斬りしていた筈なのに、上に跳ねあがってしまった。
「!!」
驚愕するイディオトロピア。
自分が”仕込んでいた”ものが消失したのが分かったからだ。
ヨタヨタと後ろにたたらを踏むが、何とか倒れずに済む。
そしてイディオトロピアは、眉間にシワを寄せてプリームスへ言った。
「私が何を仕込んでいたか初めから分かってたみたいね。プリームスさん、本当に何者なの?」
「うむ、だが凄いな。精度や強度は別として、そんな芸当が出来る奴は、そう居らんはずだが」
とプリームスは、片手を顎に置いて唸る様に告げた。
イディオトロピアが剣に仕込んでいたのは、魔力であった。
それは剣の刃を不可視な魔力によって拡張し、見た目以上に攻撃間合いが広がると言う物である。
また魔力によって形成された不可視の刃は、殺傷能力も格段に上がるのだ。
「これは一応私の固有魔法になるんだけどね、プリームスさんが知ってるって事は、既存の魔法なのか・・・何だか残念ね」
少しションボリした様子でイディオトロピアは言う。
「魔法の種類と言うのであれば、君が行った魔法は既存の物ではあるな。だがそんなに気落ちする事は無い。魔法は基礎となる物を工夫し改良し、そして想像力で大きく変化する。それは多岐に渡り魔術師の数ほど存在すると言っていいだろう。だからイディオトロピアさんの”その魔法”は固有と言っても差し支えないよ」
そうプリームスはイディオトロピアを褒める様に言った。
少し照れたような表情を浮かべるイディオトロピアだが、直ぐに不満そうな顔になる。
「そう言われると嬉しいけど・・・それよりも私のとっておきが利かなかった。私の魔法を見切って、しかも無力化するなんて・・・どうやったの?」
自信を無くさない様に、出来るだけ褒めたのだが上手く行かなかったようだ。
それにプリームスがした事を説明した所で、イディオトロピアには理解出来ないだろう。
だが言わなければヘソを曲げられそうだ。
「昨日も似たような事をしたよ。魔法を維持する部分へ、魔力をぶつけて魔法の機構を破壊するんだ。相手の魔法の構成や、根幹となる部分の見極めが必要故、普通はそんな事は不可能だがね」
そうプリームスが告げると、イディオトロピアは呆れた顔をする。
「自分で”普通は不可能”と言っちゃうなんて、返す言葉が無いわ。兎に角、プリームスさんに顧問をして貰った事は正解みたいね」
そうしてイディオトロピアとノイーギアは、昨日より一層プリームスへ一目置くようになってしまう。
更に明日に備えて助言は無いかと、2人に詰め寄られてしまう始末である。
一方周囲の生徒達は、呆気にとられるばかりであった。
ノイーギアの学生には有るまじき強火力の魔法。
それにイディオトロピアの白兵戦を絡めた特殊な魔法を目にした為だ。
その上、自分達とそう歳が変わらない超美少女が、その2人の顧問だと言うのだから・・・。




