1334話・決意と門出
刹那の章III・政略結婚(4)を更新しました。
そちらもよろしくお願い致します。
「試しに1人で旅でもしてみようかしら」
プリームスは少し吹っ切れた様子で言った。
まさかの反応に驚き、そして落胆するアポラウシウス。
「1人…ですか。左様ですね…」
このプリームスの反応は喜ばしき事だが、その行動の中に自分が含まれていないと察したからだ。
「一応、消化していない目的も有るし、丁度良かったのかもね…」
「遠くへ行かれるのですか?」
「そうね……まだ言った事の無い地域よ」
アポラウシウスの胸中を不安が覆う。
幾ら超常的な存在とは言え、プリームスが容易に壊れてしまう儚い身体と言う事を知っていた。
このまま本当に一人で行かせて良いのだろうか?
彼女を良く知る誰かが面倒を見るべきでは?
そして、それが自分では駄目なのか?…そんな疑問が脳裏でグルグルと回った。
不思議そうに首を傾げるプリームス。
「どうした…?」
「い、いえ……1人くらい随行が必要なのではと思いまして、」
怖々と答えるアポラウシウス。
プリームスは僅かに自嘲する。
「フッ……そうね。でもこのまま守られてばかりでは、いつまで経っても聖剣の呪いや因果の負属性から逃れられないわ。そろそろ本気で対策を考えないと」
アポラウシウスは武國の一件で、プリームスが暴走する体質であり呪いを受けた身である事を知った。
正に聖女王プリームスが持つ、最も秘匿性が高い真実を知ったのである。
これは言うまでも無く弱点であり、上手く利用すれば付け込む事も可能かも知れない。
だが…アポラウイウスは”したくなかった”。
何故ならプリームスの信を得たい、また必要とされたい思いで一杯だった為だ。
これは詰まる所、魅了されたと言っても過言では無い。
だからと言って強引に己の欲望を示せば、全てを失う事になるだろう。
故にアポラウシウスは自身を殺し、当たり障りなく返した。
「そう聖女陛下がお考えなら、只の知り合いな私では何も口出しは出来ませんね」
「只の知り合いか……卿らしくもない」
「そうですか? 所謂あれですよ、妥協と配慮…円滑に人間関係を維持する座右の銘です」
などとアポラウシウスは言い飄々とした仕草を見せた。
「フッ…成程。では私も新たに座右の銘を設けなければね、」
「ほほぅ…どのような?」
「……」
プリームスは己の過去を振り返る。
魔王になる遥か以前は気が赴くまま、また興味が惹かれる物を知る為に、満足が行くまで邁進していたように思えた。
しかし仲間や頼って来る者達が増えるにつれ、自然と自分より他者を優先する様になってしまった。
『そう言えば…アポラウシウスが言うように、妥協と配慮ばかりだったのかもな』
折角、以前の世界から決別し、新たな人生を得たのだ。
ここで再び似通った人生を送るのは、滑稽極まり無い。
何より当初は隠遁したいと考えていたのだから。
『自分勝手に生きるのも悪くないか…』
「その日暮らしの気ままな旅……取り敢えずは"自由"かな」
「座右の銘が"自由"…ですか。宜しいのでは」
プリームスの返答に、アポラウシウスは当然だと納得がいった。
そもそも何者にも阻害されない強大な力を持ち、その人格は自由奔放に生きる"資格"が十分に有ると思えた。
「本当にそう思うかい?」
「勿論です。誰かが異議を唱えるなら、私が責任を以って考えを改めてさせるか、処理して見せましょう」
「ちょっ!? 余計な事はしないでよ?!」
本当に行動へ移しそうで血の気が引くプリームス。
「フフフッ…冗談ですよ」
そう微笑みながら返したアポラウシウスは、プリームスの傍へ跪き続けた。
「しばしのお別れになるのですね。でしたら、これをお持ち下さい」
「これは…」
アポラウシウスがプリームスへ差し出した物は、赤黒い指輪だった。
『強力な魔法付加を感じる…何かの魔導具か?』
「龍血結晶を加工して作った指輪です。仲間の認識票としてソキウス…いえ、イリタビリスさんへ渡した品と同じ物ですよ」
だがイリタビリスに渡した理由とは異なっていた。
意図が理解出来ない所為でプリームスは怪訝で為らない。
万が一、何らかの呪物に相当する物なら、その効果に依って酷い目に遭うのは明白だ。
「私でも解析が困難な魔法付加を施しているな。これを私に持たせて何を企んでいるんだ?」
珍しく慌てるアポラウシウス。
「あ…! いえ…不躾に失礼しました。これには私の固有魔法が付加してあるのです。勿論、聖女陛下を害するものでは有りません」
「ふ〜ん……」
いまいちプリームスは信用できず、刺さるような訝しみの目をアポラウシウスへ向けた。
「はぁ……」
アポラウシウスは溜息が漏れる。
『これも日頃のツケか…』
列国に死神の名を轟かせ、最凶最悪と称された盗賊ギルドの長…その自分が他者へ何かを贈るなど、怪しまれて当然と言えた。
居住まいを正してアポラウシウスは指輪を差し出した。
「聖女陛下に万が一の危機が訪れた場合、この指輪を壊して下さい。必ず貴女をお助けします」
アポラウシウスの言葉に、プリームスは聞き返した。
「壊す? 私を助ける?」
確かに指輪からは危険そうな魔力の波動を感じない…しかし離れた場所から助けるなど俄には信じ難かった。
諦めた様子で立ち上がるアポラウシウス。
「私を信じられないのは仕方有りませんね」
そして恭しく首を垂れて続けた。
「飽く迄も万が一の備えです。信じられないのなら、御守りとして肌身離さずお持ち下さい」
『うぅぅ…しつこい…』
しかしながら悪意は全く感じず、プリームスとしては無下にも出来なかった。
「分かった分かった…有り難く頂くよ」
結局は折れてしまうのである。
これこそ正に妥協と配慮?
別にアポラウシウスと関係を深めたい訳では無いが、相手の気遣いを蹴るのは倫理的に如何なものかと思えたのだ。
「お受け取り頂き有難う御座います」
嬉しそうな声音で礼を口にするアポラウシウス。
片やプリームスは釈然としない様子で相槌を打つのであった。
「う、うん…」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




