1333話・酔っ払いと変態紳士(2)
「うぅぅぅ……頭が…痛い……」
頭痛で目を覚ますプリームス。
『って!? いつの間に寝てたの!!??』
確か…酒場で梅酒の水割りを飲み出したまでは覚えている。
それからどうだったか…。
横になったまま周囲を見渡すと、割と高い天井に高級そうな内装が見えた。
どうやら何処かの宿のようである。
『ベッドもフカフカだし、中々良い部屋だな』
取り敢えず水分補給だ。
そう思い上半身を起こすと、壁際のソファーに腰掛ける不審人物が目に飛び込んできた。
「ア、アポラウシウス!?」
「起きられましたか…気分は如何ですか?」
プリームスの慌て様など気にした風も無く、アポラウシウスは淡々と言った。
「え…あ、うん、ちょっと頭が痛いけど大丈夫。それより何で私は此処に?!」
「偶然に酒場でお見かけしまして、酒の席をご一緒したのですよ。覚えていませんか?」
答えになっていない返答にプリームスはヤキモキする。
「う〜〜何となく覚えてるけど…そうじゃなくて!」
「フフッ…聖女陛下は泥酔してしまったのですよ。そのまま寝落ちしたので、仕方無く宿にお連れしました」
「そ、そうだったの…迷惑を掛けたわね」
若干の衝撃を受けるプリームス。
身内が傍に居るならまだしも、死神の前で泥酔するなど前代未聞だからだ。
『うぅ…これで害されていても文句は言えない』
「いえいえ。ところで目のやり場に困るのですが…」
「う? あ……」
下着の上に羽織っていたガウンが完全に開けてしまっていたのだ。
プリームスとしては減る物でも無いし気にしないのだが、他人からしては"ある意味"で迷惑なのは自覚していた。
なので即座にガウンの乱れを直して謝罪した。
「何だか色々と申し訳ない…」
「いえ…お構いなく。で、これから如何されるのですか?」
急に改まって尋ねるアポラウシウスに、プリームスは色んな危惧が脳裏に過ぎる。
『え…まさか酔っ払って余計な事を口にした?!』
「因みにですが宰相殿と喧嘩をされた事は伺いましたよ。それ以上は特に聞いておりませんから御心配なく」
『うわあぁああっ!!』と叫びそうになるプリームス。
泥酔した勢いとは言え、痴話喧嘩の事を赤の他人に話すのは恥辱の極みだ。
しかも死神相手では目も当てられない。
察したアポラウシウスは内心で苦笑する。
『フフフッ…淑女に有るまじき格好の方が、普通は恥ずかしい筈なのですが』
「兎に角、過ぎた事は仕方ありません。それよりも、これからの行動が大事かと」
全くその通りで、プリームスは反論の余地も無い。
「うん…そうね」
だからと言って特に計画が有る訳でも無く、どうしたものかと項垂れる。
「……私の個人的な提案なのですが、暫く距離を置いては如何ですか?」
「距離って……実際に頭を冷やす意味で、こうして飛び出して来たんだけど、」
「それは宰相殿との関係に対してですよね? 私が受けた印象では、もっと複合的で複雑に思えます」
アポラウシウスから言葉を選んで慎重に話す様子が窺えた。
それは相手を諭すような目線では無く、飽く迄も提案の域を超えていない。
『不思議な男だな。私を気に入っているようだが、ここまで親身になるとは…』
何か他に下心が有るかも知れないが、それでもプリームスは聞くべきだと思えた。
「つまり…?」
「人生とは妥協の連続です…己の理想を完全に叶える事は不可能ですからね。つまり、永劫の王国が本当にプリームス様に必要なのか、貴女が妥協してまで付き合う存在なのか…十分に距離と時間を置けば見えてくるのでは?」
「ふむ…」
『成程…擬似的に失ってみる訳か』
アポラウシウスの提言に、プリームスは妙に納得してしまう。
つまる所、それは"家出"を指している。
これを実行すれば丸で子供の我儘にも見えるが、互いの要求が衝突するのだから仕方が無い。
擬似的に関係を破綻させて、それを盾に妥協と譲歩を引き出す…割と悪どい遣り様だ。
しかし、それはプリームスにも該当する。
一方的に破綻を突きつければ、自分も同じ状況が返ってくるのだ。
要するにスキエンティアが破綻を受け入れてしまえば、プリームスは身内や永劫の王国を失う結末に至るだろう。
逆にスキエンティアが譲歩や妥協を求めて来れば、これを拒む事を恐らくプリームスには出来ない。
そもそもプリームスにとってスキエンティアは大切な臣下で弟子であり、それ以前に実子のような存在なのだから。
『ハハッ……あいつが私に拘る様に、私も捨てられない…正に妄執だな』
そして同時に思う。
スキエンティアが私に費やした時間…そう、人生は価値が有ったのか?…と。
もっと他に道が有ったのでは?
『結ばれた因果は容易に解けない。なら……』
ここで破綻を突き付けて、互いに空白の時間を作るのも悪くは無いかも知れない。
それでもスキエンティアが私を求めるなら、それは妄執を越えた価値ある人生と言える。
『じゃぁ…私は……?』
以前の世界では、とても価値が有る人生とは言えなかった。
魔王に仕立てられ利用され、多くの命を失わせたのだ。
では、"今"は?
偶然とは言え邂逅した人々の命を救い、その運命を変えた…それが良いか悪いかは分からないが。
『魔王の時より…少しはマシか、』
兎に角はアポラウシウスの提言を受け入れ、全てから距離を置くのも一つの手だ。
途方に暮れて、何も思い付かない今なら尚更だ。
「そうね…卿の言う通りかも。試しに1人で旅でもしてみようかしら」
「1人…ですか。左様ですね…」
これを聞いたアポラウシウスは、すこしばかり落胆した様子を見せたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




