表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第九章:北方四神伝・I
1426/1769

1333話・酔っ払いと変態紳士(2)

「うぅぅぅ……頭が…痛い……」

頭痛で目を覚ますプリームス。


『って!? いつの間に寝てたの!!??』

確か…酒場ヘタイロスで梅酒の水割りを飲み出したまでは覚えている。

それからどうだったか…。


横になったまま周囲を見渡すと、割と高い天井に高級そうな内装が見えた。

どうやら何処かの宿のようである。

『ベッドもフカフカだし、中々良い部屋だな』


取り敢えず水分補給だ。

そう思い上半身を起こすと、壁際のソファーに腰掛ける不審人物が目に飛び込んできた。

「ア、アポラウシウス!?」



「起きられましたか…気分は如何ですか?」

プリームスの慌て様など気にした風も無く、アポラウシウスは淡々と言った。



「え…あ、うん、ちょっと頭が痛いけど大丈夫。それより何で私は此処に?!」



「偶然に酒場ヘタイロスでお見かけしまして、酒の席をご一緒したのですよ。覚えていませんか?」



答えになっていない返答にプリームスはヤキモキする。

「う〜〜何となく覚えてるけど…そうじゃなくて!」



「フフッ…聖女陛下は泥酔してしまったのですよ。そのまま寝落ちしたので、仕方無く宿にお連れしました」



「そ、そうだったの…迷惑を掛けたわね」

若干の衝撃を受けるプリームス。

身内が傍に居るならまだしも、死神アポラウシウスの前で泥酔するなど前代未聞だからだ。

『うぅ…これで害されていても文句は言えない』



「いえいえ。ところで目のやり場に困るのですが…」



「う? あ……」

下着の上に羽織っていたガウンが完全にはだけてしまっていたのだ。


プリームスとしては減る物でも無いし気にしないのだが、他人からしては"ある意味"で迷惑なのは自覚していた。

なので即座にガウンの乱れを直して謝罪した。

「何だか色々と申し訳ない…」



「いえ…お構いなく。で、これから如何されるのですか?」



急に改まって尋ねるアポラウシウスに、プリームスは色んな危惧が脳裏に過ぎる。

『え…まさか酔っ払って余計な事を口にした?!』



「因みにですが宰相殿と喧嘩をされた事は伺いましたよ。それ以上は特に聞いておりませんから御心配なく」



『うわあぁああっ!!』と叫びそうになるプリームス。

泥酔した勢いとは言え、痴話喧嘩の事を赤の他人に話すのは恥辱の極みだ。

しかも死神アポラウシウス相手では目も当てられない。



察したアポラウシウスは内心で苦笑する。

『フフフッ…淑女に有るまじき格好の方が、普通は恥ずかしい筈なのですが』

「兎に角、過ぎた事は仕方ありません。それよりも、これからの行動が大事かと」



全くその通りで、プリームスは反論の余地も無い。

「うん…そうね」

だからと言って特に計画が有る訳でも無く、どうしたものかと項垂れる。



「……私の個人的な提案なのですが、暫く距離を置いては如何ですか?」



「距離って……実際に頭を冷やす意味で、こうして飛び出して来たんだけど、」



「それは宰相殿との関係に対してですよね? 私が受けた印象では、もっと複合的で複雑に思えます」

アポラウシウスから言葉を選んで慎重に話す様子が窺えた。

それは相手を諭すような目線では無く、飽く迄も提案の域を超えていない。



『不思議な男だな。私を気に入っているようだが、ここまで親身になるとは…』

何か他に下心が有るかも知れないが、それでもプリームスは聞くべきだと思えた。

「つまり…?」



「人生とは妥協の連続です…己の理想を完全に叶える事は不可能ですからね。つまり、永劫の王国アイオーン・ヴァスリオが本当にプリームス様に必要なのか、貴女が妥協してまで付き合う存在なのか…()()()()()()()()()()()()見えてくるのでは?」



「ふむ…」

『成程…擬似的に失ってみる訳か』

アポラウシウスの提言に、プリームスは妙に納得してしまう。


つまる所、それは"家出"を指している。

これを実行すれば丸で子供の我儘にも見えるが、互いの要求が衝突するのだから仕方が無い。

擬似的に関係を破綻させて、それを盾に妥協と譲歩を引き出す…割と悪どい遣り様だ。


しかし、それはプリームスにも該当する。

一方的に破綻を突きつければ、自分も同じ状況が返ってくるのだ。

要するにスキエンティアが破綻を受け入れてしまえば、プリームスは身内や永劫の王国アイオーン・ヴァスリオを失う結末に至るだろう。


逆にスキエンティアが譲歩や妥協を求めて来れば、これを拒む事を恐らくプリームスには出来ない。

そもそもプリームスにとってスキエンティアは大切な臣下で弟子であり、それ以前に実子のような存在なのだから。

『ハハッ……あいつが私に拘る様に、私も捨てられない…正に妄執だな』


そして同時に思う。

スキエンティアが私に費やした時間…そう、人生は価値が有ったのか?…と。

もっと他に道が有ったのでは?


『結ばれた因果は容易に解けない。なら……』

ここで破綻を突き付けて、互いに空白の時間を作るのも悪くは無いかも知れない。

それでもスキエンティアが私を求めるなら、それは妄執を越えた価値ある人生と言える。



『じゃぁ…私は……?』

以前の世界では、とても価値が有る人生とは言えなかった。

魔王に仕立てられ利用され、多くの命を失わせたのだ。


では、"今"は?


偶然とは言え邂逅した人々の命を救い、その運命を変えた…それが良いか悪いかは分からないが。

『魔王の時より…少しはマシか、』


兎に角はアポラウシウスの提言を受け入れ、全てから距離を置くのも一つの手だ。

途方に暮れて、何も思い付かない今なら尚更だ。

「そうね…卿の言う通りかも。試しに1人で旅でもしてみようかしら」



「1人…ですか。左様ですね…」

これを聞いたアポラウシウスは、すこしばかり落胆した様子を見せたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ