1328話・配慮と擦れ違い
刹那の章III・政略結婚(1)と(2)も更新しております。
そちらも宜しくお願いします。
「フンっ!」
プリームスは機嫌が悪そうに席から立ち上がった。
「「プ、プリームス様?!」」
突然の事に戸惑うアグノスとアソオス。
居合わせた面々も目を丸くする。
しかしプリームスの様子から憤慨に似た情動を感じ、只事では無いと察した。
これにスキエンティアは慌てる事無く尋ねる。
「プリームス様、何方へ? まだ定例会議は終了していませんが」
「……何処でも良いだろ」
『何もかも勝手に決めて良く言う』
グラキエースとスキエンティアの遣り取りもピリピリしたが、それ以上の一触即発感が艦橋内を満たした。
だがアッサリと事態は終息する。
プリームスが何も言わずに艦橋を出て行ってしまったからだ。
その後を侍女長のピスティが急いで追う。
『一体何がプリームス様のご不興を…?!』
様々な疑問や不安がピスティの胸中を覆うが、自分の使命は主君の世話と護衛だ。
何が起ころうと手は抜けない。
司令区画の通路を暫く進むと、プリームスは甲板へ出て足を止めた。
「プリームス様…如何されたのですか?」
不安が溢れ出し、それがピスティの口を衝く。
その美しい銀髪を微風に靡かせ、プリームスは静かに答えた。
「スキエンティアの配慮は理解出来る。だが、それが私の望む物で無ければ、私がお座なりにされているのと何ら変わらん」
「プリームス様は国が大きくなる事へ御不満が有るのですね?」
ピスティの問いは当たってもいるが、それが核心とは言い難い。
「そもそも国を作った事が失敗だった。私は王になんて成りたく無かったのに…」
「…!」
これはピスティにとって爆弾発言だった。
自分がプリームスと出会った時には、既に永劫の王国は国として十分に認識していた為だ。
『そんな……じゃあ今までプリームス様は嫌々に君主として…』
これでは自分達の存在意義を失ったかに思えてしまう。
「でもね…今居る皆んなに出会えて良かったと感じるの。もう皆んなは私の大切な家族だから…」
そのプリームスの吐露で、ピスティの危惧や絶望が浄化された気がした。
「プリームス様…」
それでも問題の核心が解消された訳では無い。
『これからどうすれば…』
「……」
「………」
2人して甲板で途方に暮れてしまう。
「へっぶしっ!!」
突然、プリームスがクシャミをした。
「あらあら…鼻水が出てしまいましたよ。さぁ中へ戻りましょう…天気が良いとは言え、まだ海風は寒う御座いますから」
ピスティはハンカチでプリームスの鼻を拭いながら言った。
『フフッ…こうしていと本当に少女のようね』
中身が350歳ではあるが、見た目は15歳なのだ。
この差異が堪らなく可愛らしく、また愛おしく思えた。
甲板への出入り口が静かに開く音がした。
「スキエンティア宰相…」
プリームスの不興の起因となった存在が現れ、戸惑うピスティ。
このまま2人を突き合わせては、更に事態が悪化しそうに思えたのだ。
片やプリームスは本当に寒いのか、恰も風除けの如くピスティに抱き付いた状態である。
「プリームス様…どうされたのですか?」
「本当に分からないの?」
スキエンティアの問いに、プリームスは不機嫌そうに返した。
「はい…仰って頂かねば分かりません」
「国が大きくなれば必ず諍いが舞い込む。私は静かに…気ままに暮らしたいだけなのに。これじゃ何もかも台無しよ」
困惑するスキエンティア。
「し、しかし、領土が拡大するのをプリームス様ご自身が受け入れたでは有りませんか。それを私は円滑に統治出来るよう処理しただけなのですよ」
傍で聞いていたビスティは、両者の言い分が正しく思えたと同時に、まるで子供の喧嘩にも感じた。
どちらか折れれば簡単に収拾がつくからだ。
だが直ぐに考えを改めた。
恐らく今まで主君は、皆に合わせて折れ続けたのだろう。
だからこそ溜まりな溜まった不満や鬱憤が、ここに来て爆発したのかも知れない。
『いや…本当に爆発したなら、この程度では済まないか』
兎に角、大事に為らぬよう此処で瓦斯抜きをするべきだ。
「あ、あのぅ……この際、互いに内に秘めた思いを伝えるのは如何ですか? 私が思うに気遣いや配慮をした故に、本心を伝え合えていないのでは?」
ピスティの提案に2人は暫く黙り込んだ後、スキエンティアが先に口を開いた。
「確かにピスティさんの言う通りですね。プリームス様は如何ですか?」
『はぁ…300歳も年下の女子に諭されるとはな』
同意を求められ、プリームスは素直に頷く。
「うん…分かったわ」
2人の間に立ったピスティは、両者を交互に見やって尋ねた。
「え〜と…どちらから話しますか?」
正直、"超"超絶者の2人に挟まれて怖くて仕方が無い。
するとスキエンティアが律儀に挙手をする。
「私から思いや言い分を申しましょう」
ビスティはプリームスへ視線を送り確認を取る。
これにプリームスは無言で頷いた。
こうして妙な緊張感の中、スキエンティアが秘めた思いを口にし始める。
「プリームス様が安心して過ごせる世を作りたい…そう予々思っておりました。その為には絶対的な統治に因る秩序が必要なのです。故に私は帝国の誕生を知らしめるつもりで居ます」
容易に難癖や介入が出来ない存在…そう思わせれば、半恒久的な安寧は難しく無い。
否…自分ならば可能だとスキエンティアは自負していた。
「そんな事…誰が頼んだ?」
「……」
「…!」
辛辣なプリームスの返しに、スキエンティアだけで無くピスティも絶句したのだった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




