1326話・第9章:プロローグ・役職再配置(2)
本編の九章は末尾に、刹那の章は九章の手前に割り込みで更新していきます。
今後ともよろしくお願い致します。
妙にピリ付くスキエンティアとグラキエースの遣り取りが一旦収まり、一同はホッと胸を撫で下ろす。
別に物理的な衝突が起こる訳も無いが、居合わせた面々からすれば居心地が悪い。
出来れば仲良くして欲しいものである。
次にスキエンティアはメーロースの名を口にした。
「貴女にはグラキエースさんと共にフォボスの運用管理をお願いします。役職で言うならば副長官と言う事になりますね」
想定内だったのか、メーロースは驚くこと無く頷く。
「承知しました。グラキエース長官と共に滞り無く運用して見せましょう」
実は、これに相応の意図が有ったスキエンティア。
以前にメーロースが消滅仕掛けた時、主君の魔力を得て復活を遂げた事があった。
その際にプリームスと吸血鬼で言うところの、主と眷属の関係が構築されたのだ。
つまりフォボスの活動はメーロースを通して、即座にプリームスへ伝える事が可能なのである。
これもメーロースが、真相吸血鬼エテルノの分身体だからこそ可能な業と言えた。
「さて、イリタビリスさんには大幅な配置変更して貰います」
「…!」
スキエンティアに勿体ぶる言い様をされ、イリタビリスはギョッとする。
少しばかり"そうなる"覚えがあるからだ。
「貴女には裏組織フォボスと諜報局の掛け持ちをして頂きましょう。簡単に言えば両組織の実行部隊指揮…そんな所ですかね」
怖々と尋ねるイリタビリス。
「あ……や、やっぱり死神と暫く行動していたからでしょうか?」
「多少それも有りますね。それから互いに探りの入れ合いになるでしょうから、上手く動いて下さい」
割と漠然とした答えをするスキエンティア。
それもこれもイリタビリスが優秀だと分かっているからだった。
そもそも細かな指示は有能では無い故にしなければ為らない。
主君と永劫の王国の為に如何に動くか、独自に思考し動ける者には必要が無いのである。
「では外交官の役目は無くなるのですね?」
「いいえ…表向きは外交官で問題無い有りません。その方が諜報やフォボスの活動はし易いでしようから、隠れ蓑に使えば良いでしょう」
「そうですか…分かりました」
イリタビリスとしては嬉しいやら悲しいやらだ。
新たな役目が与えられたのは、自分の実績や立ち回りが認められた証拠。
しかしながら忙しくなるのは間違いなく、プリームスと過ごせる時間が減るのは遣る瀬無い。
「次はテユーミアさんですね」
妙に改まった口振りのスキエンティアに、テユーミアは居住まいを正した。
「はいっ!」
「テユーミアさんには外務省長官をお任せしたいのです」
「え…?! 私が長官? それも外務省の?!」
「はい…テユーミアさんは永劫の騎士ですが、それ以前にリヒトゲーニウス王国・大公爵妃で在られます。その貴族としての豊富な経験は、対外的に十分な成果をあげられる筈ですよ」
テユーミアは「口が上手い」と舌を巻きそうになる。
相手に何かを頼む場合、お願いする事も当然だが、褒める事が一番効果的なのだ。
要するに相手を上げて上手く転がす訳である。
そうして気分が良くなった相手は、その場で断り辛くなると言う寸法だ。
それが分かるだけに即答はし兼ねた。
『いや駄目だわ…スキエンティアさんは私の考えなんて及ばない権謀家。あれこれ考えるだけ詮無いわよね…』
「どうかしましたか? 何か問題でも?」
「早く首を縦に振れ」と言わんばかりにスキエンティアの静かな追撃。
これへテユーミアは半ば項垂れながら頷いた。
「はい…お引き受けします」
『はぁ……これでプリームス様との憩いの時間が減ってしまうわね』
今まで、これと言った役職が無かっただけに、テユーミアはプリームスと多くの時間を過ごせていた。
国が拡大してしまった為、仕方が無いのだが何とも切ない状況である。
『あ……まさか…!』
この状況からテユーミアは"ある仮説"を導き出す。
ひょっとして宰相は、この状況を利用したのではないか?…と。
国土が広がったのはプリームスの所為ではある。
それに因って永劫の騎士に重要な役割が振り分けられるのも当然だ。
だが東方諸国…ペクーシス連合王国のように、現地の人間に統治を任せれば済む事でもある。
またプリームス直属の臣下である永劫の騎士…言わば身内を、再配置でも遠くへ飛ばさない塩梅は絶妙と言うしか無い。
勘ぐるか勘ぐられないか、正にギリギリの線だ。
『くぅぅ! スキエンティアさんはプリームス様との時間を可能な限り独占するつもりなのね!』
と断定したテユーミアだが、それを口に出せる筈も無かった。
スキエンティアの弁の立ち様は、主君が圧倒される程である。
ここでテユーミアが指摘した所で、難なく返り討ちにされる事だろう。
何より全てを鑑みての判断に違い無い。
権謀に疎い自分が、おいそれと口を挟むのは憚られた。
つまり泣き寝入りな訳である。
『はぁ…流石はスキエンティアさんと言うべきかしら』
兎に角、今の自分に出来るのは、素直に引き受ける事しかない。
そしてスキエンティアと2人きりの時にでも、自分の抱いた仮説を問うてみるのが良い。
こうして落胆の様相を呈したテユーミアは、通達の続きを半ば聞き流しで過ごすのであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




