1324話・第9章:プロローグ・定例会議
本編の九章は末尾に、刹那の章IIIは九章の手前に割り込みで更新していきます。
今後ともよろしくお願い致します。
武國で起きた魔神王の厄災から2ヶ月が過ぎ、プリームスは漸く永劫の王国の拠点である箱舟に戻って来ていた。
プリームス自身、訳有って眠りにつき1カ月間も武國から動けなかったが、更に1カ月を要したのは、状況が許されなかった所為だ。
その状況とは武國を永劫の王国に併合した事である。
これを列国へ公式発表した事で、列国の動きを監視する必要が生じたのだった。
そして最も危惧されたのが、虎王国に因る武國への侵攻だ。
魔神王の脅威が無くなった以上、貿易中継拠点として魅力的なのは言うまでもない。
つまり海を隔てて隣接する虎王国としては、何としても手に入れたい領土なのだ。
この虎王国の動きを確認する為、プリームスは永劫の王国の聖女王として武國に留まったのだった。
結果的に一ヶ月が経過しても虎王国には大した動きも無く、侵略と言う列国問題には発展に至らなかった。
〜〜箱舟・聖女王寝所〜〜
「はぁ……」
プリームスはベッドへ大の字で横たわり、溜息をつきながら天井を見上げた。
馴染み親しんだ我が家を実感し、漸く落ち着いた…そんな思いがプリームスの胸中を覆う。
だが実際は心の整理が追い付いてはいなかった。
魔神王の厄災は、最悪の事態になる前に終息させる事は出来た。
それでも武國の中枢は破壊され、宮仕えの人間は大多数が命を落とした。
もっと上手く立ち回れたのではないか?
そんな疑問と後悔がプリームスを苛む。
何より見初めた存在…ギンレイを失った事が一番辛かった。
「ほんと…私の人生は後悔ばかりだな…フッ」
辛さが独り言を口にさせ、そんな自分の愚かさを自覚して自嘲が同時に湧き起こる。
寝室の扉がノックされた。
「は〜い…何?」
気怠そうな反応のプリームスに、ノックの主は苦笑混じりで答える。
「フフフッ…まだ御気分が優れませんか? これから定例会議ですが…」
「んぁ……? んん〜〜行くよ。はぁ……」
仕方無くベッドから起き上がるプリームス。
しかし、その姿は会議に赴くとは思えない淫らさだ。
黒の下着姿で他に何も羽織ってさえおらず、耐性が無い者なら卒倒するか、或いは思考が停止して暫く固まってしまうだろう。
「では身支度のお世話を致しますね」
扉を隔てて聞こえて来る声は、僅かな揶揄が含まれている。
「どうせ寝起きのままでしょう?」と暗に告げてるかのようである。
「う〜ん……このままじゃ駄目?」
扉を開けて入室した人物は呆れ顔を浮かべた。
「駄目ですよ! 私は構いませんが殿方も居ますし、免疫の無い方も居ます。しゃんとして頂かないと困りますよ」
「はぁ……じゃあ、ピスティに全部任せるよ」
「フフッ…仰せのままに」
入室した女性は随分と長身なのに、何故か侍女衣装が似合っている。
多分、仕草や振る舞いが洗練されている所為かも知れない。
彼女はノイモン・レクスアリステラ大公の娘で、以前はセルウスレーグヌム王国に嫁がせる計画だった。
そしてその狙いはセルウスレーグヌム王国の軍司令…戦女神の地位。
これは王家の武と美しさの象徴で、正に権威を内外に示す存在と言えた。
つまりノイモンは、内側からセルウスレーグヌム王国を掌握しようとしたのだ。
されど、その計画は頓挫してしまう。
そこでノイモンが打った次の手は、危険視していた聖女王にピスティを”宛がう”事だった。
しかしながら、これもまた失敗に終わる。
ピスティが父と袂を分かち、自身の意思でプリームスの元へ下ったからだ。
こうしてノイモンに厳しく育てられたピスティは、その文武両道と言う優れた能力で、箱舟の侍女長を務める事となった。
勿論、武力も戦女神を狙っただけの事はあり、永劫の騎士に属すに至る。
そんなピスティは手際よくプリームスの身支度を整える。
と言っても外出する訳では無いので、靴下を履かせてガウンを羽織る程度だ。
後は寝癖が付いた髪を整えるくらいだろう。
「さぁ参りましょうか…プリームス様」
ベッドから立つのを恭しく促され、仕方無くプリームスは上履きに足を入れた。
「私が居なくても勝手に定例会議は進むだろうに…」
ピスティは首を横に振る。
「いいえ…今回は些か違う様です。宰相閣下及び総司令からも、プリームス様には必ずご出席されるよう言付かっておりますから」
「えぇぇ……?」
『うぅ…嫌な予感しかしない』
こうしてゲンナリしながらプリームスは寝所を出た。
そして向かうは司令区画の中枢…箱舟の操舵を行える艦橋だ。
ここは司令区画で一番広く、多種多様な会議にも使用されているのだ。
プリームスが艦橋に入ると、アルカに居る永劫の騎士達が一斉に視線を向ける。
そして皆して立ち上がり、プリームスの着席を待った。
「態々《わざわざ》立たなくて良いよ…皆んな座って」
妙に畏まった身内に、プリームスは嫌な予感が募る。
上座…ここでは謂わゆる艦長席にプリームスが座ると、皆が着席してスキエンティアが議題を口にした。
「今回の議題は永劫の騎士の役職再配置と、今後の方針に対する提案です。前者は確定、後者は私の提示に対しての意見を皆さんから頂こうと思います。宜しいですか?」
『宜しいですか…って、嫌って言えないでしょ…』
と突っ込みたくなるプリームス。
それに、この議題なら自分が居なくても問題無いと思えた。
因みにプリームスの右隣には娘のアソオスが、左隣には皇后のアグノスが座っている。
更に会議卓を挟んで左にはスキエンティアが着き、文官面子が続く。
変わって右側はインシオンが着き、武官面子が続いた。
『うへ…皆んな勢揃いじゃないの…』
プリームスは益々嫌な予感がした。
東方諸国面子を除き、ほぽ永劫の騎士全員が集まったのだ。
これが只の定例会議な訳が無いのだから。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




