政略結婚(29)
「トニトルス…最後に1つ聞きたい事がある」
クシフォスに改まって訊かれ、トニトルスは満足そうに頷いた。
「うむ…我が死に絶えるまでなら、幾つでも答えてやろう」
「いや…別にそこまでは…」
首だけで鷹揚に返すトニトルスに、クシフォスは少し引いてしまう。
「さぁ急げ。我に何を問う?」
「う、うむ……その、どうして龍魔法を使わなかった? 全ての能力を駆使すれば、多分だが俺達は勝てなかった筈だ。まさか手を抜いたんじゃないだろうな?」
「フッ…手を抜いたのでは無い」
自重気味に返えすトニトルス。
「なら理由は?」
「本来、古龍を人間が束になって倒せると思うか?」
「……」
質問を質問で返されたクシフォスは、何か意味が有ると思い思考を巡らせた。
『どう言う意味だ? つまりは倒せないと言いたいのか?』
記録に残された過去の事例では、幾つかの国家が軍を動員し暴走古龍を討伐処理している。
その内容に因れば死傷者は、魔法では無くブレスや物理的な攻撃で出たようだった。
「ひょっとして…使えなかったのか?」
ここで漸く1つの可能性にクシフォスは至る。
「龍魔法は非常に高度な魔法機構と、複雑な魔術演算処理を必要とする。故に古龍種以上の存在しか使えぬのだが…」
傍で黙って聞いていたエスティーギアが、食い気味で続いた。
「寿命が差し迫った脳では負荷が大き過ぎて、使いたくても使えなかった。そして暴走した古龍だと、高度な脳機能は死滅していて当然使えない…」
トニトルスは頷くように、その瞳を瞬いた。
「そう言う事だ。それに古龍だけでなく竜種は自死が出来ぬ…ならば手を抜くなど出来よう筈も無い」
「そうか…」
クシフォスの胸中は、言葉にし難い複雑な情動に満たされる。
古龍は土地神と言って過言ではない存在だ。
何故なら人智を超えた知能と叡智を有し、広大な領域の均衡を守っているからである。
だからこそトニトルスが、不用意に人へ害を及ぼす訳が無い。
可能な限り最小限の被害で、己を終わらそうと葛藤したに違いないのだ。
『最後が暴走とはな…』
自分が同じ立場なら、きっと耐えられずに発狂していたとクシフォスは思えた。
「あの男の…息子と言ったな。我を倒した強者の名を教えてくれ…」
既に瞳を閉じたトニトルスは、消え入りそうな言霊で告げる。
「俺はクシフォス・レクスデクシアだ。親父の後を継ぎ、次の武神となる男だよ」
「フフッ…フフフッ……人が南方と呼ぶ地で我を倒したのだ。自らを南方最強の武神と語る事を許そう」
「……」
トニトルスを倒し本当なら嬉しい筈だが、クシフォスは妙な物悲しさを覚えてしまう。
「最後に忠告と褒美を与える…」
「ん? 忠告…だと?」
怪訝そうに聞き返すクシフォス。
褒美なら分からないでも無いが、忠告となると些か物騒に聞こえたからだ。
「我は300年以上の歳月を守護者として過ごした。故に我が消え去れば、この地の均衡を崩そうとする存在が現れるだろう。或いは我に代わる存在が台頭するやも知れぬ…それを重々肝に命じておくが良い」
トニトルスの言葉に、エスティーギアが反応した。
「それは人間にとって? それとも生物全てに?」
「捉え方しだいだ」
そう答えた刹那、トニトルスの頭が淡い光を放ち始めた。
「どうやら限界のようだ…さあエフティーアの息子クシフォスよ、我の一部を持ち帰るがよい」
すると倒れ伏したトニトルスの体が、突如崩壊し粉塵を巻き上げた。
その首を失った巨体は、先程まで歩き出しそうな位に瑞々しかった筈なのに…。
そして塵となった肉体はキラキラと輝きを放ち、やがては何も無い虚空で消失した。
「…!!」
クシフォスは目を見張る。
巨体が有った場所に、長く巨大な2本の骨を見たからだ。
それは内包される魔力が強大過ぎ、明らかに危険な代物だった。
不用意に常人が触れれば魔力当たりを起こし、最悪死に至るだろう。
「これは…凄いわね。古龍の龍骨で、しかも綺麗な状態の大腿骨だなんて」
半ば呆気に取られたエスティーギアが呟いた。
「竜骨では無く、"龍"骨…ですよね。多分、こんな機会は一生で一度も巡って来ませんよ」
同じく妹のテユーミアも驚きを隠せない。
「そんなに凄いのか?」
一方クシフォスは"ヤバイ"と分かっても、何が凄いか全くわからないで状態だ。
「ただ凄いって訳じゃ無いわよ! これを素材にして作成した武具は伝説級を超えた物になる…そう神器と言っても差し支えない程のね」
「神器?! それは凄えな。で、誰の物にするんた?」
素っ頓狂な事を言い出すクシフォスに、エスティーギアとテユーミアはズッコケそうになる。
「何言ってるの! これは貴方の物よ!」
「そ、そうですよ! クシフォス様がトニトルスを倒したのだから、クシフォス様の物です!」
今にも倒れそうなクシフォスは、朦朧としながら何とか姉妹の言葉を聞いていた。
「そ…うか……」
『龍骨が2つなら…2つの神器か…」
その後、次第に視界が暗転し、同時に思考が朧になってしまう。
『はは…ははは……まさか、こんな所で死んだりしねぇよな…』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




