政略結婚(26)
次回「政略結婚」は24年10月25日の午前中に更新予定です。
雷龍の前に立ちはだかった5体の何か。
それは人を模した姿をしてはいるが、全てが漆黒で目や口などは無い。
例えるなら、伝説上に存在する二重存在の悪魔が、人を模す前の姿のようである。
その後ろで控えるエスティーギアが、ニヤリと笑みを浮かべて言い放った。
「さて、対魔神用決戦兵器ミメーシスのお披露目よ」
トニトルスは目を細め、5体のミメーシスを見つめた。
『面妖な…だがこれは……』
甘く見ては行けない…そう本能が告げているのを自覚する。
仕組みは実際に触れてみねば分からないが、一種のゴーレムなのは間違い無いと思えた。
理由は根幹となる機構に、魔力核の波動を感じたからだ。
そして問題は藍色の髪の女が"対魔神用決戦兵器"と言った点だ。
つまるところ人類最大の脅威である魔神に、このゴーレムで戦えると言っているに等しい。
『魔神と戦える戦力か…面白い』
それが事実なら、古龍の自分と十分に戦える資格がある。
「そのミメーシスとやらで我を止めてみるがいい!」
トニトルスは左腕を庇うように、その強靭で巨大な後ろ足で立ち上がった。
これを目の当たりにしたエスティーギアは僅かに怯んだ。
「ははッ…凄い威圧感ね」
トニトルスが立ち上がると、その高さは20mに迫る。
そんな強大な存在を前にし、10分の1にも満たない人間が怯むのは当然と言えた。
「姉様!」
つい声を掛けてしまうテユーミア。
本当に大丈夫なのか?…そんな無意識の心配が彼女にそうさせたのだった。
「見てなさい。私と"王"が作り出した最高傑作を」
エスティーギアは前を見据えたまま、そうテユーミアに返す。
それは恰も勝利宣言の如く、強い自信が込められていた。
凄まじい勢いで息を吸い込むトニトルス。
ブレスだと察知したエスティーギアは、直ぐさまミメーシスへ指示を送る。
「I、II、III、ブレス防御! IV、Vはトニトルスの側面から挟撃!」
それは古代魔法語に因る命令だ。
しかも相当に古く複雑な言語の為、魔術師だったとしても理解は到底不可能だろう。
刹那、凄まじい雷撃の波動が、エスティーギア等のいる場所に直撃した。
トニトルスのブレス…雷撃流である。
その威力は最大級の落雷に相当し、人が晒されれば簡単に消し炭になると言う。
またブレスに含まれる魔力の強度に因り、対象となった生命に電気分解を引き起こさせる。
そうなれば例え電流に耐えたとしても、体内は溶解し絶命は免れない。
これを如何にして防ぐのか?
否…天災に等しい古龍のブレスを、矮小な人間が防げる筈も無いのだ。
しかし想定外の事態にトニトルスは驚愕する。
何と雷撃流を真っ向から吹き飛ばして相殺し、霧散させられたからだ。
「…!!」
加えて3体のミメーシスは、3体とも右手を前に翳して無傷で立っていた。
勿論、その背後にいるエスティーギアも健在だ。
『馬鹿な…雷撃流を受けて無傷だと!?』
確かに力加減は調整した…下手に全力で放てば、この龍の巣が崩壊し兼ねない為である。
それでも完全に相殺するなど有り得ない。
『まさか…体動衝撃を使ったのか?』
圧縮した気を放ち、凡ゆるものを吹き飛ばす仙術の奥義。
本来であれば超絶者級が使う技…それを"ゴーレム"が使うなど尚更あり得ない。
驚愕と困惑に胸中が覆われたトニトルスを、何かが両側から斬り付けた。
「ぐおっ!!?」
それも鱗を切り裂く程の重い一閃。
『有り得ぬ。だが…』
トニトルスの胸が踊る。
ここ100年以上、先程の男以外に傷付けられる事など皆無だった。
故に、その生命の危機がトニトルスを高揚させた。
「ぐははははっ!! 良いぞ! 見事このトニトルスを討伐して見せよ!」
そして今この時が、自我を保ち戦える最後の機会かも知れない。
だからこそ願う…我を屠れと。
トニトルスの脚を両側から斬り付けたミメーシスは、深追いせず直ぐにエスティーギアの傍へ戻った。
『所詮は人が操るゴーレムか…』
少しばかりトニトルスは落胆する。
見た所、一度に一つの指示しか実行出来ないように思えたからだ。
ひょっとすれば簡単なものなら、複数の指示を受け付けるかも知れない。
されど人の複雑な思考や"むら"を再現出来ず、容易に行動を推測し得る。
エスティーギアの傍に戻った5体のミメーシス。
それらを見据えてトニトルスは告げた。
「大した防御力と攻撃力だ。しかし我を屠るには足らぬ」
これにエスティーギアは不敵な笑みを浮かべて返した。
「それはどうかしら?」
「何だと…?」
『…!?』
突如、ミメーシス5体の輪郭が暈け、トニトルスは目を疑った。
その直後に乾いた爆音が周囲に響き渡る。
5体全てのミメーシスが、残像を残す程の速度で"何か"を振るったのだ。
それが音速を超えた所為で衝撃波が発生し、爆音が鳴り響いたのである。
また同時に発生した物が有った。
音速を超えた切先が放つ一閃…烈風だ。
これは武の奥義であり、超絶者の域に達した者しか体得し得ない。
それを5つも至近で打つけられれば、例え古龍級でも一溜りも無い。
その証拠にトニトルスは、巨大を仰け反らせて後方に吹き飛んだのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




