政略結婚(23)
今週は2話更新になります。
次回「政略結婚」は24年10月11日の午前中に更新予定です。
十分に休息を取った後、クシフォスら討伐隊は古龍の龍の巣へ向かった。
本来なら見つけようと思っても、そう簡単には見つからない龍の巣。
ここへ容易に向かえたのは、ひとえにクシフォスの傭兵活動の賜物だった。
そもそも父親と同等以上の名声を得る為に傭兵活動をしていたクシフォス。
その計画の内訳にはトニトルス討伐も含まれており、活動を通じて龍の巣の情報収集も含めていた。
「まさか、こんなに早く役立つ時が来るとはな…」
クシフォスは暗くジメジメした横穴を進みながら、少し自嘲気味に呟く。
「何か言いましたか?」
隣を歩く妻が訊いた。
「いや…何が人生の役に立つか分からないと思ってな」
「そうですね…一寸先の人生は全く分かりませんが、何かに色々と備えて損は無いと言う事でしょう」
そのテユーミアの返しは、人間の行為に無意味さは無い…そう言っているようにクシフォスは聞こえた。
「なら、ここから生きて帰えらねぇとな!」
「はい! 勿論、トニトルス討伐を成功させてです!」
と元気に宣言するテユーミアだが、その後ろを追随する騎士達は対照的に完全な無表情だ。
彼らは守り人一族の精鋭で、魔法騎士と呼ばれる存在だ。
また、その実力が相当なものなのは、傍にいるクシフォスが十二分に感じていた。
しかしながら秘匿戦力の所為か、クシフォスに対して最低必要限の会話しかしてくれない。
つまり全く愛想が無いのである。
『やれやれ…テユーミアが居なかったら気が滅入っていたな』
片やクシフォスの後ろを歩くエスティーギアは、騎士達と打って変わって賑やかだ。
彼女はテユーミアの実姉だが、その社交性?の強さは妹の倍は有るだろう。
正に人間的交流の寒暖差であり、クシフォスとしては気持ちが風邪を引きそうなくらいだった。
「ねぇ、雷龍の寝ぐらはまだなのかな?」
皆が黙々と横穴を歩く中、今日10回目を超える同じ質問をエスティーギアがした。
「はぁ……まだ掛かると思うぞ。ギルドから仕入れた情報だと5km程度は有るらしいからな」
面倒臭そうに返すクシフォスも、どれだけ歩いたか既に分からない状態だ。
「ギルドか…それは傭兵時代の伝手かしら?」
「時代って…まだ俺は19だぞ。それに傭兵稼業は継続中だ」
「ふ〜ん…否定しないって事は伝手が有るのね。なら盗賊ギルドか、それとも情報専門に扱う裏ギルドかしら?」
「そんな個人情報を言える訳無いだろ。揶揄ってるのか?」
『全く…運動神経は無い癖に、無駄に元気な女だな』
こんなクシフォスとエスティーギアの遣り取りが、この陰湿な横穴に響く。
そうこうしていると斥候役の魔法騎士が戻って来て、険しい表情で告げた。
「500mほど先に巨大な空洞がありました」
「まさか…見つけたのか?」
クシフォスの問いに頷く魔法騎士。
「はい。今は眠っているようでした」
クシフォスは後方を追随する魔法騎士達へ言った。
「ここから慎重に進む。それと可能な限り移動しながら準備を整えるぞ」
魔法騎士達は静かに頷いた。
一方エスティーギアはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「フフッ…やっと試験運用が出来るのね。で、当然に不意打ちするんでしょ?」
「ああ。本音で言えば正面切って戦いたいが、俺1人の問題じゃあねぇからな。トニトルスを倒すつもりで不意打ちする」
「初撃に失敗、若しくは効果が見込めなかった場合は、予定していた作戦通りの配置で動きますね」
とクシフォスへ念を押すテユーミア。
その表情は固く、命を落とすかも知れない緊張感が伝わって来た。
「うむ…だが絶対に無理はするな。勝ち目が無さそうなら即時撤退するからよ」
「はい…ですが、その言葉はクシフォス様にも当て嵌るのですからね」
などと返すテユーミアは、落ち着かなそうにクシフォスの裾を摘んだ。
その仕草が妙に可愛らしく、クシフォスは胸の奥がキュンッとなるのを感じる。
「お、おう」
直後、バシ〜ンっと叩く音がして、少しばかり悶絶するクシフォス。
「ぐうおぇぁ!?」
エスティーギアが尻を思いっ切り蹴飛ばしたのである。
「ちょっ!? 何しやがる!!?」
「いや…ちょっとイラッと来ただけだから気にしないで下さい」
そうエスティーギアは無下に返すと、先んじて歩み告げた。
「何でしたら我々に任せてくれても良いのですよ? 貴方は大事な大公爵家の嫡子なのですから」
今更になって気遣われても気味が悪いと言うものだ。
「何を馬鹿な事を…」
なのでクシフォスは特に真に受ける事なく、ズカズカとエスティーギアを追い越した。
それは恰も尻は自分で拭くと言わんばかりの態度だ。
『本気なんだけどね…』
溜息が漏れそうになるエスティーギア。
自分は未婚であり、特に縁を結んだ者も居ない。
一方、妹のテユーミアは次期大公爵妃なのだ。
この差を鑑みれば、どちらが身を呈するか誰でも判断はつく。
『なら、万が一の時は…』
自分と魔法騎士を総動員してでも、必ず2人を生きて帰さなければ為らない。
そうエスティーギアは心に強く誓い、何食わぬ顔で妹と義弟の後を追うのであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




