政略結婚(22)
次回「政略結婚」は24年10月4日の午前中に更新予定です。
クシフォスは古龍の討伐に、エスティーギアだけで無く守り人一族の協力も得るに至る。
これはクシフォスからでは無く、エスティーギアからの申し出に因るものだ。
初めは申し出を受けるか逡巡したクシフォス。
その理由は、他者を私事に巻き込む後ろめたさが有ったからだ。
しかも相手は秘匿された一族…仮に犠牲が出た場合、それに対する補償を払えるは思えなかったのである。
それでも申し出を受け入れたのは、妻であり守り人一族の姫でもあるテユーミアに背中を押された為だった。
こうしてクシフォス等は1週間の入念な準備期間の後、古龍の龍の巣が在る山岳地帯へと出発した。
因みに事の起因であるエフティーアは病床に伏したままだ。
故に心配させない為にも、トニトルス討伐隊の編成と出立については、クシフォスは一切を知らせなかった。
〜〜山岳地帯に入り4日が経過〜〜
トニトルス討伐隊は中央山脈の最深部に到達していた。
ここは標高が3000mに達すると言われており、人が住むには適しいない未開の地だ。
その所為で全く整備されていない道…いわゆる獣道を進まざるを得ず、討伐隊は疲労の極みにあった。
「はぁ……」
『色々と大事になったな……』
野営を準備しながら溜息が漏れるクシフォス。
周囲には同行してくれた守り人一族の騎士が、せっせと天幕などを設営していた。
その人数は自分達を除き50名にものぼる。
エスティーギア曰く、彼らは一族の中でも選りすぐりの人材らしい。
それは武力や魔法力も然る事乍ら、凡ゆる事態や環境に対応出来るからだそうだ。
またトニトルスの討伐には、彼らは直接参加しないのが前提だ。
基本的には食料などの必需品を運搬する役目を担う。
加えて一族の姫であるエスティーギアと、既に嫁いではいるがテユーミアの世話や護衛が任務に含まれる。
そんな大所帯を見たクシフォスは、当初予定していた分隊を超える人数に溜息が出たのだ。
人数が多ければ、それだけ予測不能の事態が増える。
更には死傷者の数も比例して増え兼ねず、それが気掛かりで為らなかった。
「クシフォス様…殆どの設営は終わったので、後は皆に任せましょう」
何か察したのか、テユーミアがソッと手を取って言った。
「ん…そうだな…」
設営の手を止めたクシフォスは、そのままテユーミアに手を引かれる。
以前の自分なら女の言う事どころか、他人の指図など受けはしなかった。
だが今は違う…寄り添ってくれる伴侶の存在を、とても有り難く感じていた。
そして有り難く思えるからこそ、人は素直になれるのだと実感する。
『フッ…俺は今まで1人で生きて来たと思っていたが…』
その実、沢山の人間に支えられていたのだ。
公爵家での生活や、傭兵として活動していた時も、父親や仲間や使用人…多くの人間に世話になった。
『テユーミアに出会って、それを今更自覚するとはな…』
自分達の天幕に入ると、テユーミアが正面から抱きついてきた。
当然、クシフォスは何事かと慌てる。
「お、おい!? どうした?」
「私や一族を巻き込んだ事に、後ろめたさを感じていませんか?」
「……少しはな。だが此処まで来て悔やんでも仕方無い。後は最善を尽くすだけだよ」
「そう言う割には歯切れが悪く感じます…クシフォス様らしく無いです」
テユーミアに図星を突かれ、クシフォスは苦笑いを浮かべる。
「やれやれ……お前は誤魔化せないな」
夫婦となって一ヶ月も経っていないのに、妻に全てを見透かされた気がした。
それは良く理解されている証拠なのかも知れないが、この有様を見せるのは男として情けなくもある。
「で? 何なのですか?」
テユーミアは抱き着いたまま見上げて尋ねた。
その仕草が可愛らしく、切迫した状況を前に胸がキュンとしてしまうクシフォス。
『おおぅ!! これが夫婦って事なのか?!』
よくよく考えれば恋愛らしい恋愛をした事が無く、そもそも夫婦の有様も分からない。
これは武芸や兵法ばかりに興味を持ち、女気など皆無と言っていい青春を送った弊害と言える。
勿論、大公爵家の嫡男である故に、言い寄って来る女は沢山居た。
それを全て袖にふって来たのは、ひとえにクシフォスの本質を知ろうとせず、身分や外見だけで近付く者ばかりだった為だ。
『う~む……こんな時、どうすれば良いんだ?!』
因って戸惑ってしまうのである。
また同時に先程まで抱いていた思いが、何処かへ吹き飛んでいたのだった。
「ちょっと…クシフォス様、聞いているんですか?」
「え? あ? な、何の話だったか?」
これには流石に呆れてしまうテユーミア。
「えぇぇぇ……?!」
「すまんすまん…え~と……俺らしく無いって事だったか。それだったらもう良いんだ」
「え?」
「こうしてテユーミアが傍に居てくれるだけで、何だか色々と救われた気がしてな。結局は危惧や悩み事は、物の考え様だって思えたんだ。と言うか、本当に俺らしくない…まぁ気にしないでくれ」
「そうですか……なら良いのですけど」
テユーミアは今一釈然としない。
それでも何時もの夫に戻ったのなら、それで良いと思えた。
その後、新婚の2人が抱き着いたままで居ると、自然に夫婦らしい行為に発展すると言うものである。
「様子が変だから見に来てみれば…」
天幕の外で聞き耳を立てて居たエスティーギアは、気不味くなって結局は離れる事となる。
そして思うのだ…魔術の研究ばかりに邁進して来た事が、本当に正しかったのかと。
それは好きな事をして来た満足感と裏腹に、独り身である事への不安と寂しさを自覚したからかも知れない。
『はぁ……私も貰ってくれる良い男が現れないかしら』
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




