政略結婚(21)
次回「政略結婚」は24年9月27日の午前中に更新予定です。
盛大に転倒したエスティーギアを起こし、クシフォスは呆れた様子で言った。
「おいおい…大丈夫か?」
「申し訳無いです、直ぐに片付けますから」
と苦笑いを浮かべて謝罪するエスティーギア。
「いや、茶器が割れちまっただろ…破片に触れて怪我されても困る。俺とテユーミアで片付けるよ」
すると妻のテユーミアは然も大した事の無いように返す。
「クシフォス様、大丈夫ですよ。私達はソファーに座って待っていましょう」
「え? しかしだな…」
「さぁ、座って下さい」
少し戸惑うクシフォスを強引にソファーへ座らせ、テユーミアも隣に腰掛けた。
一方エスティーギアは、床に散乱する茶器を目の前に溜息をつく。
「はぁ……私って鈍臭いんですよね」
などとボヤくと、右手をかざし続けた。
「我命ずる…集まり収縮せよ、ブルガーティオ」
そうすると散らばっていた茶器やお湯が独りでに集まり、小さな瓦礫の小山が出来た。
「……器用に魔法を使うが、何と言うか…微妙に実用性に欠けるな」
それを見たクシフォスは、つい本音が漏れてしまう。
この感想は当然と言えば当然だ。
片付けるなら人が手でやった方が早い上、この魔法では集めただけで何も片付いていないからである。
態とらしく落胆するエスティーギア。
「そうなんですよ…やはり新しく魔法を作るのは難しいですね」
『なっ?! 魔法を作る?!』
驚いたクシフォスは、直ぐにテユーミアへ小声で尋ねる。
「魔法って、そんな簡単に作れるもんなのか?」
「いえ…普通なら無理ですね。現存する魔法は受け継がれた物や、遺物からか解読して再現した物なんです。つまり姉様は…」
「天才って訳か…」
テユーミアは頷いた。
「はい。なので後方からの補助は、十分に期待して大丈夫ですから。それに姉様にも都合が良いと思いますし」
「都合が良い? どう言う意味だ?」
透かさずエスティーギアが突っ込んで来た。
「テユーミア! 聞こえてるわよ!」
「はは…は…まだ何も話してませんよ?」
苦笑するテユーミアを庇うように、クシフォスが割って入る。
「エスティーギア殿…俺に協力してくれるなら隠し事は無しだ。どうせ俺や状況を利用するつもりなんだろ? 事が円滑に進むよう、互いに腹を割って話そうや」
「フフッ…噂とは当てになりませんね。中々どうして目ざといじゃないですか」
「誤魔化して煙に巻くつもりか?」
鋭い眼光で問われ、エスティーギアは両手を小さく振った。
「いえいえ! ちゃんと話しますから怖い顔をしないで下さい」
クシフォスは頭を掻くと、面倒臭そうに溜息をついた。
「はぁ……別に脅すつもりは無い。兎に角、そっちの要件を聞かせてくれ。裏で好き勝手されても困るしな」
これにエスティーギアの雰囲気が変わる。
先程までが鈍臭い学者だとすれば、今は権謀に長けた軍師と言った処だろうか。
「分かりました。では率直に申しますと、軍事機密である兵器の実験をしたいのです」
「ほほぅ…兵器か、面白い。で、それを古龍に試そうって訳だな」
「はい。並の相手では力不足なので…」
怪訝そうにクシフォスは目を細めた。
エスティーギアの言う兵器が、相当に危険な代物だと理解出来たのだ。
「そんな物、何の為に開発した? 何か悪巧みするんじゃねぇだろうな?」
「滅相も無い。我ら守り人一族は、人類を守る為に存在するのですから」
エスティーギアの言葉は聞こえが良いが、口では何とでも言える。
そう思ったクシフォスは、妻となったテユーミアへ視線を向けた。
対してテユーミアは笑顔で答える。
「心配有りません。そもそも"その兵器"は対人用では無いのです。それに問題なく起動するかも怪しいですし」
「失礼な! ちゃんと動くわよ! 後は出力の調整と精度の確認だけなの」
「へぇ〜〜いつの間に…ちゃんと姉様も仕事をしていたんですね」
「もぅっ! ほんと失礼な妹ね!」
「クククッ…」
姉妹の遣り取りを見ていたクシフォスは、2人が全く似ておらず笑みが漏れた。
「クシフォス様…何ですか?」
「何だか嫌味な笑いね…」
2人にジッと睨まれ慌てて謝るクシフォス。
「いや、すまんすまん…見た目は似ていても、中身は全然違うから面白くてな」
性格が全く違うとは言え、2人とも相当な眼力と威圧感である。
「二卵性双生児でも性格は違うんですよ…歳の離れた姉妹なら尚更でしょう」
そんな突っ込みをテユーミアにされながらも、クシフォスは本題からは逸れない。
「ハハハッ、そうだな。それで…その秘密兵器の運用試験をしたいんだな?」
「はい、仰る通りです。当然ですが…分かってますよね?」
エスティーギアの眼光が先程にも増して鋭くなった。
「おうっ! 分かってるよ。その兵器を見る事になるが、一切の他言が無用なんだろ?」
「フフッ…理解して頂いているなら結構です。これで私も十二分に協力出来ると言うものですよ」
かくしてテユーミアの仲介の元、守り人一族とレクスデクシア家との"非公式"な盟約が結ばれる事となった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




