表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章III・政略結婚(短編集)
1400/1769

政略結婚(16)

「……」

エフティーアは困惑していた。

土足で住処を荒らした自分を、目の前の強大な古龍トニトルスが直ぐに殺さなかったからだ。



「どうした? 我の問いが聞こえなかったのか?」

不思議そうにトニトルスは首を傾げた。

先程まで死闘を繰り広げた相手とは、とても思えない。



「き、聞こえている」



「ならば、もう一度問おう。人間よ、我に戦いを挑み後悔しているのか?」



『フッ…面白い』

どのみち死ぬのなら、冥土の土産に古龍との会話を持って行くのも悪く無い。

諦めた所為か、エフティーアは心が軽くなるのを自覚した。

「あぁ……後悔先に立たずとは、正にこの事だ」



「ほほぅ…では生かしてやると言えば如何する?」



「…?!」

まさかの提案にエフティーアは唖然とする。



「フフッ…長く生き過ぎると、何もかもが惰性となる。故にな、お前のような向こう見ずは、ある意味で良い刺激になるのだ」


つまり良い暇潰しになったと言う訳だ。

そして住処を荒らした罪を、それで帳消しにするもりなのだろう。



人間にも色々な為人が有るように、龍にも気得な奴が存在する…そうエフティーアは思う事にした。

「そうか……住処を荒らして済まなかった。その申し出、有り難く受け取ろう」



するとトニトルスは再び首を傾げた。

「ん? 住処を荒らした罪を許してはおらんぞ。我が許したのは、矮小な存在で在りながら、無礼にも我に戦いを挑んだ事だ」



「なっ!?」

"してやられた"…そうエフティーアは確信する。


元からトニトルスは2つの罪を問うつもりだったのだ。

そうして1つは許し、もう1つは自分に"何かをさせて"償わせる…そう端から企んでいたに違い無い。



「フハハッ! どうやら気付いたようだな。人間にしては聡いではないか」



「私に何をさせるつもりだ? それが外道の所業ならば、今すぐに舌を噛み切って死んでやろう」



慌てるトニトルス。

「待て待て!! 人の世の倫理に外れる事は要求せぬ」



「……そうか。では伺おう」



1000年を生きた自分が気圧された…この状況にトニトルスの胸中を愉悦が満たした。

『何と小気味良い事か。これが人で言う一廉の存在なのだろうな』

「うむ…近い将来、我は寿命を迎えて暴走する。その始末をつけて欲しいのだ」



エフティーアは怪訝そうに眉をひそめた。

「寿命なのに暴走? 矛盾しているのではないか?」


一般的に寿命とは、加齢で体の機能に限界が生じ、最終的に生命活動を停止する事を指す。

そんな限界の肉体で"暴走"を起こせる訳も無い。



『この人間…この状況で中々に目ざといな。迂闊に嘘はつけぬか』

「待て待て! まだ話の途中だ」

そう告げたトニトルスは、小さく溜息をついてから続けた。

「ふぅ……我が言っている寿命とは"精神"の事だ」



「精神……そうか、成程な…」



思わせ振りな呟きをするエフティーアに、トニトルスは興味が惹かれた。

「ん〜〜? 我ら龍族について何か知っておるのか?」



「ああ…一説で古龍級以上の存在は、理論上で不老ではないかと言われているのだ。だが文献に記される伝説の古龍は現存していない。つまり精神の暴走が原因で死に至ったのでは?」



龍の巣(ドラゴンニードゥス)内に、衝撃波を伴った笑いが響き渡った。



「…っ! 鼓膜が破れるところたったぞ」

咄嗟に両耳を手で塞いだエフティーアは、嫌そうにボヤく。



「クククッ…ククッ……すまんすまん。少ない情報からの洞察、見事であったぞ。お前が言うように古龍は精神…厳密には脳の寿命を迎えて暴走し、周囲や己を破壊し尽くして滅びるのだ」



「……」

露骨に嫌そうな顔をするエフティーア。



「何だ? 言いたい事が有ればハッキリ言うが良い」



「私は南方で最強と呼ばれる武人を集め挑んだのだ。なのに私以外は簡単に薙ぎ倒されてしまった…この意味が分かるかね?」



「ふむ…要するに今勝てぬ存在が、後になって勝てる筈も無いと?」



エフティーアは頷く。

「ああ…私には無理だ。始末をつけて欲しいのなら、それこそ国家に要請し軍を出すしか有るまい?」



トニトルスの巨大な前足が地面を叩き、凄まじい地響きと揺れが起こった。

「仮に我を始末出来たとしても、数多くの人命が損なわれる…それでは駄目だ!」



「…!」

目を見張るエフティーア。

自然界の頂点に君臨する古龍が、矮小な人間の命を気に掛けたのだ…驚かない筈が無い。



トニトルスは広大な龍の巣(ドラゴンニードゥス)を見回しながら言った。

「何故、このような辺境の山奥に、古龍は住処を構えるのだと思う?」



「…? それは人間に干渉されたくないからだろう?」



「それも有る…だが根本的な理由は違うのだ。ここは住処であり、また墓所なのだよ」



「墓所? ……!」

この巨大な龍の巣を見渡し、漸くエフティーアは理解する。


この龍の巣(ドラゴンニードゥス)は、険しい山岳地帯の内部に築かれた大空洞だ。

その内壁は鉄を思わせる程に押し固められ、人の力では傷付ける事さえ叶わなく見えた。

そう…ここは古龍の戦いに耐えうる舞台であり、墓なのだった。



「我は無用に命を奪いたくは無い…だからこそ龍の巣(ドラゴンニードゥス)を築き、我を屠る者を待つのだ」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ