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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第四章:魔術師学園
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138話・弟は敵役(1)

プリームスに煽られて自身の感情を制御出来なくなったアロガンシアは、平手を振り上げた。

勿論それはプリームスの頬を平手打ちする為である。

だがプリームスからすれば、余りにも緩慢な動作で避けるのも億劫なくらいであった。



『避けなかったら魔法障壁が発動するしな。それはそれで説明が面倒になるから避けるか・・・』

と思いつつプリームスが平手打ちを躱そうとした時、目の前に何者かが割り込んできた。



その者はアロガンシアの振り上げた腕を掴み、動きを封じてしまった。

素早く見事な動きでプリームスは少し感心する。

「女の子を打とうなんて、男のする事ではないわよ」


そう言ってプリームスを庇ったのはイディオトロピアであった。

何とも男前な台詞で、その振舞いも王子様のようだ。

『馬鹿王子のアロガンシアとは大違いだな』

プリームスは内心でほくそ笑む。



「くっ、離せ!」

イディオトロピアの掴み方が上手いのか、または力が強いのか、アロガンシアは掴まれた腕を振り払えないようだ。



「ちょっと図星を指されたからって、頭に血が上って暴力を振るうのは子供のする事よ。私達はね、ちゃんと理事長の許可を得てここに居るの。それを確かめもしないで勝手横暴するなんて、それでも貴方は王族なの?」

中々に説得力があるイディオトロピアの言い様である。


自分が煽った言葉の内容とは雲泥の差があるな・・・とプリームスは自嘲を禁じ得ない。



自分の振る舞いが王族に有るまじき物だと認識したのか、アロガンシアは意気消沈してしまった。

それを確認しイディオトロピアは手の力を緩め、アロガンシアを開放する。



『王族として甘やかされたのか、それとも王族は何でも許されると勘違いしているのか・・・。どちらにしろ頼る権威を自ら汚した事に項垂れるとは、まぁ良い薬だな』

プリームスがそう思いアロガンシアを見やると、まだ完全には懲りていないようであった。



アロガンシアは居住まいを正すと、プリームスやバリエンテ達を見渡す。

「同じ生徒と言うのに、傲慢な態度を取った事は詫びよう。すまなかった・・・だが君達が演習場を使用するのは納得がいかぬ」



根っからの馬鹿と言う訳では無いらしい。

しかし柔軟に考えられない頑固な所は、やはりアロガンシアは子供ぽいと言えた。

世の中どれだけ納得がいかなくても、我慢をして折り合いをつけなければならない時が必ずあるのだから。



イディオトロピアは溜息をつくとバリエンテへ告げた。

「バリエンテ! 認証書と許可証を見せてやって」



バリエンテは慌てて自身の懐を探りだす。

「あ、あぁ・・・分かった」



プリームスは笑みが漏れるのを堪えた。

アロガンシアにしてもバリエンテにしても、イディオトロピアに形無しだからだ。

こう言った時は、女の方が肝が据わっていて頼りになるものだ。



早朝にアグノスから手渡された団体結成認証書と、演習場の使用許可証を何とか懐から取り出すバリエンテ。

そしてアロガンシアの目の前にそれを差し出した。



アロガンシアは、その二枚の証書を見つめて驚愕する。

「た、確かに母上・・・いや理事長の印がある。そんな馬鹿な・・・」



更にプリームスも顧問委託委任書をアロガンシアへ見せつけた。

「これも本物・・・」

と驚き呆然とするアロガンシア。


だが直ぐに我に返ると、

「理事長はお忙しい身だ、故に正確に君達の実力を確認していなかったのだろう。でなければ下級学部の問題生徒が、前例の無い学部外活動など認められる訳が無い!」

などと目の前にある事実を認めようとしない。



『頑固だ・・・それに現実を自分の都合のいい様に受け止める傾向がある。これは完全に叩き潰してやらんと、この子が不幸になるな』

全くの赤の他人なら捨て置いたが、身内となったアグノスの弟なのである。

流石のプリームスでも、アロガンシアの将来を考えると無下には出来なかった。



呆れた様子を見せてプリームスはアロガンシアへ言い放つ。

「だから何だ? お前はこの学園の長が決めた事をも否定する権限が有るのか? そんな訳が無かろう、お前は馬鹿か?」



ここまで言うと只の口喧嘩のようである。

そもそも喧嘩というのは同じ程度の者同士で起こる為、傍から見ると少し恥ずかしい状況かもれない。

しかしプリームスは恥ずかしいのを我慢して、更に罵声のように続けた。


「私達は正式な許可の元にここで活動している。納得がいかないなら理事長に掛け合ってこい。それが気に食わぬなら、試してみるか? 実力を」



先程まで強気だったイディオトロピアでも、今のプリームスの煽りはやりすぎと感じたらしく顔色が変わってしまった。


静かに事の成り行きを見守っていたノイーギアとバリエンテも、既に顔色が真っ青である。



するとアロガンシアは、プリームスに煽られた怒りを抑えつつ、

「そこまで言うなら僕が試してやる、君たちの実力を! 先ずは、顧問を請け負った君からだ・・・プリームスとやら、僕と立ち合え!」

とプリームスを指して啖呵を切ってしまった。



だがプリームスは素知らぬ顔で告げる。

「お前は馬鹿か? 私は顧問だぞ。実力を見せたら私の魔法技術が漏洩するだろ! 普通の魔術師なら他人にそう易々と技を見せたりせんわっ」



「ぬぐぐ・・・」

とアロガンシアは言い返せずに怯んでしまう。


一方、傍で見ていたイディオトロピアは、この期に及んで屁理屈をこねるプリームスに唖然とする。

『ここまで煽っておいて受けて立たないって、どうするつもりなの?』



プリームスの言い様は、魔術の世界で言う常識では正論である。

しかし今のこの諍いで人としての普通の感覚なら、実力を試す為に立ち合えと言われれば受けるものだ。



そしてプリームスはバリエンテ達に手をかざした。

「お前の相手は彼らがする。せいぜい情けない負け方をせぬ様に、頑張る事だ」



一斉に嫌そうな顔をするバリエンテ、イディオトロピア、ノイーギアの3人であった。


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