政略結婚(7)
完全に隙だらけになった巨躯へ、テユーミアの蹴りが直撃した。
『…ん?』
その直後、テユーミアは違和感を覚える。
時間にして凡そ20分の1秒…高速化した思考が感じた物は紛れもない危険だった。
刹那、視界に青空が飛び込み、自分が吹き飛ばされたと知る。
「なっ?!!」
「うははっ! やるな! 俺にこの技を使わせるなんてなぁ」
蹴りを食らった筈のクシフォスは、全く微動だにせず仁王立ちだ。
「くっ…」
片や危なげなく着地したテユーミアだが、吹き飛ばされた距離は10mに達していた。
『まさか…体動衝撃か?!』
体動衝撃——高みに至った武人…それも気功を熟知し使い熟す者の技だ。
この技の特異な点は四肢を使わず、体表面から発する気の波動で、防御または攻撃が可能な事である。
しかもクシフォスのように相手を10mも吹き飛ばすのは、全くもって尋常では無い。
だが解せない。
体動衝撃で蹴りを跳ね返された時、気では無く"魔力"を感じたのだ。
『どう言う事?』
「次は俺からも攻撃させて貰うか。受けてばっかりは飽きるからなぁ」
などと言い鷹揚に一歩踏み出すクシフォス。
「そ、そうですか…」
テユーミアは迫る巨躯を見据え、如何様にも対処出来る猫足立になった。
『フフッ…こんな脅威、魔神相手でも感じなかったわ』
武人にとって強者と戦えるのは、この上無い喜びだ。
それはテユーミアにも該当し、恐らくクシフォスも同じだろう。
そして、いつの間にか勝ち負けなど、どうでも良くなっていた。
互いの距離が3mを切った時、クシフォスが態とらしく左腕をグルグル回し始める。
左で攻撃すると示唆しているのだ。
『私も甘く見られたものね…』
自嘲するテユーミア。
多分、自分が守り人一族の要人なのが原因か?
或いは女だから?
見透かした風にクシフォスが言った。
「相手が互角以下なら、いつもこんな感じだ。それが嫌なら本気を出させてみろ」
「成程…分かりました」
テユーミアは自分が自惚れていたと気付く。
正に絶対的な強者ゆえに、そうクシフォスは振る舞うのだ。
つまり初めから男女など関係無かった…有るのは強いか弱いかのみ。
『なら認めさせてやる!』
手加減が出来ない程に追い詰める。
そして守り人一族の威と、己の誇りを示す。
鷹揚な振る舞いからの突きがテユーミア目掛けて放たれた。
ダンッ!!
テユーミアの震脚が地面を揺らし、直後に重く乾いた音がした。
「おおっ?!!」
クシフォスは目を見張る。
此方が放った拳に、右の拳を合わせて来たのだった。
その威力は互角…否…僅かに押され、クシフォスの左半身が後方へ反っていた。
「ハハハッ!! 凄いじゃねぇか! そんな力…何処から出してるんだ?」
身長は普通の女性より僅かに高い程で、どちらかと言えば体格も細め。
そんな人間の出せる力では無い。
「うぉっ!!」
凄まじい衝撃を左足に受け、思わず声が出るクシフォス。
『ちょっ!? 質問の最中に…』
突きに連動したテユーミアの足払いは、更に重く流石のクシフォスも立って居られなくなる。
『や、やばい!』
片膝を付いたクシフォスの顔面へ、無慈悲な回転蹴りが襲う。
それは足払いの慣性を利用した連撃…そう、突きに因る初段からの3連撃だったのだ。
これを咄嗟に左腕で受けるクシフォス。
「あぶねっ!!」
だが、これでは終わらなかった。
同じ方向から蹴りが"更に連続"で飛んで来て、クシフォスは防戦一方に陥る。
「ぐおっ!? な、何だ!?」
何とテユーミアは逆立ちになり、体を独楽の如く回転させて連続蹴りを放っていたのだ。
『嘘だろ…身軽すぎだぞ』
しかも蹴り1発1発が重すぎて、片膝を付いた状態では反撃など不可能に思える。
ならクシフォスに残された選択肢は?
『くそ…仕方ないか』
相手の息切れを待つのでは無く、"わざと食らう"だ。
「ん…!?」
妙な手応え…もとい足応えに違和感を覚えるテユーミア。
その時には既に遅かった。
テユーミアの回転蹴りを受けて、クシフォスは派手に横へ吹っ飛んでいたのである。
『しまった! これじゃぁ…』
テユーミアは逃げられると悟った。
追撃しようにも、自分は逆立ちで回転蹴りを放っている最中だ。
しかも受けられる事を想定して、尋常では無い威力を込めていた。
そんな後先考えない力技が、直ぐに止められる訳が無い。
そして受け止める相手を無くせば、その威力と速度は過剰。
あっと言う間に均衡を崩し、錐揉み状態で他所に吹っ飛んでしまう。
こうして2人は道では無く、自然に生えた菜の花畑に倒れ込む羽目に。
そのお陰か菜の花が緩衝材になり、大した怪我もせずに済む。
「ふぅ〜〜凄い技だな…逆立ちで回転蹴りの連発とは、」
半ば呆れた様子でクシフォスは立ち上がった。
一方、テユーミアは何故か苦笑いを浮かべる。
「……」
「どうした…?」
「いえ…何でも有りません」
否定するテユーミアだが妙に様子が変だ。
武を追求し身体操作を熟知したクシフォス。
そんな彼が他者の体の異変に気付かない筈も無い。
「おいおい…何処か痛めただろ」
「ハハ…ハ…やはりクシフォス様には隠せませんね。実は右足首を捻ってしまったようで…」
またもや見透かされテユーミアは自嘲する。
『はぁ…良い感じだったのに、これでは台無しね』
これから良い勝負が出来そうだったのに、きっとクシフォスは興醒めするだろう。
何より自分の負傷で模擬戦が続行出来そうに無く、申し訳なく思えた。
ズカズカと歩み寄って来るクシフォス。
「えっ? えっ? な、何ですか?!」
まさかの"止め"?!かとテユーミアは慌てた。
しかしこの後、突拍子も無い事態に唖然とするのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




