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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
刹那の章III・政略結婚(短編集)
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政略結婚(7)

完全に隙だらけになった巨躯へ、テユーミアの蹴りが直撃した。


『…ん?』

その直後、テユーミアは違和感を覚える。

時間にして凡そ20分の1秒…高速化した思考が感じた物は紛れもない危険だった。


刹那、視界に青空が飛び込み、自分が吹き飛ばされたと知る。

「なっ?!!」



「うははっ! やるな! 俺にこの技を使わせるなんてなぁ」

蹴りを食らった筈のクシフォスは、全く微動だにせず仁王立ちだ。



「くっ…」

片や危なげなく着地したテユーミアだが、吹き飛ばされた距離は10mに達していた。

『まさか…体動衝撃か?!』


体動衝撃——高みに至った武人…それも気功を熟知し使い熟す者の技だ。

この技の特異な点は四肢を使わず、体表面から発する気の波動で、防御または攻撃が可能な事である。

しかもクシフォスのように相手を10mも吹き飛ばすのは、全くもって尋常では無い。


だが解せない。

体動衝撃で蹴りを跳ね返された時、気では無く"魔力"を感じたのだ。

『どう言う事?』



「次は俺からも攻撃させて貰うか。受けてばっかりは飽きるからなぁ」

などと言い鷹揚に一歩踏み出すクシフォス。



「そ、そうですか…」

テユーミアは迫る巨躯を見据え、如何様にも対処出来る猫足立になった。

『フフッ…こんな脅威、魔神相手でも感じなかったわ』


武人にとって強者と戦えるのは、この上無い喜びだ。

それはテユーミアにも該当し、恐らくクシフォスも同じだろう。

そして、いつの間にか勝ち負けなど、どうでも良くなっていた。



互いの距離が3mを切った時、クシフォスが態とらしく左腕をグルグル回し始める。

左で攻撃すると示唆しているのだ。



『私も甘く見られたものね…』

自嘲するテユーミア。

多分、自分が守り人一族の要人なのが原因か?

或いは女だから?



見透かした風にクシフォスが言った。

「相手が互角以下なら、いつもこんな感じだ。それが嫌なら本気を出させてみろ」



「成程…分かりました」

テユーミアは自分が自惚れていたと気付く。


正に絶対的な強者ゆえに、そうクシフォスは振る舞うのだ。

つまり初めから男女など関係無かった…有るのは強いか弱いかのみ。


『なら認めさせてやる!』

手加減が出来ない程に追い詰める。

そして守り人一族の威と、己の誇りを示す。



鷹揚な振る舞いからの突きがテユーミア目掛けて放たれた。



ダンッ!!

テユーミアの震脚が地面を揺らし、直後に重く乾いた音がした。



「おおっ?!!」

クシフォスは目を見張る。


此方が放った拳に、右の拳を合わせて来たのだった。

その威力は互角…否…僅かに押され、クシフォスの左半身が後方へ反っていた。


「ハハハッ!! 凄いじゃねぇか! そんな力…何処から出してるんだ?」

身長は普通の女性より僅かに高い程で、どちらかと言えば体格も細め。

そんな人間の出せる力では無い。



「うぉっ!!」

凄まじい衝撃を左足に受け、思わず声が出るクシフォス。

『ちょっ!? 質問の最中に…』


突きに連動したテユーミアの足払いは、更に重く流石のクシフォスも立って居られなくなる。

『や、やばい!』



片膝を付いたクシフォスの顔面へ、無慈悲な回転蹴りが襲う。

それは足払いの慣性を利用した連撃…そう、突きに因る初段からの3連撃だったのだ。



これを咄嗟に左腕で受けるクシフォス。

「あぶねっ!!」



だが、これでは終わらなかった。

同じ方向から蹴りが"更に連続"で飛んで来て、クシフォスは防戦一方に陥る。

「ぐおっ!? な、何だ!?」



何とテユーミアは逆立ちになり、体を独楽の如く回転させて連続蹴りを放っていたのだ。



『嘘だろ…身軽すぎだぞ』

しかも蹴り1発1発が重すぎて、片膝を付いた状態では反撃など不可能に思える。


ならクシフォスに残された選択肢は?

『くそ…仕方ないか』

相手の息切れを待つのでは無く、"わざと食らう"だ。



「ん…!?」

妙な手応え…もとい足応えに違和感を覚えるテユーミア。


その時には既に遅かった。

テユーミアの回転蹴りを受けて、クシフォスは派手に横へ吹っ飛んでいたのである。


『しまった! これじゃぁ…』

テユーミアは逃げられると悟った。


追撃しようにも、自分は逆立ちで回転蹴りを放っている最中だ。

しかも受けられる事を想定して、尋常では無い威力を込めていた。

そんな後先考えない力技が、直ぐに止められる訳が無い。


そして受け止める相手を無くせば、その威力と速度は過剰。

あっと言う間に均衡を崩し、錐揉きりもみ状態で他所に吹っ飛んでしまう。



こうして2人は道では無く、自然に生えた菜の花畑に倒れ込む羽目に。

そのお陰か菜の花が緩衝材になり、大した怪我もせずに済む。



「ふぅ〜〜凄い技だな…逆立ちで回転蹴りの連発とは、」

半ば呆れた様子でクシフォスは立ち上がった。



一方、テユーミアは何故か苦笑いを浮かべる。

「……」



「どうした…?」



「いえ…何でも有りません」

否定するテユーミアだが妙に様子が変だ。



武を追求し身体操作を熟知したクシフォス。

そんな彼が他者の体の異変に気付かない筈も無い。

「おいおい…何処か痛めただろ」



「ハハ…ハ…やはりクシフォス様には隠せませんね。実は右足首を捻ってしまったようで…」

またもや見透かされテユーミアは自嘲する。


『はぁ…良い感じだったのに、これでは台無しね』

これから良い勝負が出来そうだったのに、きっとクシフォスは興醒めするだろう。

何より自分の負傷で模擬戦が続行出来そうに無く、申し訳なく思えた。



ズカズカと歩み寄って来るクシフォス。



「えっ? えっ? な、何ですか?!」

まさかの"止め"?!かとテユーミアは慌てた。


しかしこの後、突拍子も無い事態に唖然とするのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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