政略結婚(3)
刹那の章III・政略結婚は週一の割り込みで更新していきます。
宜しくお願いします。
「俺を言葉巧みに丸め込むつもりか?」
突然クシフォスに詰め寄られ、テユーミアは唖然とした。
「え……」
「テユーミア姫…あんたと俺は出会ったばかりだ。簡単に御し得ると思うなよ」
『そんな…ここまで気難しいだなんて…』
思わぬクシフォスの言動に、テユーミアは自分が失敗したと悟る。
そう、安易に接触し過ぎたのだ。
もっと慎重に相手を観察し、何を望んでいるか最適解を見つけなければ為らなかった。
『なのに私は…』
男など簡単に御せると思い上がっていた。
完全に萎縮してしまったテユーミアを見て、溜息をつくクシフォス。
「はぁぁ……取り敢えず親父の顔を立てねばならん。密約の件は知ったこちゃ無いが、この庭を散歩している間ぐらいはテユーミア姫に合わせてやる」
「あ…有難う御座います」
テユーミアは反射的に礼を言ってしまう。
2人は謂わゆる許嫁に近い関係ではあるが、確約された物では無い。
だからこそテユーミアからすれば是が非でも結婚まで成し遂げたい…それが自分に課せられた使命なのだから。
『まるで弱みを握られたような気分ね…』
事前情報でクシフォスは、自由気ままで鷹揚、そして武を極めんと邁進する生粋の武人だ。
そんな存在が密約に因る結婚など、素直に受け入れる筈が無かった。
つまりクシフォスが嫌だと言って行方を晦ませば、テユーミアは成す術が無いのだ。
「何か"やってる"だろ?」
前振り無く話を振ってくるクシフォス。
「え? やってる?」
何が何やらテユーミアは分からない。
「武芸だよ。何かやってるんだろ? 歩法や姿勢が普通の女とは違う」
ここまで言われて漸く察するテユーミア。
「あ……そ、そうですね。無手に因る戦闘が得意です」
『えぇぇ?! 私のそんな所を見てたの!?』
正直、女として見られて居ないように思えて衝撃だ。
「独学か? 師匠でも居るのか?」
「いえ、師匠は居ます」
「ほぅ…無手の師匠か。そんな奴、ここいらに居たか?」
クシフォスは興味深そうに首を傾げた。
それを見たテユーミアは閃く。
『こ、これよ! これを利用しなきゃ!』
婦女子に興味を持たない相手へ、女を前面に出して挑むのは愚策だ。
なら相手の興味を惹ける物で、何とか婚姻に持ち込むしかし無い。
只、心配事が1つ有った。
『まさかとは思うけど、男色じゃ無いわよね…』
万が一、そうなら最早手の打ちようが無い。
「あのぅ…クシフォス様は男が好きとかでは無いですよね?」
突拍子も無い質問にクシフォスは唖然とし、直ぐに大笑いした。
「ぶはは! そんな訳無いだろ…こう見えても別嬪好きだ」
「そうですか…」
テユーミアはホッと胸を撫で下ろす。
ここまで来て相手が男色では目も当てられない。
「で、師匠は誰なんだ?」
「申し訳有りませんか最重要秘匿事項ですので…お答え出来ません」
「ほほう…残念だな」
ピンと来たクシフォス。
恐らく守り人一族の"戦力"なのだろう、そう易々と外部に教えられないのも納得がいく。
ならば"弟子"の腕前で、師匠の力量を計る事も可能だ。
『親父くらい強ければ面白いんだがなぁ』
「そんなに私の師が気になりますか?」
「ん? あぁ…そうだな。だが別に無理してまで知りたい訳じゃあ無い。テユーミア姫の実力を試せれば俺は満足だ」
「それって…」
「俺と模擬戦をしてみないか? 勿論、そっちに合わせて俺も無手でやるぞ」
「……」
半ば唖然とするテユーミア。
婚姻を進める為の顔合わせだと言うのに、これでは武術の懇親会である…色気も何も有ったものでは無い。
『でも…それで私に一目置かせれば、』
或いは気に入って貰える可能性も出てくるだろう。
「分かりました、模擬戦をしましょう。でも直ぐにとは行きません。今はドレス姿ですし、日を改めませんか?」
「おう、では明日の今と同じ時間にしよう。俺が出向くか、それとも?」
「私が此方へ伺います。それで…1つ宜しいですか?」
少し居住まいを正したテユーミアに、少し嫌な予感がするクシフォス。
「んん? な、なんだ?」
「私はクシフォス様に合わせて模擬戦を致します。これには私に利する点が何も無いのですが、ご褒美を頂きませんと…」
『ご、ご褒美?!』
どうしたものかとクシフォスは戸惑う。
確かに此方の要求ばかり通しては、文句を言われても仕方が無い。
そもそも地位や身分、それに男や女など関係なしに人は対等であるべきだとクシフォスは考えていた。
仮に上下の関係が発生するならば、それは同じ組織体に属して居る場合だろう。
それでも本当に対等な遣り取りとは、中々に実現しない。
器量や生まれ持った気質や格、それらが難しくしてしまうからだ。
故に思う。
このテユーミアと名乗る女は、ひょっとすれば自分と対等に渡り合えるのではと。
『面白い!』
「良いだろう…模擬戦で俺に勝てたら、何か1つ言う事を聞いてやる」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




