1319話・永劫と武國の秘密会合(3)
秘密会合の最中、居合わせた面々は少しばかり騒然とする。
ジズオがプリームスに対して、公私混同を指摘するような発言をした為だ。
ジズオは武國三長官の1人だが、それ以上でも、それ以下でも無い。
片やプリームスは永劫の王国の聖女王だ。
社会的地位や人としての格も劣るジズオが、そもそも他国の王を指摘し貶めて良い訳が無かった。
これにプリームスは怒りを露わにする事なく、静かに答えた。
「ジズオ大人が言うように、魔神王の核を消滅させないのは私がギンレイを失いたく無いからよ。これは完全に私の私情だわ…」
「そのようにハッキリ仰っても宜しいので? 王が私情を優先して、人類の危機に成り得る禍根を作り出すのは正しい事では有りません。これを列国が知れば、聖女陛下への批判や追求は免れないですよ」
ジズオの言葉は正論であり、王としての"建前"…つまり権威を重要視する者には、耐え難い憂いとなる。
しかしプリームスは違った。
「そうね…普通の王なら決して選択しない事だわ。でもね、そんな事…私はどうでも良いの。周りがグダグダ言うなら、そのまま言わせて放置するだけよ」
「……」
呆気に取られるジズオ。
聖女王が信義に厚く、また倫理的な為人なのは間違いない。
だが利己的であり非常に人間的でもある…故に矛盾する存在だとも思えた。
『いや…なまじ超常過ぎる存在だから、欲望と倫理の狭間で揺れ動くのか?』
事実、永劫の王国は並の国家では返り討ち合う程の強国だ。
下手をすれば列国が連合を組んでも、恐らくは太刀打ち出来ないかも知れない。
そんな強国の王なのだ…他者や他国に何を憚る理由が有るだろうか?
『無い……』
それでも配慮して自分から許可を得ようとは、何とも矛盾していて滑稽に感じた。
それでも、それこそが聖女王プリームスなのだろう。
「成程…では伺いますが、私に配慮する本当の意図を教えて頂けませんか?」
「そうねぇ…ジズオ大人はデン陛下を慕っていたのではと思ったの。だから私の気持ちも汲んでくれるかな〜ってね、」
まさかの返答にジズオは笑いが漏れてしまう。
「ハハハ……聖女陛下は正直過ぎます。そうで無ければ稀代の詐欺師ですね」
「嘘付きに見える?」
「いえ…失礼しました」
『フフッ…きっと本心でしょうね』
ここまで腹を割って話すのは、自分と聖女王が似たような境遇だからだと察した。
自分がデンを愛していたように、聖女王もギンレイを本当に愛していたのだ。
「本当はデン陛下の魔神核も回収したかったのだけど…」
「魔神王がギンレイさんに乗り換えた際、肉体諸共に消失したのでしょうね…」
「うん…可能な限り手を尽くしたけと…ごめんね」
聖女王の不手際でも無いのに、わざわざ謝罪を口にした。
これは同情では無く共感したから…そう思うとジズオは胸が熱くなった。
「いえ…そんな…ご配慮、誠に有難う御座います」
プリームスは怖々と尋ねる。
「それで……許可は貰えるのかな?」
これにジズオは慌てて答えた。
「あ…! 勿論です。聖女陛下の望まれるように為さって下さい」
居合わせた面々はホッと胸を撫で下ろす。
仮にジズオが不平や異議を口にすれば、自分達が武力で口を封じていた可能性があったからだ。
そんな事など主君が望まないのは重々承知している。
されど此処まで主君が謙って配慮したのだ、とても許せる訳が無いのも無論だ。
「じゃあ、早速やってみようと思う。見届けるかい?」
プリームスの提案に、ジズオは頷いた。
ここまで首を突っ込んだなら、最後まで付き合うのが道理と言うものだ。
プリームスはメディ.ロギオスへ目配せした。
すると彼は恭しく一礼した後、右手を会議卓の中央へ向けて掲げた。
「これからお見せするのは、聖女陛下が創造された他次元空間…言わば特殊な箱庭です。ですから皆さんには不可思議で理解不能かも知れませんが、ご了承下さい」
メディ.ロギオスの口振りに、永劫の騎士の武闘派が顔を顰めた。
「フンッ…」
特に武神ことクシフォスが不満そうに鼻で笑う始末だ。
それでも掴み掛からないのは、大人として十分に場を弁えているからだ。
一方、魔術師組のエテルノやアグノスは興味津々な表情を浮かべる。
魔術の極地に在るプリームスが如何なる奇跡を起こしたのか、また如何に起こすのか見たくて堪らないのだ。
掲げた右手でパチンッと指を鳴らすロギオス。
そうすると会議卓中央の宙に、直径2m大の水晶球が顕現する。
「これに映った光景が、聖女陛下の創造された他次元空間…箱庭です」
とロギオスが告げた刹那、水晶球に澄んだ青空と青々と茂った草原が映し出された。
「これが…創られた空間?!」
余の広大さと現実世界と変わらぬ景観に、ジズオは驚愕する。
そしてアグノスとエテルノも驚きを隠せないでいた。
「凄い…まるで世界その物みたい…」
「うん…恐らく物理法則も機能しているぽいね」
限定された空間を他次元に創造したのだから、当たり前だが端が有り壁が存在する。
しかし一見して箱庭と呼ぶ程、限られた空間には思えない。
正に叡智と魔術の極地に在るプリームスの成せる業だと言えた。
「今、こうして私の端末で映し出せているのは、聖女陛下から干渉の許可を得ているからです。本来なら私の能力を以ってしても困難でしょう」
このロギオスの言葉は、何人たりとも見る事さえ叶わない隔絶された絶対的な世界であると暗に告げていた。
「さて、ここからが本番ね…」
プリームスは2つの魔神核を見つめ、静かに呟いたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




