1318話・永劫と武國の秘密会合(2)
「許可…ですか?」
ジズオは怪訝そうに返した。
何故なら聖女王が、その立場にも拘らず下手に出たからだ。
「うん…私の一存で判断しても構わないのだけど、万が一の事を鑑みれば、ジズオ大人が知っていて尚且つ許可していた方が良いと思うの。勿論、許可出来ないなら他の方法を考えなくちゃいけないけど…」
随分と思わせ振りな言い様のプリームス。
これにジズオは安易に返答出来る訳が無い。
「え……そう仰られましても、何の事なのか分かりませんので…」
「フフッ…当然だよね。先ずは見て欲しいんだ」
そう返したプリームスは、傍に控えていたフィートへ目配せをした。
「承知しました…直ぐに、」
フィートは頷くと足早に入り口から出て行き、直ぐに戻って来た。
そして彼女の背後には、木箱を片腕で抱えた白衣の男が続く。
そうして白衣の男は、プリームスの前へソッと木箱を置き告げた。
「私はメディ.ロギオスです。お見知りおきを…」
『メディ.ロギオス…?!』
ジズオは非常に嫌な予感がした。
若干の見た目の違いは有るが、醸し出す雰囲気が列国に脅威認定された狂気の魔法医師に酷似していたのだ。
しかもメディ.ロギオスと名乗った…関係が有るのは明らかだろう。
それをロギオスは敏感に察しジズオへ告げる。
「ジズオ大人…貴女の危惧する処は理解出来ます。私は……痛いっ!?」
全て言い切る前にプリームスが蹴飛ばしたのだ。
「この者は卿の推測通りトゥレラ-ロギオスだ。色々有ってね…私が手懐けた訳だよ」
このプリームスの発言にジズオは当然驚愕するが、居合わせた面々も唖然とした。
何故ならメディ.ロギオスは複製体で、決してトゥレラ-ロギオスでは無いのだから。
また魔法医師の存在は伏せられており、言わば彼は裏の永劫の騎士…正に極秘戦力なのだった。
何より無駄な混乱や敵対心を抱かせない為、せっかくの機密事項だと言うのに、これでは台無しである。
などと思い心配になったアグノスは、ソッとプリームスへ囁いた。
「宜しいのですか…?」
「うん…いつかはトゥレラ-ロギオスを知っている者に露見するし、先ずは近場で試して見ようと思ってね」
「そうプリームス様が仰るなら私は構いませんが…」
伴侶の冷徹さにアグノスは半ば圧倒される。
つまる所それは、御し得ぬなら口封じしてしまえ…と言っているに等しいからだ。
「トゥレラ-ロギオス……」
一方、ジズオは驚きを隠せないでいた。
大陸中でも最強と称される剣聖を有し、更には列国に脅威認定された狂気の魔法医師まで臣下に加えているのだ。
明らかに常軌を逸した集団…否、戦力が過剰すぎる軍事国家と思えてならなかった。
「聖女陛下…宜しいですか?」
ロギオスが少し焦れたのか、これからの行為に承諾を求めた。
「ん? あぁ〜〜うん、お願い」
「では…」
ロギオスは会議卓に置いた木箱の上部を開く。
すると中には拳大の黒い球体が2個収納されていた。
「これは…?」
奇妙な物体を見せられたジズオは、言葉にし難い不安を覚える。
その球体から微かに感じる魔力…自分の目利きに間違いが無ければ、魔神核の可能性が高い。
加えて死滅した物では無く、まだ十分に存在力を維持しているようにも見えた。
「これは魔神王アニムスとギンレイ、それに奏怜刃の魔神核です」
「ま、魔神王の魔神核だと?!!」
然も大した事が無い風に告げるロギオスに、声を張り上げて聞き返してしまうジズオ。
更には魔神王を倒す為、依代である自分諸共に自死を選んだギンレイ…その魔神核が滅びずに存在する。
驚かない方が変だろう。
「はい…今まで秘匿していましたが、魔神王アニムスは存在力の一部を分離していたのです」
「分離…」
それが何を意味するかジズオは即座に理解する。
だが不可解な点も有る…存在は3つなのに、魔神核が2つしか見当たらない。
考えられるとすれば…。
「まさか…ギンレイさんと魔神王の存在力が癒着…いや、融合してしまった?!」
「ご明察通りです。流石は元魔教主…禁忌の世界には精通されているようで、中々に察しが宜しいですね」
このロギオスの言い様は、明らかに揶揄する風だ。
だが相手が相手だけにジズオは言い返せない…と言うか、出来れば余り相手をしたく無い。
「……」
そんな2人の遣り取りを余所に、プリームスは少し居住まいを正しジズオへ言った。
「この魔神核はメディ.ロギオスの処置で延命状態にあるが、このままでは何れ存在力を無くし消滅する。そこで私は2つの魔神核を私が生きている限り、恒久的に死滅しないよう処置するつもりなの」
「……! そんな事をすれば…」
目を見張るジズオ。
万が一にプリームスの制御を失えば、魔神核が野放しになる可能性が有る。
そうすれば何かの拍子に生物の肉体を奪い、魔神として復活し兼ねない。
「うん……ジズオ大人の危惧する所は分かる。でもね私が試そうとしている空間は、物質世界では無いんだ。まぁ魔神核自体が物質なのか精神体なのか、或いはその両方なのか怪しんだけどね」
「んん?! つまり我ら人間が暮らす世界に、万が一が有っても影響が出にくい空間で処置…と言う事ですか?」
「そうだね…端的に言えば、ジズオ大人の言った感じだよ。只、何も保証出来ない…そこを考慮して答えて欲しいんだ」
人間を滅ぼそうとする魔神の王。
そして魔神王に魂を売り、人間を裏切った奏怜刃。
この二者が死滅せず形はどうあれ生き永らえるのは、武王デンを敬愛していたジズオからすれば堪えがたい苦痛だ。
されど、その苦痛や不満を盾に、聖女王へ異を唱える権利が果たして自分に有るだろうか?
『無いわね……結局、私は何も出来なかったのだから』
そんな自分から許可を得ようとしているのは、聖女王が信義に厚く倫理観の強い為人だからだ。
ジズオは深く深呼吸をした後、プリームスへ尋ねる。
「聖女陛下は何の為に、そのような事を為さるのですか? やはりギンレイさんを失いたく無いからでしょうか?」
この問いに、居合わせた面々が僅かに騒めいた。
これは明かに公私混同を指摘する発言に聞こえるからであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




