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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1311話・天地創造

テュシアーがプリームスの手を取った刹那、身体が浮き上がる感覚を思えた。

否…実際に2人は跳ね上がるよう真上へ飛翔していた。

そして真っ暗だった世界が遠のくを目の当りにする。



「ハハッ……無意味だと思って飛ぶ事さえしなかったけど、この世界は意外と広かったのね」

自嘲するように呟くテュシアー。



「そうね…ここは私の深層意識の底だから。でも、現実世界はもっと広い。それを貴女に実感して欲しい」

このプリームスの声には切実な思いが込められていた。



だからこそテュシアーの中で不安が膨らんだ。

「まさか…自分を犠牲にして、私の居場所を作る気では無いわよね?」


1つの肉体に2つ以上の自我は共存できない。

仮に可能とするならば、それは片方が肉体の制御権を持ち得ない場所…深層意識の奥底へ身を置かねば為らない。

そう、テュシアーがしたように。

でなければ肉体の制御権を明渡すか奪うしかない…つまり何方か片方が消失するしか無いのだ。



「心配いらない…そんな重荷を背負わせる事なんてしない。それに私も生きて皆と幸せになりたいから…」



ここまで言われては、もう信用せざるを得ない。

それに結果がどうであろうと、既にテュシアーの中では後悔は無かった。

「分かったわ…もう何も口出ししない」



「フフッ…良い子ね」

プリームスはテュシアーの手を引いたまま、更に高く飛翔した。

目指すは僅かに穿った防壁の穴。

そこを越えて暴走の自我(アナテマ)を破壊するのだ。


しかし容易い事では無い。

因果の負属性の集合体…それが暴走の自我(アナテマ)だ。

プリームスの自我が浸食される程に強大な存在であり、故に深層意識へ閉じ籠るしかなかった。


『だが今は違う』

恐らくプリームスの身体を乗っ取って暴れ回り、因果の負属性を相当に消失させたに違いない。

そうでなければソロルとやらが穴を開け、更に防壁を越えて深層意識まで辿り着けなかった筈なのだ。



全身を圧迫する感覚が2人を包み、直後、水中から宙へ放たれた解放感を覚えた。



表層意識…そこは薄れかかった因果の負属性が漂う空間。



『やはり…』

暴走の自我(アナテマ)は消耗している。

放っておいても何れは消失するだろう。


それでも悠長に待っている訳には行かない。

『多分、今もイムレースが暴走の自我(アナテマ)を抑え込んでいるんだわ。それが無くなれば…』

抑制を失い再び暴走の自我(アナテマ)は活性化して暴れ回る。

そうなれば再度止める手立てが”外部”には無く、誰かが命を落とすのは目に見えていた。


『そんな事は絶対にさせない!!』

意を決したプリームスは”僅かな余力”を残し、持てる魔力を集束させる。



極大増幅陣トメーイギストー



『本来なら極大化だろうが対処する事は出来なかった。でも消耗した状態で内側からなら』

如何に強固で強大な因果の負属性でも、成す術など無い。



消滅・改ディスインテグレート・インプローブ



改良され、また極大化された消滅魔法は、数千…否、数万に及ぶ微細な黒球を生み出し、周囲に漂う因果の負属性を侵食し始める。

そうして暴走の自我(アナテマ)だった闇の集合体は、1分も経たずして消失したのだった。



だが、これからが問題だ。

暴走の自我(アナテマ)を消失させた以上、このまま悠長に精神体のまま漂っては居られない。

何故ならプリームスの肉体は制御を失っており、生命活動の維持も危ぶまれる状態に在るのだ。

つまり直ぐにでも身体に戻らねば、本当に死んでしまい兼ねない。


かと言って直ぐ戻る事も出来なかった。

今プリームスが肉体に戻れば、テュシアーは此処で消失するか、若しくは深層意識の底へ戻らねばならいからだ。



テュシアーが不安そうにプリームスを見つめた。



「大丈夫…絶対に成功させるから」

残していた僅かな余力を使い、プリームスは魔力の塊を具現化する。


これは脳に有る記憶野を模して作った物だ。

しかし、それよりも高度で複雑な仕組みを有し、最も近しい物質は"精神と記憶の精霊魔石"だろう。


そう…プリームスはクラージュの精霊憑きから切っ掛けを得た。

そうして擬似的に作り上げた"精神と記憶の精霊魔石"へ、テュシアーの自我を定着させる方法を思い付いたのだった。


『作るのは只の記録媒体では無い。テュシアーが自由を謳歌出来る広大な世界を!』

それが可能か否かは分からない、されど自信や確信など最早不要。

成さねばならぬ…それだけがプリームスを突き動かしていた。


『意識…脳の空間など高が知れている。なら、この物理法則に捕らわれない別の領域を利用するまでだ』

プリームスは魔術で形成した記憶媒体を、既に脳内へ作りだして利用しており、常人では不可能な魔法の並列発動が可能となっていた。

しかし、この記憶媒体では駄目だ…もう脳に”それ”を余分に置ける領域が無いからだ。


故に狂気の魔法医師(ルナメディクス)が…今ではメディ.ロギオスが使う超次元情報体ピブリオテーカーの仕組みを利用する。

以前では考えなかった機構…彼等に出会わなければ、今こうして挑戦する事は無かったに違いない。


この機構…情報体への干渉を逆に使い、”脳へ情報体からの干渉”を行うのだ。

そして他次元に構築した情報体こそがテュシアーの為の世界。



『成功してくれよ!』

極大増幅陣トメーイギストー

残り少ない魔力を強大化で補助、そこから複雑に織り成した魔法機構を発動させる。



天地創造ステレオーマ!!」



凄まじい演算負荷と魔力付加がプリームスを襲う。

かつてない程の物であり、絶望を感じさせるに十分な痛みだった。



体中から血が噴き出るのを感じる。

『くっ…! これを試すには消耗し過ぎていたか……』

万全な状態でも難しかっただろう。

だが魂を削ってでも成功させねば、テュシアー諸共に自分は滅びてしまう。



そんな時、繋いでいた左手から温かい魔力が流れ込んで来た。

「プリームス……私の魔力を使って」



「テュシアー……」

もう互いに余力は残って居ない。

それでも唯一人で力を使い切るよりは随分と良く思えた。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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