135話・「ヒュペリオーン」活動初日(3)
フィエルテにはスキエンティアから実践的な技術を学ぶように指示し、プリームスは一人でバリエンテ達が居る教室へ向かった。
因みにアグノスは理事長の業務を処理するとの事だ。
理事長代行はプリームスだと言うのに、それをアグノスに任せっきりなのは何とも申し訳ない所である。
『何かアグノスにご褒美をやらないとな』
そう思いつつ教室までやって来るプリームス。
すると教室の外にバリエンテ、イディオトロピア、ノイーギアの3人が待っていた。
「おはよう、プリームスさん」
「おはよう」
「おはようございます」
初日からやる気満々の3人にプリームスは感心する。
学園内では異端扱いされているバリエンテ達なのた。
不安で一杯かと思っていたが、杞憂だったようだ。
「おはよう。3人とも随分とやる気があるようだな。なら早速野外演習場へ行こうか」
プリームスのその言葉に少し困ったような表情を見せるバリエンテ。
「アグノス王女が寮の部屋にまで来てな・・・早朝にだぞ! それで団体結成の認証書と、演習場の使用許可証を置いて行ったんだ」
イディオトロピアも嬉しいような、困ったような複雑な表情を浮かべて続く。
「理事長補佐の王女様直々にだよ。流石に恐縮してしまったわ」
確かに普通は会う事も話すことも出来ない王族が、自分達の為に訪ねて来たのだから恐縮ぐらいするだろう。
しかし何か少し様子が違うように思えた。
故にプリームスは悪戯顔で3人に尋ねる。
「アグノス王女に何か言われたのかね?」
バリエンテとイディオトロピアが顔を見合わせて言い淀む。
「う~ん」
そうするとノイーギアが2人に代わって答えてくれた。
「実はですね、プリームスさんの手を煩わせているのだから、必ず結果をだしなさい・・・と言われまして」
『成程、アグノスめ・・・余計な事を言いおって』
プリームスは内心でぼやいてしまった。
アグノスからすれば、この3人への激励だったのかもしれない。
また素直にプリームスの狙いが上手く行くように、バリエンテ達へ念を押しに行ったとも言えるだろう。
だがそれが余計な事なのだ。
バリエンテ達が受動的では無く、自発的に動くことに意味があるのだから。
「プリームスさんは一体何者なんだ? 外部の人間だと言うのに、実例が無いような下級学部の団体結成を許可させるし・・・気になって仕方がない」
とバリエンテが不思議そうにプリームスを見つめて言った。
ノイーギアも首を傾げる。
「そうですね・・・。アグノス王女も随分とプリームス様に気を使ってらっしゃるみたいですし。どう言ったご関係なんですか?」
なんですか?、などと訊かれて素直に答えられる訳が無い。
そもそもプリームスが理事長代行と言う事を語る訳にもいかないし、アグノスとの関係も説明し難いのだ。
するとイディオトロピアが、バリエンテとノイーギアへ笑いかけながら言う。
「まぁ良いじゃない。気になるけど私達を助けてくれようとしているのは確かだし、それにプリームスさんも言い難そうにしてるでしょ」
イディオトロピアは割り切って行動する性格のようだ。
道理や訳、そして経緯など重要ではあるが、時にはこうして損得の天秤を端的に判断できる者が必要になって来る。
感情面に囚われ過ぎない冷静な人間は、組織に必ず1人は居るべきなのだ。
「済まないね、事が順調に進んで私の考える状況まで到達したなら、話せることも出てくるだろう。それまで我慢してくれ」
そうプリームスが告げると、3人は苦笑して頷いた。
それから4人で野外演習場へ向かう。
少し気になった事があり、学園敷地内を歩きながらプリームスはバリエンテへ尋ねた。
「教室の講師には何も言われなかったのかね? 授業を放って学部外活動なのだからな」
「それに関しては心配ない。中級学部から上の講師には、俺達の印象がかなり悪く持たれているが、下級学部の講師にはそうでも無いんだよ。それに王女から貰った認証書も見せて納得してもらったしな」
と嬉しそうにバリエンテは告げる。
「そうか・・・ならば結果を出して自分達の立場と、下級学部の待遇も改善できるようにせんとな」
プリームスの言葉にノイーギアが不安そうな顔をして言った。
「そう言われましても・・・実際どうすればいいのでしょうか? 一応バリエンテが活動の目標と内容を立ててはいますが、それ通りにして何がどうなってしまうのか、さっぱりで」
ノイーギアの言っている事は最もである。
取り合えず第一段階程度は、詳しく説明しておいて問題無いだろう。
「君達はこの学園では異端だからな。それを上手く利用して、中級上級の団体を煽ってやれ。まぁ露骨に煽る必要は無い・・・絡まれたら煽ってやるといい」
などとプリームスが言うものだから、バリエンテ達は嫌そうな顔をした。
詰まり諍いをわざと起こせと言っている様なものなのだ。
既に目を付けられている立場とは言え、嫌な物は嫌だろう。
何だか楽しくなってきてプリームスは笑みが零れてしまう。
自分が考えた企みが、どのように進展するか楽しみなのだ。
そんなプリームスの様子を見て、バリエンテ達は失敗する不安よりも、何をさせられるのかという不安に苛まれてしまう。
どちらにしろ乗ってしまった船なのだ、もう降りる事は出来ない。
そう考えると腹を括るしか無いのであった。




