1306話・テュシアーの世界
アグノスとクラージュの意識に広がる闇の世界。
それは恰も実際に体験したような感覚を2人に覚えさせた。
「な、何?! この真っ暗な世界は?!」
不安になり周囲を見渡すアグノス。
だが辛うじて空と地面の境界が視認出来るだけで、その他に何も無く不安ばかりが募る。
真後ろに居たクラージュが言った。
「ここって…ひょっとしてプリームス様の意識の中?!」
「そんな……」
自分達以外は何も無く只々空虚が広がる世界に、アグノスは絶望に似た何かを感じた。
『こんな場所にプリームス様は一人で……』
これがプリームスの潜在意識の世界なら、余りにも虚無で孤独だ。
それだけギンレイの死に絶望したのは明白だった。
「まさか此処に他者が侵入しようとはな…」
背後からプリームスの声が聞こえた。
「「プリームス様!?」」
慌てて振り返るアグノスとクラージュ。
「プリームス? 違う…私はテュシアーだ」
プリームスと瓜二つな容姿で同じ声、そして真っ白なワンピースだけを身に纏っていた。
だが雰囲気は全く異なりクラージュは困惑する。
『テュシアー…?!』
一方、アグノスは直ぐに察する…目の前の存在が暴走したプリームスの別の自我だと。
「テュシアー…私はプリームス様を取り戻しに来ました。邪魔はさせません!」
「取り戻しに来た? 邪魔はさせないだと?」
明らかに不快感を示すテュシアー。
そんなテュシアーを見て、アグノスは不思議に思う。
『変ね…ある程度は覚悟してたけど大人し過ぎる…』
暴走している状態の様に、無差別に攻撃を仕掛けてくると想定していたのだ。
「此処は私とプリームスの世界…邪魔をしているのは貴様等だ。それに取り戻すなど烏滸がましい…それこそプリームス自身が決める事よ」
テュシアーから非常に真っ当な反論が返ってきて、アグノスは驚かされる。
「……」
『やっぱり…思った以上に理知的だわ』
気に食わないなら、強引に力で排除すれば済む筈。
なのに対話をしてくるのは…。
『まさか、此処では大した力が使えない?』
他にも可能性は有るが、それが一番有力にアグノスは思えた。
なら、こちらから強引に迫るだけだ。
「テュシアー…貴女の言い分は尤もよ。でもプリームス様が決める事なら、貴女も口出し無用! 私達が直接会ってプリームス様に確認します」
テュシアーの舌打ちする音が聞こえた。
しかし武力行使する様子は一切窺えない。
「……プリームス様は何処ですか?」
「……」
アグノスの問いに、テュシアーは黙ったままだ。
問いに対して黙ると言う事は、此方が必要とする答えを持っている可能性が大きい。
そうなると口を割らせるのが手っ取り早いだろう。
『気が進まないけど、強引に出るしか無いか…』
アグノスは意を決した。
「クラージュ姫…テュシアーからプリームス様の居場所を聞き出して下さい。多少、手荒な真似も構いません」
「えっ…?!」
目を丸くするクラージュ。
「何故に私が?!」と言いたげそうな顔である。
「プリームス様を閉じ込めている張本人が、このテュシアーかも知れません。なら強引に吐かせるしかないでしょう?」
アグノスらしからぬ言い様に、クラージュは困惑する。
「え…で、でも…」
するとアグノスは険しい表情で囁いた。
「時間が有りません…このまま無為に浪費すれば、それだけソロルさんに負担が掛かります」
『そうだった!』
此処には自分達の力で来た訳では無い。
ソロルが身を呈して此処へ送り込んでくれたのだ。
「分かりました…」
しかしながら、この意識世界で武力行使など出来るのだろうか?
そんな不安を抱えつつクラージュはテュシアーへ迫った。
「テュシアーさん…プリームス様の居場所を知っているのでしょう?」
「……」
この問いには相変わらず無言のテュシアー。
『成程…そう言う事か』
アグノスの中で1つ確信に近い仮説が立った。
テュシアーはプリームスを隠す能力は有るが、外敵に対する武力を有していない。
恐らく暴走の力を使う事へ、殆どの能力を割いているからだろう。
「クラージュ姫、少し痛め付けてあげなさい」
そう指示するアグノスだが、見た目がプリームスと瓜二つなだけに胸が痛くなってしまう。
拷問?役となったクラージュも、それは例外では無かった。
『うぅぅ…痛め付けるなんて出来ないよ…』
だがテュシアーへ情けを掛けても、切迫している状況が改善される筈も無い。
これは飽く迄もクラージュが勝手に抱いた情動なのだ。
故にクラージュは心を鬼にして行動に出る。
取り敢えず不用意に触れて痛い反撃は御免だ…なので剣の鞘で肩を小突く事にした。
『えいっ!』
そうすると左肩を突かれたテュシアーは、ヨタヨタとタタラを踏んだ。
「うっ…」
『えぇぇ?! 無防備だし弱過ぎない?!』
見た目通りの弱さに、クラージュは呆気に取られる。
そう、プリームスは身長150cmで非常に華奢なのだ。
それを模倣?した姿のテュシアーが肉体的に強い訳が無い。
「クラージュ姫、続けて!」
「は、はい…」
アグノスに発破を掛けられ、クラージュは泣く泣く拷問を続ける。
『痛いのは嫌だから…転かそう』
女子に対して突いたり叩いたりするのは、正直嫌で仕方が無い。
そうなると出来る事は転倒させて、上から圧力を掛けるしかないだろう。
『えいっ!』
次は素早くテュシアーの足を払うクラージュ。
これにテュシアーは絵に描いた如く体が宙に浮き、「あぅ!?」と声を漏らす。
そして背中から地面に落ちた所為か、「けふっ!」と可愛らしい悲鳴をあげた。
「だ、大丈夫ですか!!?」と声を出しそうになるのをクラージュは何とか堪える。
『あぶぶっ!!』
ここで心配しては拷問の意味がない。
一方、少し離れた位置で見ていたアグノスは、ワタワタと妙な動きをしてしまう。
『ちょっ!? こんな無防備なプリームス様を見たのは初めてだわ!』
実際はプリームスでは無いが、見た目がプリームスなだけに錯覚に陥ってしまったのだった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




